第31話
「吹けば消える灯火だなんて、たかがギルドマスターが全ての貴族を敵に回すつもりかよ!」
「事実を言ったまでだ。本気で俺に歯向かおうなんて貴族、この国に何人いるかな?」
ドラ子さんは牙を見せながら不敵に笑う。その笑みは味方であるはずの俺の背筋も凍らせた。
「ドラ子さん楽しそう」
イスカにはあれが見て楽しそうに見えるのか……俺はあの笑みの対象が自分の国に向けられてるようで戦々恐々だ。
「自慢の武器は無くなったがやり返すのは終わりか?」
「くそっ!」
ヨハンはパーティメンバーの元に下がっていく。どうやら観念したようだ。
「じゃれつく程度ならお仕置きは必要ない、終わったんなら俺たちは先に行かせてもらうぞ」
「じゃれつくだと!」
ドラ子さんは金の剣の横を横切ろうとする。
俺とイスカもそれに続こうとドラ子さんに近づいた瞬間金の剣は隠し持っていたアイテムを地面に投げつけた。
「だったらこれはどうだ!モンスターのギルドマスターさんよ!」
「なに!?」
どうやら投げたのはモンスターとの戦闘を逃れるための煙玉。辺りは煙に包まれる。
「ごほっ何も見えない……イスカ!」
俺はとにかくイスカに巻き添えが行かないようイスカに近づいた。
「スキル、捕縛ネット!」
どこからともなく女の声がスキル名を叫んだ。
「なんだ!」
次の瞬間、俺とイスカは二人同時に縛られてそのまま担ぎあげられる。
煙の中で見たのは俺たちを持ち上げる金の剣のフルアーマーの男だった。
「んー!」
スキルで口も縛られて大声も出すことができない、そのまま俺とイスカは金の剣のパーティと共に魔力溜りに入ってしまった。
***
「くっ小癪な!」
ドラ子は乱暴に腕を振ると、その風圧で煙が一瞬で晴れる。だがすでに目の前には金の剣どころかイスカとダンクの姿も無くなっていた。
投げられた煙玉の効果はドラゴンである彼女にも一瞬だが通用し、金の剣がイスカとダンクを連れ逃げる時間を作ってしまった。
「確かあいつらは右側に動いたはずだが……」
しかし右側には三つの魔力溜りが並んでいた、しかもそのうち二つは戻る事の出来ない薄い魔力溜り。
「三分の一、いや奴らはわざわざイスカたちを連れ去ったんだ。逃がさない為にも戻れないものを選ぶだろう。だったら二分の一。細かく思い出せ、奴らどんな動きをした?」
ドラ子は目を閉じ細かい気配の動きを思い出す。
「こっちだな!」
そうして一番右の魔力溜りに入った、しかし目の前にはさらなる魔力溜りが二つ。そして道が続いておりその奥にもまだ複数の魔力溜りがあるだろうことは誰の目にも明らかだった。
「俺は馬鹿か!移動した先にも魔力溜りがある、追いつかれないためにどんどん移動してるに決まってるじゃねーか!このままじゃマズい……イスカぁ!」
その場にドラ子の叫びがこだました。
***
俺たちは担がれながらもう五回も魔力溜りで移動していた。
「はは、やったぞあの生意気なギルドマスターに一泡吹かせてやった!」
金の剣たちは俺たちを置いてパーティで歓声を上げていた。
「こんなに移動したんだ、あのドラゴンでもそう簡単に追いつけないだろう。やっぱりモンスターにはモンスターから逃げる煙玉は有効だったみたいだな」
「こいつらどうする?」
「適当な魔力溜に入れとけ、その後俺たちはとんずらだ」
「そりゃいくら何でもやり過ぎだろう、まだ小さな子供もいる。ここはギルドマスターを出し抜いたって事で怒りを収めたらどうだ?」
俺たちを運んだフルアーマーの男はヨハンを止めようとする。けどヨハンは仲間の静止も聞かず俺とイスカに近づいてきた。
「これが貴族を怒らせた結果だ。それにここからの結果はこいつらの実力次第。ああ、縛ったままだと俺たちの責任になるから……。おい、こいつらの捕縛を解いてやれ」
ハンターの女は俺たちを捕縛していたスキルを解いた。その瞬間俺はイスカを抱き寄せ鍋を構えた。
「おいおいその鍋が盾代わりかよ、おかしなパーティと思ってたがここまでとはな」
「ヨハン、もういいだろう?これ以上何かするのはさすがにマズい、さっさとダンジョン降りようぜ」
仲間の説得も無視してヨハンは俺たちに近づいてくる、けど今の俺たちにはCランク冒険者を止められる術はなく容易に接近を許してしまう。
「俺はな、大したレベルでもないのにこんな所まで来ちまったこいつらも気に食わねえんだ」
「確かに俺たちのレベルはこの階に合ってない、けどこっちにも事情があるんだ。あんたたちにとやかく言われる筋合いはない!」
俺は迫って来たヨハンに言い返す。
「そうかい、だったらこの階で通用しない自分たちの力を呪えよな!」
「おいヨハン止めろ!シャレにならないぞ」
「やるのは俺じゃねえモンスターだ」
ヨハンは俺の鍋に蹴りを入れる。俺自身にダメージはない。けどヨハンの力は思いのほか強く、俺とイスカの身体は後ろへ吹っ飛ばされた。そしてその先には薄い魔力溜りがあった。
「しまった!」
「ダンク!その魔力は!」
それはもうここへは戻れない薄い一方通行の魔力溜。
イスカが叫ぶが既に遅い、俺たちは薄い魔力溜りによって移動させられてしまった。
一瞬の平衡感覚の消失の後視界が開ける、目の前には多数のモンスターが立っていた。
「ま、まさかここは……モンスタートラップ!」
入ったのは薄い魔力溜りだから帰り道はない、これは本当にヤバイ!
「イスカ!バフを!スキル、プロテクト!」
「ディフェンスブースト!」
考える間もなく俺はイスカを守るため前に出る。
イスカはすぐにが防御のバフをかけてくれた。
モンスターに気づかれる前に準備は何とか間に合った、元々鍋を構えていたのも大きい。
そして俺たちに気づいたモンスターの一斉攻撃が始まる。
「ぐっ!攻撃が重い……腕が潰されそうだ!」
何とか攻撃をしのいだがモンスターの猛攻は途切れることは無く、ガードするので精一杯だ。
今の俺たちは攻撃力がないに等しい、この状況を打開するにはドラ子さんを頼るしかない。
俺はモンスターの攻撃をガードし続けながら攻撃が止まる合間、一瞬だけ口笛を吹く。
何とか攻撃を防いでいると、奥から恐らくこの中でも一番強いであろう翼の生えたネコ科のモンスターが巨大な炎のブレスを放った。
「マズい!インターセプト!ブレイブガード!うおぉぉぉ!」
炎がイスカに当たらないように何とかガードする。
巨大な炎は周りのモンスターまで巻き込み敵の数を減らしてくれた。
何とか炎を耐え切り安堵するも次の瞬間、横から風の魔法が飛んでくる。
インターセプトのスキルのおかげでイスカには当たらなかったが、俺がモロに魔法を食らってしまった。
「ぐあっ!こ、これは……」
「ダンク!リジェネレート!」
イスカの魔法で徐々に回復していくがモンスターが止まってくれる訳もなく攻撃は続く。
俺はダメージが完全に回復しきる間もなくすぐに体勢を立て直した。だけど……これじゃキリがない。削りきられるのも時間の問題だ。
「アタックブースト!」
「アタックガード!ミラーガード!」
小型モンスターの軽い攻撃なら反射させて返すことができた。
問題は大型モンスターの攻撃だ、今の俺じゃこの階の大型モンスターの攻撃は重すぎて完全にガードすることは出来ない。
モンスタートラップはこの場にいるモンスターを全滅させるまで逃げ場はない、攻撃力のない俺たちは完全に膠着状態に陥った。




