第28話
飛ばされた先は、またもモンスターの姿は無く、しかも隠れられそうな大きな柱もあった。
俺たちは飛んできた魔力溜りからの陰になるように柱に隠れる。
あの状態で俺たちが姿を消せばすぐにどこに行ったか分からないだろう、ちょっとした時間稼ぎにはなるかもしれない。
「何とかしのいだか?」
魔力溜りで飛ばされてから数分、イスカにリジェネレートをかけてもらいながら柱の陰でモンスターに備えていた。
しかし、いつまでたってもさっきのミノタウロスは追ってくる気配はない。
「もしかしてモンスターって魔力溜りで飛んでくることは出来ないんじゃないかな」
そうイスカは言った。確かにここまで魔力溜りから出てくるモンスターは見たことがない。
「もしかしたら魔力溜りを使えば戦闘を回避しながら先へ進める?」
「でも行き先にモンスターがいたら……」
「それなんだよなぁ」
これがドラ子さんの言う通りダンジョンギミックなら避けては通れない。何とか行き先の安全を確かめる方法はないものか。
俺は魔力溜りに目を凝らす。それを真似してかイスカも同じように魔力溜りをじっと見た。
「あれ?」
イスカが何かに気付いたように声を上げた。
「どうした?」
「んー……」
返事はするが、その目は何かを追うように何もない空間へ向いていく。なんだか見えちゃいけないもの見ているようで怖いぞ。
「ダンク、これ見えない?」
「いや俺には何も、何か見えたのか?」
「うまくは言えないけどなんか……繋がってる気がする。細い線みたいな……それが伸びてる。それに一つずつ大きさや色の濃さが違うかも」
俺は再び魔力溜りを凝視する。
「何も見えないな……」
「じゃあやっぱり気のせいかな?」
「いや俺は魔力が少ない、でも魔法を使う冒険者に見えるヒントみたいなものかもしれない。俺はイスカを信じるよ」
「……じゃあついて来て」
イスカは嬉しそうに俺の手を引いて走り出した。
「えっ!こんなにむやみに進んだら……」
心配した通り目の前にモンスターが現れる。
相手は二体、先程と同じくミノタウロスだ。
二体俺たちの行く手を阻むように左右に立つ。
しかしイスカはモンスターを無視してこの空間にある魔力溜りを凝視していた。
「たぶん右の魔力!」
「……わかった!カバーするからイスカは俺の後についてきて」
「ヴィ!」
自分よりレベルの高いモンスターを相手にするのは緊張する。だけど今回は倒すのが目的じゃない。ここを通れればいいんだ。
俺はイスカの盾になりながらモンスターの攻撃を逸らす。そしてその隙に二人で右の魔力溜りに飛び込んだ。
飛んだ先はモンスターがいない。それが分かるとイスカはまた俺の手を引いて走り出す。
「ヴィ、やっぱりそうだ。なら正解の道は……」
何かの確信を得たのかイスカはどんどん先へ進む。
その後も何度かモンスターとエンカウントしたけどどれも現れるのは単体のモンスターや弱いモンスターばかりで、俺が盾になればすんなりと逃げられるようなモンスターばかりだった。
そしてついにイスカが立ち止まる、俺たちの前にはひと際大きな魔力溜りがあった。
「たぶんこれが最後」
「よし、なら入るぞ」
何があってもいいように俺とイスカは手を繋いで魔力溜りに足を踏み出した。
地面が消えて平衡感覚が一瞬なくなる。
何かに引っ張られるような感覚の後、次の瞬間目の前には上階に上る階段があった。
「おお、凄い本当に次の階段だ!」
「でっしょー」
イスカはドヤ顔で胸を張る。
「魔力溜りから伸びてる気配をたどって、なるべくキラキラした魔力溜りに入ったの」
最後に入った魔力溜りは俺でもわかるほど澄んでいて大きな魔力溜りだった。
たぶん他の魔力溜りも主に魔力を扱う冒険者が見分けられる細かい違いはあったんだろう。
「今回はイスカに助けられたな」
「モンスターから守ってくれたのはダンクだよ?」
「……じゃあ二人で力を合わせたってことだな」
俺たちは嬉しくなってハイタッチをする。
しかしそんな俺たちを見つめる瞳があった。
「イスカ!ダンク!その中どうやって入った!?」
ドラ子さんは自分が壊した壁の前、つまり階段前の壁の前まで戻って来ていた。壁の中にあったこの薄い魔力溜り、声は通るんだな。
イスカはドラ子さんに拙いながらも一生懸命魔力溜りについて説明した。
「なるほど、つまりそこら中にある魔力溜りには性質が違っていてイスカは繋がり合ってるものを追ったと……」
「そんな感じかなぁ?」
「分かったちょっと待ってろ」
それから二十分ほどの時が流れる。俺とイスカは階段の上に腰かけ干し葡萄をつまんでいた。
この壁の中は意外に広く複数の大きな魔力溜りがある。
恐らく幾つかここへたどり着けるルートがあるんだろう。そのうちの一つから、ドラ子さんが姿を現した。
「お、やっと着いた。いやー参った参った」
「結構かかりましたね」
「よく見れば性質が違うのは見て取れたんだ。けど繋がりってのが俺には見えなくてな」
「ごめんなさい、やっぱりわたしの説明だと分かりづらかったかな」
イスカはしょんぼりとした態度で謝る。けどドラ子さんは優しい声でイスカを諭した。
「いや、多分イスカが見えていたのは魔法を使う者だけが見える繋がりだったんだろう。俺も魔法は使えるけどほとんど片手間で覚えた物だしな」
火の火力調整やアイスボール作ったりできるのにアレ片手間で覚えたやつなのか……。
「普段は探索できるメンバーが前に出るだろ?ハンターとか。けどたまにダンジョン内には別のメンバーが前に出なきゃいけないギミックがあったりするんだ。今回は魔法を使うメンバーが前に出ざるを得ないギミックだったんだな」
「じゃあもしそのメンバーがいなかったらそこのクリアは出来ないんですか?」
突然の重大な攻略情報に俺はドラ子さんに尋ねた。
「そんなことはないが……まあクリアには時間がかかるだろうな、それにクリアに必要な役職はそんなに狭い範囲じゃない。今回みたいに魔力に長けてるメンバーなら魔法使い、バッファー、ヒーラーなんかがいればいいはずだ」
「へぇーでもイスカのおかげで無事このギミックはクリアですね」
「え?」
ドラ子さんはまじめな顔で聞き返してきた。
「何言ってんだこれから本番だろ?」
「え?そうなんですか?」
「このダンジョンの魔力は61階から濃くなってた、恐らくあの魔力溜りは61階からあったし多分次のボスの70階まであると思う。だからここから先、時間短縮できるかはイスカにかかってる」
「じゃあイスカ責任重大じゃないですか」
「そうだぞ、できるかイスカ?」
「……任せてよ!」
イスカは胸を叩き堂々と答える。その顔は晴れやかだった。
「仕事が増えたのにイスカ、なんだか嬉しそうだね」
「ヴィ、今まではずっとドラ子さんやダンクの背中につかまっていただけだけどわたしにもやれることがあるのはちょっとうれしいんだ」
そうか、イスカもパーティメンバーの一人だもんな。いつも背負われていることを気にしてたのか。
それに、自分にも役割があるっていうのは、パーティに居場所があるみたいで安心する気持ちも分かる。
俺もグレート団では一番レベルが下だったから自分がパーティに貢献できているか不安だったことあるしな。
「じゃあ頼りにさせてもらうな」
「ヴィ!」
イスカの頼りがいのある返事を聞き俺たちは次の階へ上がった。




