第17話
開けたダンジョンの通路、両壁にアイテムを出品してる冒険者たちがズラッと並んでいる。
店構えは様々で、直接床にアイテムを並べ、その横で寝転がってるパーティや簡単な屋台を作り店を構えてるパーティもいる。
「結構な数のパーティが出品してるんですね」
「このダンジョンは未攻略でかなり流行ってるしな、そのおかげでダンジョンを中心に街ができるくらいだ。挑戦する冒険者が多ければ多いほどパーティマーケットも大きくなる」
「へぇ」
置いてある品物も多種多様で、武器や防具はもちろん装飾品や食料があった。周りを見渡しているとイスカが誘われるようにふらふらと歩き出し、とあるパーティの店の前に止まる。
そのパーティは風呂敷の上にお菓子を置いて並べていた。
「お菓子?なんで?」
疑問を口に出すと、お菓子を並べている冒険者は不機嫌そうに答えた。
「俺だって知らねえよ、ボスを倒したら大量のお菓子がドロップしたんだ。でも俺のパーティは全員甘いものが苦手で処分に困ってるんだ。先を急ぎたいが捨てるのも目覚めが悪くてよ、少しでも金になればと思って出したんだが……」
「ふーん……」
イスカはお菓子を見て目を輝かせていた。その姿を見たドラ子さんがにやりと笑いながら冒険者に持ちかける。
「よし、このお菓子全部買ってやるよ。見たところ異国のお菓子もあるし価値がありそうだ。細かいのが無いから金貨一枚でどうだ」
「うおぉありがてぇ!風呂敷ごと全部持ってってくれ。何ならこの場所も譲る!」
ドラ子さんの交渉は成立、俺たちは大量のお菓子を手に入れた。
金貨を受け取った冒険者は全てを置き去りそのまま行ってしまった。
「ダンク、これコンプスできるか?」
「できますけど……これ生菓子とかもあるじゃないですか。一度に食べきれる量じゃないしどうするんです?」
「ちょっと考えがある。とりあえずコンプスだ」
「はぁ……」
俺は魔力を集中させ風呂敷で包んだ洋菓子にコンプスを放つ。すると手の平サイズに収まるくらい縮んだ。
「できました……」
「次は俺が、アイスボール」
「おお、凍った。けどこれ不便なんじゃ……溶けるのに相当時間かかりますよ」
「いや、これは中は空洞にして凍らせたんだ。割ればすぐ取り出せるぞ」
なるほど、これは便利だ。
「しかも周りに冷気をまとわせて溶け出さないようにしてある。これなら汚さず持ち運べるだろう」
「本当だ、ひんやりしてるからカバンに入れてたら他の食材も長持ちしそうですね」
「ほれイスカ」
ドラ子さんはあらかじめ風呂敷から取り出していたペロキャンをイスカに渡す。ドラ子さんやっぱりだいぶイスカに甘いなぁ。
それから俺たちはパーティマーケットを見て回る。
「装備面で更新するようなものはないな」
「そうですか?全身鎧も売ってましたよ、ああいうのタンクとしては憧れるんですが……」
「そういうのは自分のパーティに帰ってからやれ。俺たちは先を急ぐパーティなんだ、あんなの装備したら進むのも遅くなるだろ。それよりお前がこのパーティにいるのは食料のためなんだ。そっちは見ててどうだった?」
「結構揃ってますよ、干し肉ばっかりかと思ったら干し米や野菜、油なんか売っていて驚きました」
「その辺はさっき言った稼ぎに来てるクランだろうな。さて、ざっと見たし必要な物買い足したら先へ進むか」
「はい」
俺たちはその足で食材を売っているパーティの元へ行く。
「米と油、野菜を下さい」
食材を売っているパーティの男はその細い目で俺を睨むように見て来た。
「えっと?」
「食材か、あんたダンジョンで料理をするパーティなのか」
「?ええ、まあ」
「俺は干し肉を買い足すようなパーティにはすぐ売るんだが、食材を買っていく奴には作った料理を作って貰うことにしててな」
「なんだそれめんどくせえな」
ドラ子さんは当人を前に、はっきりと言い放った。まあ、俺も同感だけど。
「過去に売った食料を持て余したのか、そのまま捨てられていたことがあってな。本当に料理できるかを見るんだよ。食材は売り物を使っていい」
「そんなことが……」
「しかたない、ダンクなんか一品作ってやれ」
「わかりました、じゃあドラ子さん火と水を――」
冒険者の提案に乗った俺たちはすぐに準備を始める。
売っていた米は保存の効く乾燥させた干し米で、ドラ子さんの火と水の魔法で戻してもらう。
それから鍋に油を敷き切った野菜と干し肉を入れ蒸し米と混ぜ炒める。最後に塩で味付けして調理を始めてから数十分後、簡単な焼き飯が完成した。
焼き飯の匂いに釣られたのか、俺たちの周りにはいつの間にかギャラリーがいることに気が付く。
「なんか人集まってきましたね」
「普通の冒険者は保存の効く味気ない飯しか食ってないからな、ダンジョンで料理するパーティは目立つんだ。それにパーティマーケットだから料理が売ってると思われたのかもな」
ドラ子さんに教えられ周りを見渡す。冒険者たちはみんな羨ましそうな顔をしていて、中には腹の音を鳴らすような冒険者もいた。
「さあ出来た、これ食べて食料売ってほしい」
「本当にちゃんと料理できるパーティだったんだな。どれ」
食材を売っていた冒険者は俺の作った焼き飯を一口食べる。
「う、うめぇ……手際もいいし、あんた冒険者の料理人か?」
「いやぁ、少し店の厨房に立ってただけでまだ見習いみたいなもんですよ」
「立派な料理人じゃねえか!ふむ、匂いでここまで人を引き付けるなんて金の匂いがするな。俺の名前はモイカ、あんた俺に一口のらねえか?」
冒険者は俺になんと商売の話を持ち掛けて来た。しかしドラ子さんはそれに口を挟む。
「おい待て、俺たちは先を急ぐんだ。メンバーに変な勧誘はやめてくれ」
しかし冒険者は食い下がる。
「いや、あんたたちにも悪い話じゃない。ここでちょっと料理を提供して行って欲しいんだ。メニューは今の焼き飯だ、ダンジョン内にいる冒険者なら多少吹っ掛けてもまともな飯は売れるだろう。勿論俺の店の食材は自由に使っていいし、成功すればあんたたちに売るはずだった食材をタダにしてやる」
「食材がタダになるのか……」
ドラ子さんは手を顎に当てモイカの食材を見ながら考える。
「まあ金に余裕ないわけじゃないが今日一日だけなら良いだろう」
あれ、ドラ子さん了承しちゃった。てっきりこういうのは断ると思ってたんだけどな。
「良いんですか?」
「先を急ぐのは食料に限界があるからだしな、それがここで必要な食料が手に入るなら少し寄り道する程度問題ない。それにイスカもやる気だしな」
ドラ子さんの言葉に釣られてイスカを見てみると既にやる気十分という顔をしていた。
「イスカがいいならいいか」
「うん、ダンクと話せるようになったし、また一緒にお店屋さんやってみたい」
可愛いこと言ってくれるな、じゃあちょっとこの冒険者を手伝うか。
「という訳で俺たちは全員賛成だ、俺はドラ子って呼んでくれ。デカいのがダンクでちっちゃいのがイスカだ」
「よろしくな、売るのは俺に任せろ。こんだけギャラリーがいるんだ呼び込みは必要ないだろう。という訳だ!みんな、これからさっきの焼き飯を販売するぞ!」
モイカは見ていたギャラリーに宣言するとギャラリーから歓声が上がった。
「よっしゃ!いくらだ!」
「値段は気にしない、俺が最初だ!」
「俺は大盛で頼む!」
思い思いの言葉を口にするギャラリーたちを並ばせて人数を確認するモイカ。
「とりあえず15人前だな、このくらいの人数なら全員に行きわたるだろう。値段はどうすっかな……」
さて、接客はモイカに任せて俺たちは料理に集中しよう。まずドラ子さんには火と水の魔法を使って干した蒸し米を調理できるようにしてもらう。
俺は具材を切り、鍋に全部入れて炒める。そうして出来た物をイスカに持って行ってもらう。
この人数ならそう時間もかからないで全員に提供できるだろう。俺たちは各自作業を始めた、と言っても一番時間がかかるのは俺なんだけどな。
数十分後、完成した料理を提供していく。俺の料理を食べた冒険者たちは次々と喜びの声を上げる。
「うめえ……ダンジョン内でこんな温かい飯を食えるとは」
「やっぱうまい物食うと先へ進む気力が湧いてくるな」
自分の作った料理の感想を聞くのはちょっとこそばゆいな。そんなことを思っていると料理を持っていくはずだったイスカが俺に話しかけて来た。
「すごいね、ダンクの料理が冒険者に力を与えてる。おかげでお客さん増えてるよ」
「え?」
俺はモイカの方を見る、すると並んでる客の数は全然変わってないし。それどころか列が増えてないか?
「ちょっとモイカ、この列どうなってるんだ?まさか全員に料理を提供するなんて言わないよな」
「この階層にいた別の冒険者たちも匂いに釣られて集まってきちゃったみたいなんだ。どうしたもんか……とりあえず君たち譲る食料を残して作れるだけ作ってくれるか?」
「えぇ……結構大変だぞ」
「頼む!商機なんだ、売り上げも君たちに多く渡すからさ」
俺はドラ子さんの方を見る、するとドラ子さんは寝転がりなら片手間に干した蒸し米を食べれるように戻していた。
見た限りドラ子さんも負担になってないようだし大丈夫だな、イスカも楽しそうだから今のところ問題ないけど。なんだか予期せず忙しくなってきちゃったな。
「はぁしょうがないなぁ……」
「助かる!」
それから一時間、俺は鍋を振り続けた。
冒険者は次から次へと押し寄せ、列は途切れるどころか伸びていく。
気づけば食材は底を尽きかけていた。
「モイカ、もう食材がなくなる。これでラストだ」
最後に作った一皿を出し俺はモイカに伝える。もう材料がないと知った並んでいた冒険者たちはみな残念そうな声を上げた。こんな声を上げてもらえるなんて料理を作る者として嬉しい限りだ。
けど俺たちはこのダンジョンの頂上を目指すパーティだ。いつまでも飯屋をやってる訳にはいかない。
「すいません食材が無くなったので終了です」
モイカは最後の一品を客に出した後、並んでいた客に頭を下げて解散させた。
「いやー売れたな。食材は上級ランクの冒険者やクラン所属のパーティが買っていくから一応置いてはいるんだけど売れ行きは芳しくなくてな。おかげで食材がほとんど金になったよ。ほらこれ売り上げ」
俺たちは約束していた食料とそれぞれモイカから金が入った袋を貰う。
「特にダンクはお疲れだったな」
「まさかダンジョンに登ってまで店で鍋を振ることになるとは……」
「なあ、見た所あんたたち訳ありパーティだろ?」
「何のことかな」
静かな声で聞いてきたモイカに俺は軽くごまかしてみた。
「ごまかさなくても見りゃ誰でもわかるさ、子供を連れているパーティなんて訳ありじゃなかったら何だってんだ」
「まあ普通はおかしいと思うだろうな」
ドラ子さんもモイカの質問に納得するように頷いた。
「その子たち二人は訳ありの子としてダンク、君はただの冒険者だよな」
「まあそうだけど……」
「俺は君に一番才能を感じている。もしこの訳ありパーティの用が終わればウチのクランに来ないか」
おお、勧誘なんてされたのは初めてだ。ちょっとうれしいぞ。
でも今回は特別な依頼だったからダンジョンに潜ってるけど、本来は引退した身だしな。
「勧誘はうれしいけど俺はこの冒険が終わればこの街にある飯屋に戻る予定なんだ、それにこの勧誘は冒険者としてじゃなくて料理人としての勧誘だろ?」
「間違いじゃないけども料理できる冒険者だ。ダンジョンの中で飯屋を出せれば絶対儲かるぞ!」
「今回は金目当てでダンジョンに上ってる訳じゃないからな……今のところ他で料理作る事は考えてないんだ」
「……そっか、まあ儲け話が必要になったら俺たちのクランに来てくれ」
「ああ」
俺たちは握手を交わした後モイカは店を閉めてダンジョンを降りて行った。
「あいつらのクランは結構大きい所なのに勿体ないな」
モイカを見送る俺にドラ子さんは言った。
「料理で稼げると分かった今冒険者に固執する必要はないですからね、それに料理するなら安全な所でしたいし」
「ふーん、まあどのみちこの依頼が終わった後のことなんだからお前の好きにすればいいさ。さて、今日はこの階で休むか」
「でもこの階層冒険者が多いから少し移動した方が良いですね」
「ああ、誰かさんが料理で客をたくさん呼んだからな」
俺たちは歩きながら今日の寝床を探す。結局今日はほとんど料理で終わってしまった。
「ダンクの料理を食べた人たちみんな笑顔になってたよ。食べた後そのまま次の階に向かった人もいたんだから」
イスカはずっと客に料理を運んでいたからか、俺の料理の評判を教えてくれた。
「美味い料理を食えば士気が上がるからな……お、この辺が空いてるな、今日はここで休もう」
俺たちはパーティマーケットを離れて丁度いい広さの通路を見つけ、荷物を置き落ち着いた。
「今日はお菓子も食材も手に入ったからちょっと豪勢にしようか」
「わーい」
その日の夕食はすぐ痛む食材をたんまり使ったシチュー。デザートはパーティマーケットで買った名前は分からない皮の中に黒く甘い中身が入った丸いお菓子。
多分ダンジョン入って一番豪勢な夕食になっただろう。
夕食を終えさあ休もうとした時イスカは俺の隣に座った。
「イスカ?もう寝る時間だぞ」
「ダンク忘れたの?寝る前にいっぱいお話ししようって約束したよ」
そうだった……イスカと話せるようになったから、ついそんな約束をしてしまったんだ。
「でもイスカも疲れてるだろう?ちゃんと休まないと……」
「えーお話しするくらいなら全然できるよー」
「じゃあ今日は二人に見張りを任せるかな」
なんとドラ子さんはイスカを止める所か夜更かしする口実を与えてしまった。
「ドラ子さんはイスカの夜更かしに賛成なんですか?」
「俺たちは親じゃなくてパーティーメンバーだからな、持ち回りの役がイスカに回って来たってだけだと思え」
「むぅ……」
「で、初めての役割なんだから誰か一緒についているのは当然だろ?俺は今までずっと見張りをしてきたしここはダンクが一緒にやるのは自然な流れじゃないか。ま、そのうち交代はしてやるから安心しろ。オヤスミー」
ドラ子さんはそう言って横になると目を閉じ寝てしまう。
至極まっとうな意見を言われ俺は何も反論する事が出来ず、黙ってイスカの話し相手になる事が決定した。
「でもイスカ、無理するなよ?眠くなったら寝て良いんだからな?」
「大丈夫だよーじゃあ前に話した続きからねー。パパったらね――」
それからイスカが眠りにつくまでにまた三時間はかかったのだった。




