第26話
ダクさんの所から出て休憩を一回挟み、ついに60階ボスの間扉前。
俺は何本か解毒薬を消費しながら、やっとここまでたどり着いた。
「いやぁ全体の状態異常攻撃はやばいですね」
解毒薬を使ったのは俺だけ、ドラ子さんはやっぱり状態異常が効きにくいみたいで多少攻撃を食らっても問題なく行動できた。
イスカは俺が死守した。その代わり俺が攻撃を食らうことになって、その分状態異常になってしまったけど。
「よくイスカを守ったな、偉いぞ」
ドラ子さんは素直に褒めてくれる。普段厳しいけどこういうとこあるからやる気が出るんだよな。
「ダクの話だとこの扉入った瞬間状態異常が来るらしいな」
「はい、だからその前に」
俺は鞄からお花の輪っかを取り出した。
「なあ、それホントにつけなきゃだめか?」
「いいじゃないですかお花の輪っか、つけるのは今回のボスだけですし」
「お揃いのお花~」
イスカは嬉しいのか歌を歌いながらお花の輪っかを身に着ける。
俺も自分のお花の輪っかを頭に付けてドラ子さんの分を渡した。
「どうにも気が進まないが……」
ドラ子さんは諦めたようにお花の輪っか首にかけた。
「こんなに可愛いのになぁ」
そうイスカは呟いた。
そう、ドラ子さんは人化の術で化けてるとは言っていたけど、見た目はイスカと同じくらいの小さい少女。
お花の輪っかは結構似合ってるのだ。
「そんな姿してるんだから可愛い物も素直に受け入れてくださいよ」
「こんな格好してるのは馬鹿な人間を油断させるためと、買い物する時おまけが貰えるからだ。俺には花を纏うような少女趣味はないんだよ」
そうだったのか、かなりぶっちゃけるな……けど、そんな毒づく言葉とは裏腹に、お花の輪っかをつけたドラ子さんは、どこからどう見ても可憐な少女にしか見えなかった。
そうして全員がお花の輪っかを装備する。なんだか浮かれた絵面のパーティの完成だ。
「よしじゃあイスカ、魔法を頼む」
「うん、レジスト!」
俺たちに状態異常耐性の魔法がかかる、これで全員の準備は整った。俺たちはボスの部屋の扉に足を踏み入れた。
すると入ってすぐに液体の攻撃が飛んでくる。
「ダンク!」
「はい!インターセプト!」
その一言でドラ子さんはジャンプで攻撃を避け俺はイスカの前に立ってガードした。
「よし、最初の攻撃は凌いだ!」
俺は部屋の真ん中にいるボスを確認する。
「カ、カエル?」
この階のボスは巨大な黄色いカエルだった。
ジャンプしたドラ子さんはそのままカエルに突っ込んで拳を突きだす。
しかしカエルはドラ子さんの攻撃が当たる前に緑色の粘液を吐き出し攻撃する。
「うわっ!」
空中で攻撃されたドラ子さんは身動きが取れず、頭からその粘液を被ってしまう。
その一撃でドラ子さんの首に掛けてあったお花の輪っかは役目を終え散って行った。
けどそんなことでドラ子さんのスピードは落ちない、ドラ子さんは粘液を被ったままカエルに拳を放った。
「はぁ!」
「くるか!?」
俺はドラ子さんの攻撃でカエルがいつこっち飛ばされてもいいように待機する。
しかしカエルはいつまでたっても飛んでこなかった。
確かにドラ子さんの拳はカエルの舌に当たっていた。けど攻撃はその柔らかい舌で衝撃を吸収されていたのだ。
「こいつに手加減するのめんどくさいな!だったら手数で勝負だ!」
連続で拳を繰り出しながらドラ子さんは愚痴る。カエルもその拳を器用に舌で捌く。
するとどこからともなく聞いたことのある声が聞こえて来た。具体的には俺のすぐそばから。
「竜の鳴動を聞き、闇は応える。混沌に選ばれし存在が、理を踏み越え今ここに現界する!ワンセルフ召喚!俺!」
いつの間にか俺の装備に挟まっていたのか、一枚の魔法陣が描かれた紙切れからダクさんが召喚された。離れた所にも自分を遠隔から召喚できるってこの人やっぱり凄いな。
「なんでダクさんがいきなり!?」
「丁度体を動かしたかったんだ、君たちがボスと戦うなら混ぜてもらうと思ってね。君にちょっと魔法陣を描いてある紙を忍ばせたんだ」
ああ、たぶん肩を組んだあの時だ。
「けど、先生は何であんな回りくどい戦い方をしてるんだ?」
俺はダクさんにドラ子さんが俺のレベリングをしてくれていることを話す。
「なるほど、やっぱり面倒見が良いなぁ先生は」
ダクさんは嬉しそうにドラ子さんを見ながら言った。
そんなドラ子さんはと言うとカエルの舌に攻撃をしまくっていた。
そのせいでカエルの舌は大きく腫れている。
「どうだ!」
「ゲ、ゲロォ……」
カエルは困ったように舌をしまう。そして何か口をもごもごさせて準備を始める。
「させるか!」
ドラ子さんは拳を突き出す、しかしその前にカエルは口から大量の粘液を吐き出しドラ子さんはまたもモロに被ってしまう。
「うわぁばっちい」
ダクさんは容赦なくつぶやいた、けどそんなことを言ってる場合じゃない。その粘液は俺たちの方まで飛んできていた。最初の全体攻撃の正体ってこれか。
俺はイスカに粘液がかからないよう鍋を構える。
正直この攻撃を庇えるのは一人が限界だ。ダクさんは強いだろうし自分で何とかしてもらおう。
攻撃をガードした瞬間俺たちの装備していたお花の輪っかが散ったしまった。
直撃してないのにこれか、強い状態異常攻撃に俺は冷や汗を流した。対策してなかったら本当に危なかったな。
「イスカ!無事!?」
「うん!」
「ダクさんは……あれ?」
隣にいたはずのダクさんはいつの間にかドラ子さんの元まで移動していた。
「先生、ひどい格好ですね……」
「あんな奴手加減しなければ瞬殺なんだが!」
粘液まみれのドラ子さんは怒りで肩を震わせていた。
「ダク、聞こえたぞ、動きたいんだろ。手貸せ!」
「これはあんまり俺が動く場面なさそうだなぁ」
「うらぁ!」
ドラ子さんは再びカエルを拳で突く、しかしさっきと同じくカエルは舌の弾力でドラ子さんの拳を止めた。
カエルの舌は腫れて痛そうだがそれ以外にダメージが通った様子はない。
「ダク!」
「フリーズ!」
合図と共にダクさんはドラ子さんの腕とカエルの舌を瞬時に凍らせた。
「これで舌は封じたぞ。散々毒吐きやがって!」
確かに舌は封じたけどあれじゃドラ子さんも攻撃できないんじゃ、俺がそう思っているとドラ子さんは思い切り凍った腕を引っ張った。すると舌に引っ張られカエルの巨体が持ち上がる。
「えっ!?」
そのまま腕を振り回すと舌を伝ってカエルの巨体も振り回される。
「ダンク!面倒だ、お前がそのまま倒せ!」
「た、倒すったって……まさか!」
「行くぞー!」
俺は急いでイスカから離れる。そして次の瞬間、振り回されたカエルの巨体が俺の目の前まで迫ってくる。
「マジですか!アタックガード!」
何とか巨体をガードしたけど反動がすごい、俺は衝撃で仰け反ってしまった。
巨大なカエルの体は俺のスキルによって弾け飛ばされる。けどドラ子さんの腕に固定されている舌はドラ子さんの力によって振り回され再び俺の目の前に迫ってくる。
「まさかこれずっと続けるんじゃ……」
「その通り!気張れよ!」
「ひぃぃアタックガード!」
それからドラ子さんはカエルを舌ごと振りまわす。カエルの巨体は何度も何度も俺のスキルで叩きつけられる。その衝撃音は部屋全体に響いた。
それからいくらか時間が経ちようやくカエルは倒れる。
「はぁはぁ……最後の戦い方、状態異常なんて関係ありませんでしたね」
「気難しい準備するよりこっちの方が俺に向いてるわ」
俺は仰向けになりながらドラ子さんと話す。
イスカとダクさんはいつの間にか部屋の隅に避難していて、戦闘が終わった俺たちの元までやってきた。まあ部屋の中でカエルぶん回されたら隅に避難せざるを得ないよな。
「新しい魔法覚えたのにわたしあんまり役に立てなかった……」
「いや最初の方は役に立ってたよ、俺もあれがあったから状態異常にならなかったんだし。後半はドラ子さんが暴れたからしょうがない……」
「暴れたとは失礼だな、安全な方法だったろう?」
果たしてパーティメンバーが部屋の隅に避難しなきゃいけなくなる戦い方は安全なんだろうか。
そんなことを考えているとテレレレレンと効果音がなった、これはレベルが上がって新しいスキルを覚えた音だ。
「ドラ子さん!スキル覚えました!」
「ほう、じゃあさっそく確認だ」
俺はギルドカードを取り出しスキルの欄を見る。
[レベル]46
[スキル]プロテクト、アタックガード、ミラーガード、インターセプト、ブレイブガード
「これは!ドラ子さんの言っていた!」
「ついに覚えたな!」
「やったー!」
俺たちはパーティみんなで喜んだ。それにダクさんは置いてけぼりを食らう。
「ブレイブガード?中級ランクの入り口スキルだな、これを覚えたかったのか」
俺のギルドカードを見たダクさんは訝し気に言った。
「これがあればどんな攻撃も一回は防げるってドラ子さんが言ってましたよ?」
「確かにそうだが……一回だけだぞ、心許なくないか?スリップダメージは防げないし」
「俺がそんな攻撃許す訳ないだろ?どんな敵もその前に瞬殺だ」
ドラ子さんは拳を見せながら高らかに語った。
「……まあ先生が言うならそうなんだろう。あんまり動けなかったし俺はそろそろ戻るとするか」
「あ、待てダク。ちょっと頼みが」
帰るために魔法を使おうとするダクさんをドラ子さんは止める。
「カエルの攻撃で汚れたしちょっと魔法で綺麗にしてくれ」
「まったく天才の俺を洗濯代わりに使おうとするのは先生ぐらいだよ……」
文句を言いつつもダクさんは水の魔法でドラ子さんの全身を流した後熱の魔法で乾かした。
「はぁ、俺本当に便利に使われただけだったな」
「ここまでやって貰ってこう言うのもあれだが、お前が勝手に来ただけだからな?」
「本当にはっきり言われた……まあいい、じゃあ俺は本当に戻る、さらば!」
そう言ってダクさんは魔法を展開して帰って行った。
「まったく、俺が強いことなんて分かってただろうに。何で来たんだか」
「案外先生と一緒に冒険したかっただけじゃないんですかね」
「……それだったら可愛げがあるんだがな。さて気を取り直してお楽しみの宝箱だ!」
ドラ子さんはボスを倒して既に出現していた宝箱に近づき開いた。
「これはタクトか?」
宝箱に入っていたのは魔法使いが使うタクトだった。
「効果は……魔法の持続時間アップか、これはイスカが持った方がよさそうだな」
そう言えばイスカはバフ魔法を使うのに専用装備は何も持ってなかったな。
イスカは宝箱からタクトを手に取りポーズをとる。
「似合う?」
「うん可愛いよ」
「ここでイスカの装備手に入ったのは良かったかもな、さて、キリもいいし次の階で休むか」
「はーい」
俺たちは階段を上り次の階で休息することにした。




