第30話
「他の魔力溜りとの違いが分からないか……」
ここにある魔力溜りは三つ、イスカはその全てが気になると言う。
「多分二つは上の階に上がるもの、一つは下がるものだと思う」
「三分の一か」
俺がそう言葉にするとドラ子さんはダンジョンの奥を指しながら言った。
「いや、まだ道は続いてる。選択肢はまだ増えるかもしれないぞ」
それから十分ほどモンスターを倒しながら進む。すると壁に囲まれた広間にたどり着いた。
「行き止まりだな。イスカ、ここまで変わった魔力溜りはどれくらいあった?」
「いっぱい……どれも今まで以上に特徴違うし大きさもバラバラ、もう見ただけじゃ分からないかも」
「そうか、じゃあここからはイスカが入りたいって思う魔力溜りに入ろう」
「わたしの?」
イスカはきょとんとしながら自分を指さした。
「正直もう俺の勘は役に立たん、だからこの階層はイスカの勘と感覚を信じる。どの道踏破型のダンジョンギミックなんだ、当たらなくて当然って考えるんだ」
「結局イスカに丸投げってことじゃないですか」
「ダンク……仲間を頼るってことも冒険者には必要だ」
間違ってはいないのだがなんだかいい言葉でごまかされた気がする。
それはともかくここからは更にイスカの選択が重要になる。プレッシャーになってないか心配してイスカを見てみるが……。
「どれにしようかなー」
うん、これ心配いらないやつだな。イスカは道を自分で選べるのがうれしいのかウキウキで進む魔力溜りを選んでいた。
「せめてヒントか階段へ行く目印なんかがあればいいんですけどねー」
「望み薄だな、多分このダンジョンの主。イスカの家族は一定の階から冒険者を上がらせる気はないんだろう。特にこの階層はマッピングも意味がないことを考えるとかなりの難易度だ、長い間このダンジョンがクリアされなかったのはこの階層のせいだろ」
ドラ子さんがここまで言うなんて、そこまで難易度高いのか。
「だが俺はドラゴンでイスカはこのダンジョンの主の娘、普通の人間ではないから攻略はいくらか容易なはずだ」
拳を握りながらドラ子さんは力説する、けどやってることがイスカへの丸投げだからカッコつかないなぁ。
でも確かにこの二人なら何とかできそうだ。俺は普通の人間だからついて行くので精いっぱいだけどね。
「じゃあこれ入ってみよう」
入る場所を選んだイスカは少し離れた魔力溜りの前にいた。行く気満々だな。
「普通の魔力溜りか、これなら何かあっても引き返せるな。よし、じゃあ行くぞ」
ドラ子さんを先頭に俺たちはイスカが決めた魔力溜りに入った。
まずはモンスターの警戒、危険はないことを確かめるとそのまま道なりに進む。そうして行き止まりまで歩き、再びイスカの選んだ魔力溜りへ入るという工程を繰り返した。
それから三時間後、俺たちはやっと次の階の階段へたどり着いた。
「ふう、これでやっと一階か。かなり効率が落ちるな……」
「ごめん、わたしがもっと正解の道を分かれば早くなるのに」
魔力溜りは結構な数で、しかもルート確認のため何度も同じ魔力溜りに入ることもある。
その上片道の魔力溜りもあるしで時間はかかるのは明らかに誰のせいでもなかった。
でもイスカは時間がかかったことに落ち込んでいるようだった。
「イスカのせいじゃないよ、むしろあの数の魔力溜りなら早い方かも」
「だな、俺たちは魔力溜りの細かい違いが分からないから少しでもヒントがあるのはありがたいんだ」
「ううん、もっと早く攻略できるようにがんばる!」
どう頑張るかは分からないけどイスカはよりやる気を出した。
「その意気だ、次の階も頼んだぞ」
ドラ子さんはイスカの頭をなでる、けど二人は同じような身長だから傍から見るとなんだかおかしな感じだな。
そんなこんなで次の階へ上り72階に足を踏み入れる。すると目の前にはまたも魔力溜り、イスカはその魔力溜りを見ようと前に出る、するとドラ子さんがこそっと俺に話しかけて来た。
「ダンク、このペースで食料は大丈夫か?」
「俺もそこ気になってました、これからこのペースが続くとちょっとマズいかもしれません」
「だが正直早く進めるかは運次第だし、もしかしたら71階より進むのが遅くなるかもしれない」
「ダンジョンを降りる時のことを考えるとそろそろ引き返す時期ですよ」
「……そう言えば降りる時のことは考えてなかったな」
え、なんか今聞いてはいけない言葉を聞いた気がするな。
「いやー俺だけなら飲まず食わずで降りられるけど……そうか、イスカを送ってもお前が居たか」
「えぇ……ダンジョンから戻る途中で飢えるなんて嫌ですよ」
「だ、大丈夫だ。イスカを送れば帰りの食料くらいイスカの両親から分けて貰えるはずだ、たぶん……」
「そんな曖昧な……」
「信じろ、イスカの両親を!」
あくまでもドラ子さんは断言しなかった、これ本当に大丈夫かなぁ。
どちらにしてもここでの失速は結構怖いものがある。
何とかペースが上がれば良いんだけど現状イスカを頼るしかない。
「とにかく今は進むしかないか……頑張れイスカ!」
「ヴィ!」
俺たちは72階の攻略を始める。
ドラ子さんが先頭でモンスターを倒し、その後イスカが魔力溜りを観察するという作業が続く。
幾つもの魔力溜りを通り、先へ進めているのかも分からないまま攻略を続けた。そして数時間後――。
「こっちはキラキラしてて上に行くけどこっちののぺーってしてるのは下に行くと思う」
「ここはおそらく72階より上の階だから下に行く方が良いんじゃないか?」
「うーんそうなのかなー、でもキラキラだしなー」
イスカとドラ子さんはよく分からない会話をしながら行き先を決める。どうやらキラキラの方に入るみたいだな。
いつものように俺たちは一斉に魔力溜りに入った。
「ん?この気配は……」
移動した先でドラ子さんは目を細めつぶやいた。
「どうしたんですか?」
「ここには見知った顔が居るな」
「他の冒険者ってことですか?」
「ああ、金の剣だ」
「げっあいつらまだダンジョンにいたんですね……」
「様子を見たいからこのまま先へ進むぞ」
「は、はい」
嫌がらせで他の冒険者に迷惑をかけていたパーティ金の剣。
ドラ子さんにイエローカードっていうペナルティを受けてもまだダンジョンを降りてなかったのか、一体こんな所で何をしてるんだ?
俺はちょっとビビりながらもドラ子さんの後について行く。
到着したのは程よく開けた場所だった。周りには数個の魔力溜りがあり、その最奥には俺でも分かる程大きな魔力溜りがあった。
恐らくあれが次の階へ行くための階段に続いている魔力溜りだろう。
その魔力溜りの前、金の剣は誰も通さないよう守るような形で座っていた。
ドラ子さんは堂々と金の剣の前に行って話す。
「まさか俺たちより先にここまで来ているなんてな」
ドラ子さんの登場に金の剣のメンバーは立ち上がり、金髪のリーダーは前に出てきて返す。
「これでもCランクなんだ、それに俺たちが何か月このダンジョンに挑んでると思ってるんだ?この辺までなら手早く攻略は出来る」
「意外と優秀なんだな、腐ってもCランクってところか。その奥の魔力は次の階に行けるやつだな?きちんと反省してるならなんもしないぞ?」
「俺たちはあんたが来るのを待ってたんだよ。あんな屈辱は受けたことがねえ、やり返さなきゃ腹の虫が収まらねえからな!」
金の剣のリーダーは剣を抜く、前に見たのと違う剣だな、しかもだいぶ大きい。
「ドラゴン特効が着いた武器、ドラゴンバスターだ!今度は負けねえぞ!」
威勢よく叫ぶ金の剣のリーダーを前にドラ子さんは大きな溜息をついた。
「はぁ、お前らみたいな奴はちょくちょく出てくるが今まで更生した奴を見たことはない。冒険者ってのは力を持つからか勘違いする奴が出てくるのが困りどころだなぁ」
「俺たちをその辺の雑魚と一緒にするんじゃねぇ!力以外にも権力だって持ってる、俺は貴族の息子だぞ!」
金の剣のリーダーはそう言ってドラ子さんに斬りかかる。ドラ子さんはその攻撃を躱し俺は急いでイスカを下がらせた。
「巻き込まれないようこっちへ!」
「ヴィ!」
俺たちが下がった後も金の剣のリーダーの攻撃は続きドラ子さんはその全てを回避する。
「くっなんで当たらねえ、当たりさえすればお前なんか……」
「武器が立派でも腕前がその程度じゃな。お貴族様、名前はなんだ?」
「俺はベンツィード家が三男、ヨハン・ベンツィードだ!」
「ああ、あのボンボンの伯爵家か。あそこなら確かにお前みたいな世間知らず出てきても不思議じゃないな」
「たかがギルドマスターが、不敬だぞ!」
ヨハンはドラゴンバスターを思い切り振り下ろす、だがドラ子さんはたやすく躱しその上ヨハンのドラゴンバスターを踏みつけた。
「いい事教えてやるよ、俺にとってこの国の貴族なんてのは全て吹けば消える灯火も同然なんだよ」
そう言いながらドラ子さんはヨハンの持つドラゴンバスターを踏み抜いた、高い金属の音が辺りに響いてドラゴンバスターは呆気なく根元から折れてしまう。
それを見てヨハンは驚愕する。
「お、俺の武器が!」
ドラ子さんには特効がある武器も効かないのか……本当に恐ろしいドラゴンだ。




