第24話
現在54階、50階を越えてからダンジョンの風貌は一気に変わる。
ダンジョン内には草木がうっそうと生えていた。
匂いは青々しく、石の壁は木の蔦が絡みついている。所々に生えている草もひざ丈くらいまである。
けれど光る花や実をつけた植物が生えてるからあまり狭くは感じない。
出てくるモンスターの系統も変わり、毒や麻痺など状態異常を使ってくるモンスターも増えて俺のレベリングはあんまり捗らなかった。
「こいつは触れるなよ!」
「はい!アタックガード!」
それでもドラ子さんは経験値のために瀕死にしたモンスターを俺に飛ばしてくる。
モンスターの身体に触れないよう思い切り鍋に前面にだす。するとモンスターは弾かれ力尽きた。
「うーんこいつらはダメだな」
ドラ子さんはそう言って数匹のカエル型モンスターを俺とは反対方向へ吹っ飛ばす。するとモンスターは爆発して体液をまき散らした。
「あいつらは倒れる間際、体液をまき散らしてそれに触れると麻痺する。動きの鈍いタンクのお前には天敵だな」
「ここにきてそんなモンスターばっかりですね」
「ダンジョンは上がれば上がるほどダンジョン内の魔力が濃くなる。そうなればモンスターも強くなって環境が変わっていく」
ドラ子さんは壁に生えている木の蔦をコンコンと小突く。
「そのモンスターたちが、ダンジョン内の環境を住みやすいものに変えるんだ」
「なるほど……」
「ここは言うなれば状態異常の階層ってことだな」
ドラ子さんの説明を聞きながら俺は何気なく生えている草に触ろうとする、けど即座にドラ子さんに止められた。
「むやみに触るな、それ毒草かもしれないぞ」
「げっ」
慌てて手を引っ込める。周りには俺が触ろうとした草がたくさん生えていた。
「これ全部毒草ですか?」
「分からん、分からないからむやみに触るなって言ってるんだ」
「あ、なるほど」
俺たちのパーティにはヒーラーはいない、つまり状態異常にかかれば治す手段はないのだ。
ドラ子さんは毒くらいどうってことないだろう、イスカもそんなドラ子さんが徹底的に守ってる。もしかしてやばいのって……俺だけ?
「あの、もし俺が毒や麻痺にかかったら……」
「勿論最善は尽くしてやる」
何か手があるのだろうか?
「だが俺にもできないことはある」
「えっ!でも魔法とかで回復は……」
「俺は回復系の魔法は使えん」
ドラ子さんは静かに首を振りながら即答する。確かに回復は今までイスカに任せっきりだったし、そんな気はしてたけど……。
「このパーティ状態異常対策って……!」
ドラ子さんは目をそらし、しばらく沈黙が流れる。
「や、やばいじゃないですか!俺タンクなんですよ!?」
「待て待て、そう思ってさっきから解毒薬を作れる薬草を探してるんだ。けど全然見当たらなくてな、恐らく他のパーティも同じように考えて薬草を摘んでるのが原因だろうけど」
そうか、みんな同じように考えるからこの階層は薬草が極端に少なくなるんだ。これはますますマズい。
「対策としては解毒薬のドロップを狙うか誰も足を踏み入れてない通路を探すかだな」
どっちも運任せだ。ドロップしたとしても数に不安があるし、人の通ってない場所を探すにもモンスターに鉢合わせる危険がある。
「俺としては毒にかからない自信があるかそのまま進むのもありだと思うが」
「ドラ子さんはそうでしょうね!けど俺はただの人間なんです。嫌ですよ、毒にかかってから解毒の薬草探すの」
「だよなぁ、それに万が一イスカが毒にかかってしまうこともある。ここは素直に薬草探すか」
それから俺たちは人が通った痕跡を避けてダンジョンを進む。
でもその道中もレベリングは続く。ドラ子さんから飛ばされてくるモンスターをスキルで倒しまくった。
そして55階、人が通ってない道をひたすら進んで行くと、壁や天井が綺麗な花に包まれた広い部屋に出る。
「なんだここ」
「これは……」
ドラ子さんは壁に生えている花を確かめるように摘む。
「これは解毒の薬草だ。いや、それどころか……この部屋全体が魔法や薬に使う花や草に覆われている。ここは天然にできた場所じゃないな」
「その通り!」
どこからともなく男の声が聞こえた。
「この声は……」
俺たちは声の主を探す、だけど部屋のどこを見渡しても人の影は無かった。だが声だけは続く。
「漆黒の契約は今ここに結ばれ……覇の片割れが混沌に導かれる」
謎の声と共に部屋の中央には複雑な魔法陣が展開される。いったい何が起こってるんだ。
「深淵より現れる闇は竜の使いなり!――ワンセルフ召喚!俺!」
その言葉と共に部屋は謎の光で包まれて、俺たちは思わず目をつぶってしまう。
再び目を開けた時、魔法陣の真ん中に立っていたのは漆黒の髪とマント、白い手袋にモノクルを付けた背の高い男だった。
その男は両手を広げながら、酔いしれたように呟いた。
「決まった……」
「なーにが決まっただこの変態め」
男の派手な登場に俺とイスカはポカンとしていた。ドラ子さんは無警戒にその男に近づいて行く。知り合いだろうか。
「お前こんな所で何してるんだ?まだダンジョンの半分くらいだろうに、一人か?ラキは?」
「ははっ、そんな一度に尋ねられたらいくら俺であっても答えられないさ」
ドラ子さんと男はずいぶん親しそうに話していて俺たちは会話には入れずにいた。
「あの、そちらの方は?」
「ああそうだな、紹介しとくか。こいつの名はダク、数人しかいない現Aランクの冒険者でいつか話した俺の教え子だ。職業は魔法使いだが周囲からは既に大魔道なんて言われている変態だ」
「Aランク!?めちゃめちゃ凄いじゃないですか!でもへ、変態?」
俺は驚きながらも最後の一言が気になった。
「俺の教え子は二人いて馬鹿と変態だ。そんなかしこまらなくてもいいぞ。んでダク、こいつらは今パーティを組んでるダンクとイスカだ」
「……先生ともあろう者がそれだけ?俺を紹介したみたいにもっといろいろ情報を欲しいのだが」
「今やっている依頼は機密の依頼だからな。パーティについても詳しく紹介する必要はない」
「あぁ、またいつものか」
男、もといダクさんはドラ子さんの説明に慣れたように納得した。
「そんな機密パーティがなんでこんなダンジョンの端まで?」
ドラ子さんは俺たちが解毒の薬草を探していること話した。
「なるほど、この階は状態異常モンスター多いからなぁ」
「お前こそこんな所で何してるんだよ、お前たちがこのダンジョンを攻略するって言ってからもう三か月は経ってるぞ」
今度はドラ子さんがダクさんに質問する。
「この階層があまりに凄くてね」
「ん?まああまり見ない光景だな、色んな効能の植物が所狭しと生えている」
「中には魔力を含む物まである。そう、ここは魔法使いにとって研究しがいのある階層なのだよ!」
ダクさんは大げさに手を上げながら言い放った。
「なるほど、お前はこの一区画を自分専用の研究用に改造したってところか」
「その通り!という訳でようこそ我が城へ。先生とそのパーティを歓迎しようじゃないか!」
ドラ子さんに深いお辞儀をした後ダクさんは指を鳴らす。するとその場に椅子とテーブルが出現した。
「はぁ、何をやってるかと思えば冒険じゃなくて研究してるのかよ……で、ラキは?あいつと一緒にダンジョンに入ったんだろ?」
「あいつはまだこのダンジョン踏破してないのか」
「そうだ、だからお前たちが何してるのか確認に来たってものもある。まったく、Aランクがいつまでもダンジョンから戻らないからちょっとした噂になってるんだぞ」
ダクさんが出した椅子にドラ子さんはドカッと座りながら話し始める。
「俺たちはやりたいようにやってるだけ、そんな噂は放っておけばいいのさ。さて、解毒の薬草だけどここにあるものはいくらでも持って行っていい」
「そりゃ助かる」
「60階のボスの攻撃は状態異常攻撃が多い。しっかり準備しないと先生はともかく、他の二人はやられちゃうんじゃないかな」
ちらりと俺たちの方を見たダクさんは恐ろしいことを言いだす。
「あ、あの準備ってどういうことが必要なんですか?」
俺は二人の会話に入り尋ねた。するとダクさんは嫌な顔せず教えてくれた
「そうだな、まずボスの部屋に入ると確定で状態異常魔法が飛んでくる」
「か、確定ですか?」
「しかも全体攻撃でだ」
それかなりやばいボスなんじゃ……。
「勿論通常攻撃も状態異常効果の付くものばかり、解毒薬を持つだけじゃ心許ないだろう」
「そこまで詳しいなんてお前戦ったのか」
「勿論勝ったさ、俺はここに残るためラキと別れたんだ」
「それで引きこもりながら研究してるのか、物好きなやつだな」
ドラ子さんは呆れたように呟いた。
それより準備が解毒薬だけじゃ足りないなら俺たちのパーティは結構なピンチだ。
「解毒薬だけじゃ足りないならどうすれば?」
「そこで装備と魔法さ!」
ダクさんは堂々と宣言した。




