第23話
俺たちは現在、50階の階段前まで来ていた。
次の階はボスがいる、ほぼドラ子さんが戦ってくれるとは言えとどめは俺が刺さなきゃいけない。しっかり気を抜かずに行こう。
気合を入れながら階段を上る。。
「ん?なんか空気が変わった?」
50階に上がって感じたのは極端な空気の湿り気だった。
「なんか他の階と違ってジメジメしてますね」
「上階に行けば行くほどダンジョンの環境は変わる。この湿り気もボスの得意なフィールドなのかもな」
そうは言うがドラ子さんはいつも通りのペースで先へ進む。
そしてボスの部屋の前に到着した俺たちは、ドラ子さんを先頭に扉の中に入った。
「これは……」
目の前に現れたのは、ダンジョンの中なのにまるで人の手が入ってない緑の草木と硫黄の匂い。
部屋の中はさらに湿度が高く、複数ある大きい池からは湯気が出ていた。
「温泉じゃねーか!」
ドラ子さんが声を張り上げる。どこからどう見ても温泉だ。
ここはボスの部屋の中だよな、どうなっているだろう。
「わたし、ここ来たことあるかも」
俺たちが頭を傾げているとイスカがそう口にした。
まあダンジョンは空翼人の家の一部、イスカがここに来たことがあっても何の不思議もない。
「えーと確かボスはねぇ……」
イスカは先を歩き始める。そして着いたのはこの部屋で一番大きい温泉。
ここにはパッと見えるだけでもかなりの数の魚が住んでいた。
そして温泉の前には手作りの看板が立っていて、俺はそれを覗き込む。
「なになに……『このボス倒すべからず』って書いてある?」
「ダンクーこっち、多分ボスはあれ」
手招きしたイスカが指した先に見えたのは大きい魚。
大きいと言っても他の魚より二回りほど大きい程度だ。あれはボスというより主だな。
「ここにいるのは熱熱魚だな、高温を発する魚だ。となるとこの温泉のお湯の温度はかなり高い。俺なら入って倒せないことはないけど……その必要もなさそうだ」
ドラ子さんの言葉を聞き、俺は部屋の奥を見る。そこには本来はボスを倒さなきゃ現れない次の階への階段が現れていた。
つまりボスを相手にしなくても、いつでも先へ行けるのだ。
「なんでこんなことに?」
「昔ここに来た時パパが改造してたって言ってた。多分そのせい」
「ダンジョンを温泉にしたのか……あれ、ってことはイスカの両親はここまで来れるんだよな?だったらここまで迎えに来てもらえば……ドラ子さん?」
「依頼は頂上まで届けることだ。それ以上は俺は知らんぞ?」
「そうですか……」
何か理由があるんだろうか。
まあドラ子さんがそう言うなら、ここで俺が考えても答えは出ないだろう。
それにしても、温泉か、ちょっと入って行きたいけどどダンジョン攻略は割と急いでる。ここでドラ子さんにお願いしても許しは下りないだろう。
「ダンク、魚捌けるか?」
そんなことを考えてるとドラ子さんにいきなり尋ねられる。
「できますよ、けどそれが何か?」
「急いでるのは食料に限りがあるからだ。ここで魚を捕まえれば食料は浮く、つまりお前ら温泉入るぞ!」
勢いよくドラ子さんが宣言する。結局、ドラ子さん自身が一番入りたかっただけなんじゃないだろうか。
しかし温泉に入るとなると問題が出てくる。
「ドラ子さん、何の準備もしてないですよね」
そう、温泉に入るのはいいけど何の用意もないのだ。
湯から上がった後、体を拭くタオルさえない。それにドラ子さんはドラゴンとはいえ今は人間の体。
目の前で堂々と温泉に入られても俺が困る。
「そこは空翼人が作った温泉、何かあるんだろ?イスカ」
「ヴィ、こっち来て」
イスカはボス部屋の端っこに俺たちを連れてくる。
そこには小屋のようなものが建てられていた。
「ここが更衣室、昔来た時ここを使ったんだ。パパが冒険者も使えるようにって自動整備機能もつけたって言ってたからまだ使えるはず。中には温泉に必要な物が揃ってるはずだよ」
さすが空翼人、何でもありだな。でもそういうことなら俺もありがたく使わせてもらおう。
小屋は男女で別れた入口があって俺たちは別れて中に入った。
中は脱いだ服を置いておく籠、それに奥には色々単語が書かれたボタンがついている鉄の塊が置いてあった。
「これは?」
ボタンに書かれた単語にはタオル、水着など書いてあった。
「これがイスカが言ってた必要なものかな?」
疑問に思いながらも試しにボタンを押してみる。
すると鉄の塊からガコンという音がして、下についてる取り出し口であろう場所から質の良い白い布が出てくる。
「うお!出た……じゃあ水着っていうのも」
今度は水着と書かれてるボタンを押す、また鉄の塊からガコンという音がして次は水着が出て来た。
「す、すごい……必要な物のボタンを押せば出てくる機械か。これは便利だ」
俺は服を脱ぎ水着に着替える、そしてタオルを持って小屋から出た。二人はまだ来てないみたいだな。
待ってる間試しに一番近い温泉に手を入れてみる。うん、いい感じに暖かい。
熱熱魚の所から流れているお湯が冷めて丁度いい温度になってる。
多分ここは更衣室に一番近いし意図的に温度が調整されているんだろう。
「あったけぇ……二人はまだかなぁ」
すると二人が更衣室から出てきた。二人の水着姿はかなり眩しかった。
ドラ子さんは赤いビキニ、イスカもフリルがたくさんついた白いビキニを着ていた。
「待たせたな!どうだ、美少女二人の水着姿!」
ドラ子さんは自信満々に俺の前に立つ、イスカはちょっと恥ずかしそうにもじもじしていた。
「二人とも……その、凄く可愛いですよ」
いかん、ちょっとどもってしまった。
「無難な褒め方しやがって……まあいい、さっそく入るか」
「この一番近くの温泉は俺たちでも入れるくらいの温度です」
俺たちは目の前にある温泉に入る。
肩までしっかり体を沈ませると全身の力が抜けていった。
「おお……きもちいぃ……」
「あぁ~生き返る~」
ドラ子さんも気持ちよさそうに体を伸ばした。俺たちはみんな手足を広げてリラックスする。
温泉効果はすごい、まるでダンジョンの疲れがほぐれていくようだ。
ふとイスカの背中を見ると小さな翼のようなものが生えているのが見えた。
「イスカ、それって……」
「機密だ、気にするな」
俺が尋ねようとしたらドラ子さんが先に釘を刺してきた。
「まだ何も聞いてないじゃないですか……」
「水着になったら目についてしまうからな。つまらんことは気にせず温泉を楽しめ」
まあ空翼人なんて種族だ、翼が付いてても不思議じゃない。俺は気にせず温泉を楽しむことにした。
一つの温泉は三人くらい入っても余裕がある広さだ。各々自由に温泉を満喫する。
「こことあっちとあそこ、三つくらいがわたしたちでも入れる温泉。パパは効能もこだわってるって言ってた」
イスカが教えてくれた温泉のうち一つは白く濁っていた。
「へぇじゃあ後で行ってみるか」
「ヴィ!」
それから俺たちは温泉を堪能する、ドラ子さんは全部の温泉に入れるみたいで広い温泉を泳いだりして一番満喫していた。
俺とイスカも、のぼせないように休憩しながら温泉を楽しむ、そうしているうちに今日一日が終わった。
「いやーイスカを送ってる最中に温泉に入れるとは……久しぶりにゆっくりした」
タオルを肩にかけたドラ子さんは俺たちの元へ戻ってくる。
ドラ子さんには一番大きい温泉から三匹の熱熱魚を取って来てもらっていたのだ。
俺とイスカは一足先に着替えて火をおこし晩飯の準備をしていた。
「あんまり取ったらここの温泉に支障出るからな」
「大きいししっかり身もついてるからこの数で十分足りますよ」
俺はドラ子さんから受け取った熱熱魚を早速調理する、まずは熱を発する器官を取り除き塩を振って、あとは簡単に丸焼きだ。
先に干し米で作っておいた塩粥とこれが今日の晩飯。新鮮な食材を使った料理は久しぶりな気がする。
焼きあがった魚を早速イスカはかぶりつく。
「シンプルイズベストだ、イスカどうかな」
「ウマー」
口に合ったみたいでよかった、魚はあんまり調理してこなかったから難しいことは出来ないけどこれくらいなら俺でもできる。
ドラ子さんには別にドラゴン族の鍋で炙った魚を用意している。
骨も構わず魚を丸ごと口に入れたドラ子さんはバキバキと咀嚼していた。ワイルドだ。
「なんだか俺だけ別に作って貰って悪いな。しかしうめえ、やっぱお前は料理の天才だ」
「そ、そうですか……」
本当にただ鍋の上で炙っただけなので料理と言えるか微妙だけどまあドラ子さんがおいしそうに食べてるなら良しとしよう。
そしてデザートは、シャーベット状に凍らせた果物を混ぜ込んだ冷菓だ。
俺たちがデザートを食べてる間ドラ子さんは着替えに行った。
足をお湯につけながらイスカと一緒に冷菓を食べる。
「足はぽかぽかなのに冷たい物食べるってなんだか贅沢だねー」
「だなぁ」
そんなのんびりした時間を過ごしていると、部屋の入り口から他のパーティが入ってくる。
「お、先客か?」
そのパーティはボスを警戒するでもなく俺たちに話しかけて来た。
「なんだ、うまそうな物食ってるな。湯加減はどうだ?」
「ええ、丁度いい温度で暖かいですよ。なんだかずいぶん慣れてますね」
「あんたたちはここ来るの初めてか?ここは冒険者の休憩所として有名なんだ」
「へぇー」
「という訳で俺たちも邪魔するぞ」
「あっはい」
入って来たパーティは四人でみんな更衣室へ入って行く。そうか、ここって割と冒険者に知られてる場所だったのか。
更衣室に入った冒険者たちは男だけだったのかすぐに出てきて各々温泉に入って行った。
最初に話しかけてきたリーダーであろう男は改めて俺たちに挨拶してきた。
「俺たちはケルベロスってパーティだ、全員Cランクの冒険者だ。ゆっくりしてるところ邪魔して悪いな。すぐ行くから気にしないでくれ」
「俺たちは空竜の盾です、メンバーのランクはバラバラで……」
というか俺はドラ子さんのランクは知らないな、イスカもそうだけどこの二人ってランクとかあるんだろうか。
「なんだ即席パーティか?」
「まあそんなところです」
「さっきも言った通りここは色んな冒険者が使う温泉なんだ。ボスのでかい熱熱魚は倒すなよ。まあ次の階の階段も出てるしあの熱湯の中にいる経験値が少ない熱熱魚をわざわざ倒す奴いないと思うが……」
やっぱりあの熱熱魚は倒したらダメなやつだったんだ。でも普通の人間があの熱熱魚を倒すとしたら根気よく釣るしかなさそうだな。
ケルベロスとそんな話をしているとドラ子さんが更衣室から戻ってくる。
「賑やかだと思ったら他のパーティも来たのか」
「なんだあんちゃんハーレムパーティか、うらやましいな」
「いやぁ、あはは」
そう言われてもなんて返したらいいか悩むな。それはそうとケルベロスから聞いたこの温泉のことをドラ子さんに話した。
「やっぱりか、あいつはここの温泉の元みたいだったから手出さなくて正解だった」
「そう言うこと、あの熱熱魚を倒したらここまで上ってこれる冒険者の恨みを買うぞ。さて俺たちは温まったからそろそろ行くわ。お前ら、行くぞ」
話していたケルベロスのリーダーは仲間を連れて更衣室に向かった。
もう行くのか、本当にちょっとしか入ってなかったな。
「あいつらにはここで休むより先へ進む方が重要なんだろう。俺たちも少し先へ進もう、ここは休むにはちょっと湿りすぎてるからな」
「そうですね」
俺たちは荷物をまとめる、すると更衣室からケルベロス一行が出て来た。
「おや、あんちゃんたちも出発か?」
「少し上の階まで行くだけさ。ここは休むには湿りすぎてるからな」
「なるほど、なら途中まで一緒に行くか」
「いいぜ」
俺たちはケルベロスと一緒に階段を上がり休む場所を探した。




