第19話
「すいませんでした!」
敷物の上で座りながら優雅にお茶を飲むドラ子さんに三人は頭を下げて謝っていた。
「まさかギルドマスター様に喧嘩を売っていたとは……」
「通りで強い訳だ」
ドラ子さんの正体を知ったイグレとグルーはドラ子さんの力に納得する。
「良いって良いって、勢いがあるのは嫌いじゃないしな。それよりこっちはどうだ?ダンクに十分な役割ってやつは」
「いえ、もう好きに使って下さい」
「おい……」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて聞くドラ子さんに、イグレはまるで生贄を指し出すように俺を指し出した。
「じゃあ俺もお前らの総評でもしてやるか。ほら、座れ」
ドラ子さんはイグレたち三人を敷物の上に座らせ話を続ける。
「まずはそうだな……Cランクに届くってのは言い過ぎだな」
「うぐっ」
「あと防御面に大きな穴がある、ありゃダンクがいた頃の名残か?」
「そうです、そしてダンクがいつ戻ってきても良いようにポジションは空けてます」
イグレは真剣な顔で答えた。
「はぁ、抜けた仲間のポジションを開けてるとは……お前ら重いな」
「愛と言ってください、それにここは褒められる流れじゃないんですか?」
「んな訳あるか!あのなぁ冒険者ってのは命を賭けるような依頼が多い、そんな舐めプしてる冒険者がいるとギルド全体の評判が下がるだろうが」
「す、すいません……」
ドラ子さんの総評はいつの間にかガチ説教に変わっていた。
「イグレ、お前がリーダーだな。ダンクを迎えるって言ったがまずダンクを辞めさせないことが先だっただろう」
「うぅ、そうですね……」
「そもそもこんな所まで来てダンクが戻って来たとしてもレベルの差はどうするつもりだったんだ、レベル差が開けば開くほどやりづらくなるだろうに」
「まず俺らが強くなればダンクのレベル上げもスムーズにできると思ったんですが……」
「甘いな、パーティはレベル上げも含めてのパーティだ。仮にお前たちが後からダンクをキャリーしたとして、後付けされたレベルと動きに一番違和感を覚えるのはお前たちだろう」
「そ、そうなんですか、じゃあ俺たちはどうするべきだったんですか?」
「それは自分たちで考えるんだ。だが有望なお前たちに良いことを教えてやる。答えを自分たちで導き出せればBランクの壁を突破できるかもしれない」
「Bランクの壁を超える……」
冒険者ランクでBランクに上がるには非常に高い敷居が存在する。冒険者たちはそれをBランクの壁と呼んでいるらしい。
「ドラ子さん!俺たちの先生になってくれませんか!?」
イグレは再び深く頭を下げた。
「やなこった」
けど、ドラ子さんは考える素振りも見せずに食い気味に即答した。
「俺はギルドマスターだ、有望そうなやつにちょっとヒントはやるが、育てるなんて贔屓はしない。大体忙しすぎてそんな時間も無い」
「あれ、でも前にAランクの教え子がいるって……」
俺は以前、ドラ子さんから聞いた話を思い出す。
「あいつらはガキの頃から才能がありすぎて親すら手を付けられずにいた問題児だったんだ。だからちょっとお灸をすえただけ。冒険者や戦い方を教えたことはない」
「ああ、教え子ってそういう……」
「でもそうだな……しばらくはダンクのレベリングもあるし動きを見て学ぶくらいはやってもいいぞ」
「本当ですか!?」
「付いてこられればだけどな」
「よっしゃ!」
俺たちは早速地獄のレベリングを再開する。しかし――。
「はぁはぁ……ま、待ってくれ……」
「おおおお!」
ドラ子さんの超ハイペースにグレート団のメンバーの息は絶え絶え。
まず体力のないナンティが最初にダウンした。
そしてグルーはダウンしたナンティを背負って走るが、流石に人一人を背負って走るのは難しくかなり遅れていた。
イグレは何とかついてくるが、とてもモンスターを相手にする余裕はなく走っては休憩を繰り返していた。
モンスタートラップ攻略後の休憩中、イグレは何とか声を捻り出し尋ねて来た。
「はぁはぁ、お前ずっとこんなことを……?」
「まぁレベルが足りなくなったらね、あと今回はちょっと探してる冒険者がいるんだ」
「ダンジョンの中でか。どんな?」
「なんか先に狡い冒険者がいるみたいなんだ、ドラ子さんはギルドマスターだからお仕置きするっていってそのパーティを探してるんだ」
「あーじゃああいつらかな」
「何か知ってるの?」
「ほらイスカ落ちてくる前にトラブったパーティいただろ?あいつらがこの先にいるって噂になってるんだよ」
「ほう、なんか面白そうな話だな」
何か知ってそうな雰囲気を出すイグレの話に、宝箱を開け終わったドラ子さんが混ざってくる。
「あいつらの事調べたの?」
「いや、けど横取りの被害者が結構いてちょっと噂になってるんだ」
「へぇ詳しく聞かせろよ」
「パーティ名は金の剣。被害は経験値横取りや宝箱横取り。中には怪我させられたって噂もあるな。周りの冒険者が被害に遭わないように位置も共有されてた。俺がちょっと前に聞いた話だと34階にいるって聞いた」
「そんなことやってるのはその金の剣って奴らだけか?」
ドラ子さんはイグレに尋ねる。冒険者全体の質をかなり気にしてたからな。
「そいつら以外には聞いたことないですね。すれ違う冒険者もみんないい人だし」
「じゃあお仕置きが必要なのはその金の剣ってパーティだな、ちょっと前に34階にいたって事は34階から上を探さなきゃ会えそうにないなぁ。よしグレート団、お前らちょっと金の剣捜索手伝え」
軽く頼むドラ子さんにイグレたちは返事を返す。
「いいですよ、俺たちも前に宝箱横取りされて悔しい思いしてるし手伝います」
軽く返事しちゃったけど、こいつら今度はあの速度でダンジョン進むこと分かってるのかなぁ。
それから地獄のレベリングは中断、俺たちは早速34階を目指した。
「はぁはぁ……レベリングもダンジョン攻略も速度変わらないじゃないか!」
イグレは仰向けに倒れながら突っ込む。グレート団は金の剣を探す前から満身創痍だ。
俺も慣れてきたとはいえ、肩で息をしてる。
「これくらいでへばるなんて体力ないなぁ、上位ランクの冒険者の速度なんてこんなものだぞ」
「マジかよ……」
ドラ子さんの一言でイグレは踏ん張り立ち上がる、これも冒険者としての意地だろう。
「これから金の剣を探す訳だが二手に分かれよう、その方が効率良いしな。グレート団はこの階層に来たことは?」
「ありますよ」
「ならパワーバランス的に男女で別れるか。第一目標は金の剣だからモンスターはスルーしていいぞ」
「俺たちが金の剣を見つけたらどうします?」
イグレはドラ子さんに尋ねた。
「そうだな……口笛でも鳴らしてくれ。そうすれば位置は分かる」
「すげぇ本当に人間か?」
「いやドラゴンらしいよ」
イグレの疑問に俺は答える。
「えっ?そうなの!?」
「はいはい、さっそく別れて探すぞー。いなかったら次の階の階段の前で落ち合おう」
「はーい」
手を叩きながら急かすドラ子さんの言うことをおとなしく聞いて俺たちは別れた。
男女で別れたということは俺と行くのはイグレとグルー。
ナンティはいないがこの仲間でダンジョンに潜るのはずいぶん久しぶりな気がする。
「そうだ、レベルの確認をしておこうか」
歩き出してしばらくした後にイグレは言った。
今はモンスターはスルーするとは言えここはダンジョン、逃げられない場合は戦うしかないけどお互いの実力が分からなければ連携も何もないからな。
俺たちはその場で自分のギルドカードを取り出した。
「自分で言うのもあれだけど結構大成長したと思ってるんだけど」
俺のカードに書かれているレベルは26だ。
「すごい、かなり上がったじゃないか」
「うむ、頑張ったな」
イグレとグルーに素直に褒められてちょっとだけ嬉しい。
そう思いながら俺も二人のギルドカードを覗き込む。
そこに書かれていたレベルはイグレが32とグルーが30。
俺は未だ仲間たちに追いつけてはいなかった。
「二人もかなりレベル上げたんだなぁ。このレベルならもう初心者じゃないな」
「ダンクが辞めた日から強くなってダンクをキャリーするつもりだったからな。でもたった一回のダンジョン挑戦でそこまでレベル上げられるお前の方が凄いよ……いや、この場合あのドラ子さんが凄いのか?」
「ああ、それは間違いない」
このレベルは全部、ドラ子さんがお膳立てしてくれたものだからな。
ドラ子さんには本当に感謝しかない。
「よし、レベルも確認したしドラ子さんの言う通りスルーできるモンスターはスルーして金の剣を探す。行くぞ!二人とも!」
パーティのリーダーだったイグレが指揮を取る。
こうしてるとナンティには文句言われそうだけど、なんかグレート団に戻ったみたいだ。




