第27話
俺がブレイブガードを覚えたからダンジョン進行は攻略がメインになる。
ドラ子さんが先に現れるモンスターを退治して俺がイスカを背負いながらその後に続く。
順調に進み俺たちは現在62階にいた。
「この階層は魔力が濃いな……気を付けろよ」
「具体的に何に気を付けるんですか?」
「魔力が不自然に固まってる所だな、お前も魔力は少しあるんだから感じられるだろう?近くで魔法を使えば暴発するかもな、あと触れるのも危険だ」
「わかりました」
確かに今この場にもダンジョンの隅や柱の間などに濃い魔力が溜まっているのが分かる。
「もし触ったらどうなるんです?」
「どうなるんだろうな、多分この辺りの性質に合った魔法が発動すると思うが……どれ試してみるか」
ドラ子さんは立ち止まり、足元にある小石を拾うと魔力が溜まってるであろう場所に投げる。すると小石は吸い込まれ跡形もなく消え去った。
「消えましたね」
「消えたな」
「えっこれ消滅ってことですか?かなり危ないじゃないですか」
「いや、この魔力の量でそんな高等な事は出来ないと思うんだが……」
「じゃあどこかへ飛ばされたってこと?」
イスカは目の前で起こった事象の疑問を口にする。
「その可能性が高いな、多分この階層の魔力はどこかへ飛ばす力に特化してるんだろう。ほい」
ドラ子さんは別の魔力が溜まってる空間に再び小石を投げると後方からコロンという音が聞こえた。
「あ、これ今投げた小石じゃない?」
イスカは音が聞こえた所に行き、さっきと似たような小石を拾い上げた。
「ふむ……」
それを見たドラ子さんは目の前の魔力溜りに飛び込んだ。
「えっ!ドラ子さん!?」
俺の心配をよそにドラ子さんはイスカの目の前にパッと現れた。
「この魔力溜り、もしかして触れたものを別の場所に飛ばすダンジョンギミックなのかもな」
「ちょっと面白いかもー!」
イスカはドラ子さん側の魔力溜りから飛び込み俺の目の前に現れた。
「そうだ!これ使えば一気に上に行けるんじゃない?」
目の前に来たイスカは目を輝かせながら提案する。
「うーん……どうだろうか」
ドラ子さんもイスカと同じように俺の前に現れてイスカの言うことをきっぱり否定した。
「行き先が不安定すぎる。どこへ出るか分からないし逆に戻ることになるかもしれない」
「そっかぁ……いいアイデアかと思ったんだけどなぁ」
ただでさえ自分がどこにいるのか分からないダンジョン内を迂闊に位置を移動させるのは危ない。
ましてや飛ばされた先がモンスタートラップとかだったら目も当てられないしな。
「という訳で、この魔力溜りには近づかないのが吉だな。先へ急ぐぞー」
「はーい」
俺たちはしばらく先へ進む。けどいつもならとっくに次の階へ進んでいる頃なのに今だ階段を上がれずにいた。
そしてドラ子さんはある壁の前で止まる。
「……」
「どうかしましたか?」
「それがな、次の階の階段はこの壁の向こうにあるみたいなんだが入る場所がない。どうやら壁に囲まれてるようだな」
ドラ子さんは壁をコンコン叩きながら言った。
「じゃあどうすれば……まさかあの魔力溜りを使わないといけないとか!?」
「ダンジョンギミックだとすればその可能性が高いな」
「じゃあ、あの魔力に入って行っていいの!?」
イスカは目を輝かせながら尋ねる。けどドラ子さんはきっぱり否定した。
「いや、イスカ。あれに入るのは危ない。それに一つ一つ確認してくのも時間がかかる」
「えー面白そうなのに、じゃあどうやって先へ進むの?」
「それはな、ちょっと離れてろ」
ドラ子さんの言葉にイスカと目を見合わせた後、俺たちは少し後ろに下がった。
「少しズルいがこの壁をぶっ壊す!」
そう言ってドラ子さんは壁を殴りつけた。すると大きい音と共にダンジョン全体が揺れる。
「うわぁ!」
「きゃー」
揺れが収まり前を見るとダンジョンの壁が破られていて階段が見えた。
「おお、階段が見えますね!」
「あれ?ドラ子さんは?」
壁は破られたけどその破った主、ドラ子さんの姿がどこにもなかった。
「ド、ドラ子さん?」
俺たちは周囲を見回しドラ子さんを探す、けれどその返事は返ってくることはなかった。
「ダンク壁の中を見て、魔力が壁みたいに溜まってる」
イスカの声に俺は目を凝らして壊された壁の向こうを見る、するとその辺にある魔力溜りより薄い魔力溜りがあった。
「多分これに触れて飛ばされたんだ、でもなんで戻ってこないんだ?」
「今までの魔力溜りと魔力の量も形も違う……これ、行ったら帰ってこれないんじゃないかな?」
「この壁壊すとそんな物が出てくるのか、じゃあ俺たちもドラ子さんを追おう!」
「うん!」
俺たちははぐれないように手をつないでドラ子さんが入ったであろう魔力の塊に触れた。その時平衡感覚が一瞬なくなり、気が付けば壊れた壁の前とは全く別の場所に立っていた。
「イスカ、大丈夫か?」
「うん、やっぱり魔力溜りを通った時みたいな感覚だった。けどこれは一方通行だね」
周囲を見るが戻るようなあの薄い魔力溜りはない。イスカの言う通り、あれは一方通行だったんだ。
「ドラ子さんの姿もない、ここに飛んだんじゃないのか?」
「はぐれたと分かって飛び出しちゃったとか」
うーんありそう、ともかく俺たちがドラ子さんと離れてしまったことが確定した。飛ばされた先にモンスターがいなかったのは幸運だけど俺だけじゃ戦力が心許ない。かつてないピンチについ、握ったままのイスカの手に力を込めてしまう。
「大丈夫だよダンク、わたしたち強くなってるから」
イスカに励まされてしまった、そうだまだ最悪の状況じゃない。出来ることをしよう。
「ありがとうイスカ、まずはドラ子さんを呼んでみよう。前に口笛を吹けばその場所が分かるって言ってたしこっちの場所を知らせるんだ。近ければすぐにドラ子さんがやってくるはず」
俺はそう言って一音だけの口笛をなるべく長く吹いて少し待ってみた。しかしドラ子さんが姿を現すことはなかった。
「来ない……次に現状の確認だ。ここがどこか分からない上に進む方向も分からない、ドラ子さんとすぐに合流できないとなれば正直あの魔力溜りでドラ子さんと同じところへ飛ばされたかも疑問だ」
「すっごくピンチだね!」
「なのでここは口笛が届いてると想定して待ちに徹そう」
俺たちはモンスターがいなかったというアドバンテージを最大に生かすことにした。
しかし無情にも明らかに人ならざる大きな足音が近づいてくるのが聞こえて来る。
「この足音、モンスターだよな、さっきの口笛マズかったかな」
「でもああしないとドラ子さんわたしたちに気づかないし仕方ないよ」
なんだか俺よりイスカの方が頼もしいなぁ。そんなことを考えている間にモンスターは道の角から大きな影が近づいてきた。
現れたのは牛の頭に人間の体、背丈は俺よりも二回りも大きい斧を持ったミノタウロスだ。
「ここは逃げた方がよさそうだ!」
「うん!」
俺はイスカを先頭にミノタウロスが来た逆の方向へ走り出した。
けれど歩幅が違う俺たちはすぐにミノタウロスの攻撃射程圏内へと入ってしまった。
そしてミノタウロスは斧を振り下ろす。
「こうなったら、ブレイブガード!」
俺は振り向いて鍋を構える、スキルブレイブガードは武器や全身を超高硬させてどんな攻撃も一度だけ防ぐスキルだ。
力任せに振り下ろされた斧は俺の鍋の硬度に耐えられず、折れてしまう。
それに怒ったのか、ミノタウロスは鼻息を荒くして俺たちを睨みつけてくる。
「余計怒らせちゃったかな」
「ダンク、あそこに魔力溜りがあるよ。あれに入ろう」
「えっ、でも……」
俺は一瞬躊躇する、けどこの状況でピンチをしのぐには一か八か、別の場所に飛ぶしかなさそうだ。
「……分かった、俺が何とか一瞬隙を作る。その間に飛び込むぞ」
「うん!」
ミノタウロスは頭の角を向けてこっちに突進してきた。俺はこれを真正面からスキルで受ける。
「アタックガード!ぐっ!」
レベル差があるのか鍋を構えてる俺の腕にもダメージが入る。けど作戦は成功、ミノタウロスの角は弾かれて体全体が仰け反り仰向けに倒れた。
「今だ!」
俺はイスカの手を引いて魔力溜りに飛び込んだ。




