第20話
俺たちはすれ違う冒険者たちに話を聞きながら、金の剣を探す。
どうやら金の剣は主にこの階層で活動しているらしく、かなりの数の目撃証言が集まった。
みんな何かしら被害に遭ったようで、お仕置きをするために探してると言うとみんな進んで情報をくれた。
そして捜索開始から数十分後――。
「いた」
開けた通路の中央、宝箱の前で冒険者たちが向かい合い激しく口論していた。
片方のパーティは間違いない、イスカが落ちて来た時俺たちが揉めていたパーティだ。
「別のパーティと口論してるな。やっぱりあのパーティにも狡い真似したんだろうなぁ」
「このままドラ子さんを呼んでも場が混乱するだろう。まず止めた方が良いかもな」
イグレはまずパーティの口論を止めることを提案する。俺も賛成だ。
ドラ子さんのお仕置きがどんなものかは分からないけど、口論相手のパーティは巻き込まれないようにしないと。
「でもどうやって止める?俺たちが割って入っても止まらないんじゃ……」
俺はイグレに聞くとグルーが答えた。
「口笛を吹きながら登場すれば、奴ら呆気にとられるだろう。ドラ子さんも呼べて一石二鳥だ」
「おお、それかっこいいな」
えっ、かっこいいかな?
口笛を吹きながらいきなり他の冒険者が現れるのってかなりシュールじゃないか?
「そのあとポーズを付けて名乗りを上げれば口論も止むだろう。よしその案で行こう」
俺が考え込んでいると口笛を吹きながら現れ、そのまま名乗りを上げて、ポーズを決めるという作戦になってしまった。
なんでこの二人こんなにノリノリなんだ。というか登場してその後どうするのか全く決めてないし。
早速二人は口笛を吹き口論してる場に向かっていってしまった。
「ええい、もうどうにでもなれだ!」
俺は二人の後を追う。
グルーが奏でる口笛はどこか哀愁漂うメロディーでなんかちょっと雰囲気が出ていた。なんなんだこれ。
「口笛?」
「なんだ?」
口論してるパーティも口笛に気づいてこちらを見る。
俺たちは二つのパーティの前に立ちそれぞれポーズを決めながら言い放った。
「グレート団参上!」
「はぁ?」
一瞬、時が止まった。
二つのパーティはかなり白い目でこちらを見て呆れている。
でもドラ子さんを呼びつつ、口論も止められた。
すごく恥ずかしいがとりあえずここは大成功としておこう。
「なんだお前ら」
金の剣は俺たちの事を覚えていないのかかなり訝しむ。
金の剣のメンバーは釣り目の女性ハンター、体の大きいフルアーマーの戦士、そして鼻の高いメガネの魔法使いの四人パーティだ。
ここからどう話を持っていくべきかと考えてるとイグレが言葉を発した。
「金の剣!俺たちはお前たちの被害を減らしに来た冒険者だ!」
「被害?俺たちが何をしたっていうんだ」
そう言いながらも金の剣は宝箱を囲っていた。
「俺たちの宝箱を横取りしようとしてるだろう!」
口論相手のパーティは反論する。やっぱり口論はそれが原因だったか。
「だからお前たちが先に見つけたなんて証拠はないだろうが!先にこの宝箱に触ったのは俺たちなんだぜ」
金髪の剣士は宝箱を軽く叩きながら言った。
しかし、冒険者間ではパーティが戦ってる近くに宝箱があればそれは戦っているパーティの物という暗黙のルールがある。
金の剣はこのルールを無視しているということだ。
「すぐそばで戦っていて気づかない訳ないだろう!それに冒険者同士争わないようにそういうルールがあるだろう!」
「ルール?そのルールはどこに書いてるんだよ、ギルドカードにはないぜ?」
「それは……」
口論相手のパーティは反論するが逆に返され黙ってしまう。
「とにかく先に触ったんだ、この宝箱は俺たちの物だ。横取りしようたってそうはいかねえ」
「横取りしたのはお前らだろう!」
事態は一触即発。口論しているパーティも宝箱を譲る気がないのか、ついに武器に手をかけ始めた。
「おっやるのか?言っておくが俺たちはCランクだぜ」
「それがどうした、俺たちもCランクだ」
「宝箱を見逃してるんだ低ランクかと思ったよ」
「見逃してないしお前たちが勝手にそう思ってるだけだろ!」
これはまずいな。本気の争いは何か罰があるかもしれない。何とか落ち着かせないと。
少なくともこのパーティは被害者だ。金の剣に巻き込まれて罰則を受けるなんて間違っている。
「冒険者のルールも守らないなら、ただ触っただけっていうのも別に証拠にはならないんじゃないか?」
「は?」
俺の発した言葉に金髪の剣士がギロリと睨む。
「それこそ触ったらお前たちの物になるなんてルールどこに書いてるんだ?」
「てめぇ見た所そんなに高いランクじゃないな……Cランクの俺たちに逆らうのかよ!触ったらそいつのもんになるのが普通だろうが!」
金髪の剣士はドスの効いた声で俺に向かって言い放つ。
普段めちゃくちゃ強いドラ子さんを見ているせいか全然迫力を感じないな。
「ランクは関係ない!冒険者のルールを守らないならお前たちの言い分だって守る必要はない!」
「てめぇ!雑魚の癖に!」
俺は金髪の剣士に胸ぐらを掴まれる。今度は俺がやばいか?
けどそんな時、悲鳴のような叫び声と地響きが俺たちの来た方向から聞こえてくる。
「にあああああああああ!」
声の方を見るとイスカとナンティがドラ子さんに抱えられたまま物凄いスピードでこちらに突っ込んできた。
叫んでいるのは涙を流してるナンティだった。
俺の目の前を通り過ぎて壁に向かう。
そのまま突撃しそうになるが蹴って大きく一回転して華麗に着地。
ドラ子さんは二人を下ろし、爽やかに言った。
「ふぅ、見たところグッドタイミングだったみたいだな」
「ふえぇ怖かったよー」
下ろされたナンティは刺激が強かったのか半泣きでイグレとグルーの元へ駆け寄る。
対してイスカは楽しげだった。
まあイスカはいつもドラ子さんに運ばれてるしな。
「で、そいつらが件のパーティ、金の剣か」
「えっと、そうです、今まさに揉め事の最中だったから止めたんですがこんなことに……」
俺はドラ子さんに説明する。
いきなり派手な登場したドラ子さんに驚いて金の剣どころか口論していたパーティも驚いて固まっていた。
「こ、子供が人を抱えてぶっ飛んできた……」
「なんだよ、そっちのガキも俺たちに用か」
二つのパーティはそれぞれ違う反応を見せる。
「ああ、評判の悪いお前たちをちょっとお仕置きしようかと思ってね。で、今うちのパーティメンバーに何してるのかな?」
俺が胸ぐらを掴まれている場面を見たドラ子さんは、凍り付いたような笑顔のまま金髪の剣士に質問する。
「お仕置きだと?こいつと言いどいつもこいつも俺たちを舐めやがって……」
金髪の剣士は俺の胸ぐらから手を離すと今度はドラ子さんを睨みつける。
「ふむ、状況を見ると今まさに宝箱の横取りしてたって感じか?」
口論していた別のパーティと金の剣側にある宝箱を見たドラ子さんは呆れながら呟く。
「だから横取りじゃねーよ!どいつもこいつも……俺たちに喧嘩売るってことでいいのか!?」
金髪の剣士はそう言いながら持ってる武器に手をかける。
「いいぞ、まあこれからするのは喧嘩じゃなくてお仕置きだし、相手は俺一人で十分だけどな」
「てめぇいい度胸じゃねえか、その喧嘩買ってやるよ……」
金の剣のメンバーはみんな武器を構えた。ドラ子さんのお仕置きってそういうこと?
「そんなことしてギルドに怒られないんですか?」
俺は疑問に思ってドラ子さんに尋ねる。
「どうせ言ったって聞く相手じゃないだろ。だからちょっと痛い目みてもらう。ギルドなら大丈夫だ、なんせ俺がギルドだからな!」
うわ、言い切ったよ。どっちもやる気みたいだし、こうなったらもうここにいる冒険者じゃ止めるのは無理だな。もうドラ子さん好きにやらせよう。
「あの、これって俺たちの喧嘩だったんじゃ……」
もともと金の剣と口論していたCランク冒険者たちがぽつりとつぶやいた。
この人たちもドラ子さんに巻き込まれて運がないな。
「で?威勢がよかったのは最初だけでかかってこないんだな」
ドラ子さんは金の剣を煽るような言葉を吐く。
しかし腐ってもCランクの金の剣はドラ子さんを警戒していた。
「あんな派手な登場の仕方……あいつは人間じゃない可能性が高い。みんな、見た目に騙されるなよ」
「へえ、ちゃんと警戒してるじゃないか。だがイグレたちの時と違って待ってやる必要はないからな、速攻で終わらせるぞ。ドラゴンキャノン!」
ドラ子さんは手の平に乗るサイズの光球を金の剣に向けて投げる。けどその速度はかなり遅いものだった。
「は?なんだこれ、遅ぇ。わざわざ避ける必要もないな。それよりフォーメーションCだ、あの生意気なガキを一気に畳んじまうぞ」
金の剣は光球を無視して金髪の剣士とフルアーマーの戦士を先頭にドラ子さんに迫る。けどそのせいで金の剣は自分から光球に近づいてしまう。
そして光球は破裂する。
その衝撃はすさまじく、離れて見ていた俺たちでさえ踏ん張るのが必死だった。
「イスカ!」
俺はこの中で一番軽いであろうイスカを衝撃から庇うように守る。
こんなスキル使うなら最初に言っといて欲しかった。
「うわぁっ!」
そして当然一番近くにいた金の剣たちはまとめて壁まで吹っ飛ばされる。
衝撃は終わり俺は辺りを見回した。
ドラ子さんのスキルは、なんと頑丈なダンジョンの壁にさえヒビを入れる程の破壊力だった。
「いやーすまんすまん、かなり手加減したんだが……みんな大丈夫か?」
俺は何とか踏ん張ってイスカと共に無事。Cランクの冒険者も耐えていた。
だけどグレート団は衝撃に耐え切れなかったようで三人とも壁際で目を回していた。
一番まともに食らった金の剣のパーティは全員装備もボロボロ、ハンターと魔法使いは気絶していた。
「お、お前一体何者だ!」
金髪の剣士は自分の剣を杖代わりにして弱々しく立ち上がり、ドラ子さんに尋ねる。
「俺はギルドマスターだ。さて、お仕置きはまだ終わってないぞ」
「こ、これ以上まだ何かやるのか!」
「当然だろ、お前たちは冒険者ギルドの名を貶めるような行為をした。もう二度とこんな気を起こさないようにしっかりと教育しなければな」
「教育?」
「……マスタースキル発動!」
ドラ子さんが声高らかに宣言するとギルドマスターの証である首飾りが輝きだし、ドラ子さんの上部に冒険者ギルドが掲げている竜の紋章が宙に現れる。
「この金の剣のパーティメンバーのギルドカードに対してイエローカードを執行する!これからお前たち金の剣は受けられる依頼やダンジョンの攻略にも大きく制限がかかる。ギルドの審査なしに動く事は出来ない!」
ドラ子さんの宣言により金の剣のメンバーのギルドカードが勝手に取り出され宙に浮く。
そしてその色を黄色く変化させた。
「な、なんだこれ……そんなの稼ぎに制限がかかるのと一緒じゃねえか」
「当然の措置だ、ギルドの評判を落とすような粗暴な奴や輪を乱す輩はギルドに必要ない。冒険者を辞めるのも手だぞ?」
「お、俺の親父は貴族なんだ!親父に頼みさえすればきっと何とかしてくれる」
「あっそ、じゃあそうしてもらえ」
「くっ、お前ら起きろ!行くぞ!」
金髪の剣士は気絶していた仲間を起こし俺たちの前から去って行った。
「これで一件落着だな。おら、お前たちも起きろ!」
目を回したグレート団を起こすためドラ子さんは両手を叩く。
「う、うん……痛い」
イグレを始めグレート団は頭を押さえながら立ち上がる。
そして意識をはっきりさせたと同時にドラ子さんに詰め寄った。
「いきなりあんな技撃つなんて酷いじゃないですか!」
「もうちょっと注意とかあってもよかったと思うんだが!?」
「えーん酷いよー頭打ったし今日は散々だよー」
「悪かったよ、でもお前たちレベルなら耐えられると思ったんだ。現にダンクは耐えてたし。しゃーない、今日はここで一休みするか。どれ、頭見せてみろ」
「えーとあの、これは一体……」
ドラ子さんはナンティの頭を撫でながら休息を提案する。
口論相手のパーティは終始流されていたが、ここでまさかの三パーティ合同での野宿開始された。




