第29話
69階で一泊した後、俺たちはイスカの導きの下、順調にダンジョンを進み無事70階のボスを倒す。
ドラ子さんの力にかかればボスは簡単だ、だけどなぜかまたしてもトドメは俺が刺すことになった。そして現在71階。
「なんでブレイブガード覚えたのにボスのトドメは俺なんですかね」
「いやー悪い、癖でつい。気付いたらお前の方に飛ばしてたんだ」
「いきなりでびっくりしましたよ。おかげでレベルは上がりましたが……」
ドラ子さんと話す俺はギルドカードを見ながら歩く。カードに書かれたレベルは48となっていた。
「こうしてみるとだいぶレベルが上がったな。このレベルだともうEランクは無理がある。この依頼が終わったらギルドに行け、確実に冒険者ランクが上がるぞ」
「わ、わかりました」
俺とドラ子さんはそんなことを話しているとイスカが自分のギルドカードを見て残念そうにつぶやいた。
「あーあダンクに追い越されちゃった……」
「……」
イスカの持つギルドカードに書かれているレベルは44、これは俺はなんて声をかければいいんだろうか。迷っているとドラ子さんがイスカにやさしく言う。
「残念がることはない、むしろ今まで追い越せなかったのがおかしいんだ。よっぽどイスカには才能があるんだろうなぁ」
「でも悔しいよー」
「まぁまぁ、ダンクはレベルを上げなかったら命にかかわるからな。許してやってくれ」
「しょうがないなぁ」
何を許されたのかは分からないが、イスカの機嫌が戻ったから良しとしよう。
さて、話も一段落ついてこれから先へ進もうと71階に一歩踏み出す。だけど踏み出した瞬間いきなり体が重くなった。
「うっ、なんだ……」
続いて一歩前に出たドラ子さんとイスカも違和感を感じたのか足が止まる。
「む、これは……」
「な、なんですかね。体が重く感じるんですが」
「……単純に下の階層より魔力が濃いんだ、普段から魔法をコントロールしている俺は問題ないしイスカもそうだろ?」
「うん、全然へっちゃら」
「でも魔力があんまりないダンクはきついか?体調はどうだ?」
なんだ、やけに心配してくれるな。それにしてもこの重さドラ子さんたちにはあんまり感じてないのか。まあ歩けないって程じゃない、これくらいならいずれ慣れるだろう。
「言った通り体が重く感じるだけで許容範囲内ですよ」
「それなら問題ないが……体調悪くなったらすぐ言えよ?ここも魔力溜りがあるだろうから頼んだぞイスカ」
ドラ子さんに声をかけられたイスカだったけどその顔は何やら険しかった。
その目線の先には魔力溜りがあった。
「イスカ?」
「ドラ子さん、今回はそううまくいかないかも……」
イスカはそう言って魔力溜りを指す。
俺には下の階層よりもすこし大きいということくらいしか分からなかった。ドラ子さんも同じなのか魔力溜りを見て首をかしげていた。
「どういうことだ?」
「この階層の魔力溜り、別の階に繋がってるかもしれない」
「それは……全く違う階に飛ばされるかもしれないって事か?」
「たぶん、魔力溜りがある階層だけだと思うけど……」
イスカは魔力溜りを観察しながら憶測を述べる。
「うーむ、まずは入って確かめてみるか」
「待って、その魔力溜り薄いの」
「なんだって」
ドラ子さんは魔力溜りに近づかないようぐるっと回り込んでみる。
「ということはこれ、一方通行の魔力溜りか……入るのは流石にリスクが高すぎるな。まずは確実に今までと同じようにイスカに階段の方へ繋がっている魔力溜りを探してもらって先へ進もう」
こうして俺たちは今まで通りイスカに先導してもらいながら魔力溜りを利用して先へ進む。だがすぐにそれも通用しなくなった。
72階、俺たちはダンジョンの中を彷徨っていた。
ドラ子さんはあらかじめ階段のある方角をイスカに教えている、しかしいつまでたってもそこへ向かう魔力溜りが見つからないのだ。
おかげでイスカは目をギンギンにさせながら唸っていてちょっと怖い状態になっている。
「うーんあれでもないしこれでもないし……」
「……少し休むか」
「そうですね」
ドラ子さんの威圧で周囲のモンスターを遠ざけた後、俺たちは敷物を敷いてその上に座る。
再び簡易的なお茶会の始まりだ。
お茶の葉は乾燥させてるので日持ちする。そして今日のお菓子はヌガー、ナッツをハチミツで煮詰め固めたお菓子だ。
「まさかこんな所でこんなお菓子が出てくるとは」
「ウマー」
「長期保存できるお菓子はダンジョンに入る前に幾つか作っておきましたからね」
そうしてお茶を口にする。優雅なひと時だ。
「いや、こんなのんびりお茶しばいてる場合じゃない。これからどうするかだ」
「どうするかって言ってももう安全そうな魔力溜りは全部入ったよ?やっぱり階を移動する魔力溜りに入るしかないと思う」
ドラ子さんの言葉にイスカが続いた。
「あの……」
俺は疑問があり手を上げる。
「どうした?」
「階を移動できる魔力溜りでそのまま上って行くことってできないんですか?」
俺の質問に珍しくドラ子さんは苦笑いしながら答えてくれた。
「レベルは上がってもそういう所はまだ初心者か。いいか、ダンジョンにおいて信じていいのは次に上る階段だけだ。この魔力溜りで階を移動し続けてもこの階層は攻略できることはない」
「そうですか……」
「そしてこれは多分踏破型のダンジョンギミックだな、この階は当たりを引くまで魔力溜りを探さなきゃいけないやつだ」
「でも俺たちにそんな悠長にしている時間はないですよね」
「そうなんだよなぁ……だが仕方がない。地道に、だがなるべく急いで攻略していくか。まずはイスカ、今まで見た中で気になる魔力溜りはあったか?」
「それなら……」
俺たちはあたりを片付けた後、ドラ子さんを先頭に、イスカの言う通りの道を辿った。そして現れたのは大きく薄い魔力溜り。
「薄い、よりによって片道か……」
「当たりかどうか分からないけどこれは縦に魔力が伸びてて行き先は上の階だと思う、あとは他の魔力溜りよりキラキラしてるから気になったんだけど」
イスカに説明されて俺とドラ子さんは魔力溜りをしっかり観察する、けれどやっぱりキラキラは見えなかった。
「うーん分からん。けど今はイスカの感覚が頼りだ。本当は先に戻ってこれる魔力溜りから行きたかったんだが……行ってみるか!」
「うん!」
「よし、じゃあみんなせーので入るぞ。せーの!」
俺たちは一斉に魔力溜りに飛び込んだ。魔力溜り特有の平衡感覚消失の後、次の瞬間には全く別の場所に移っていた。
俺は警戒する為盾を構える。ドラ子さんも周囲を注意深く伺っているようだ。
「うん、モンスターの気配はないな。そして……」
ドラ子さんは後ろを見る、やはりそこには戻るための魔力溜りは無かった。
「引き返せなくなったな、なるべく安全に行きたかったんだが仕方ないか」
ドラ子さんがここまで言うなんて、俺もなんだか緊張してきた。
そこからはドラ子さんを先頭にイスカが魔力溜りを観察しながら進む。当然モンスターともエンカウントするのだが――。
「やっぱりさっきまで戦っていたモンスターと種類も違って強くなってるな。明らかに別の階に飛ばされたって感じだ。こりゃ並みの冒険者には大変だろうな、通りで七年も未攻略な訳だ。イスカ、ここらの魔力溜りを見てくれ」
モンスターを瞬殺した後ドラ子さんはイスカに魔力溜りの観察を頼む。
手持ち無沙汰な俺はさっきのドラ子さんの言葉が気になったから質問する。
「ここってそんなに長い間攻略されてないんですね、もしかして攻略不可のダンジョンなんですか?」
「まあ今まで攻略者がいないのは確かだな」
「じゃあ最初にこのダンジョン選んだ俺たちって結構無謀だったんだ」
「そうだな、なんでここ選んだんだ?」
「一番近かったから……まさかそんな大変なダンジョンだったとは」
イグレは登頂目的とか言ってたけど本当に出来るんだろうか……。
「その辺の下調べも冒険者の腕だな。でもお前の仲間は順調に攻略できてるみたいだし見込みはあるぞ」
ドラ子さんに仲間が評価され俺の口角は自然と上がってしまう。
「それに攻略不可ダンジョンの定義は明確に決まっている、発見から十年間誰も攻略できないダンジョンがそう呼ばれるな。その圧倒的な階数で未だ攻略困難な千階クラスのダンジョン。南の森の巨大ダンジョン、これは俺の実家だから当然攻略なんてさせない。海面から海の中へ伸びている深海のダンジョンなんてものもある。これらはもう発見から十五年以上踏破されてない」
なんかサラっと凄い情報があった気がする。古代の種族の建造物がダンジョンならドラ子さんの家もその定義に入るのか……。
「まず最初にそこに行かなくてよかった……」
「ここも発見されて月日がたったし、だからこそ俺の教え子たちもここに来たんだろうな……だが俺が来たんだ、攻略一番乗りは俺たちが貰う」
自信満々の顔でドラ子さんは言い切った。
けど魔力溜りを観察していたイスカはこっちを振り向いて不安そうな顔で言った。
「どうしよう、ここにある魔力溜り全部キラキラしてる……」




