第16話
21階に上りしばらくすると開けた場所に出る。
今日はまだ少ししか進んでいない、けどドラ子さんの提案で小休憩を挟むことになった。
俺はその場で敷物を敷く。
「イスカもずっと話したがってたしな」
「ドラ子さんありがとう」
俺はお茶とお菓子の準備をしていた。ドラ子さんも結構イスカに甘い。
「そう言えばイスカの話って俺がそのまま聞いてもいいものなんですか?」
果物をカットしながら俺はドラ子さんに尋ねる。
「それなんだよなぁ。イスカ、とりあえず種族の話はしちゃだめだぞ」
「えー、パパとママの話はー?」
「それならギリいいか?いや、内容によっては……どうすべきか」
「俺が知りたいのはイスカが落ちて来た経緯ですけどそれもダメですか?ドラ子さんは聞いてるんですよね」
入れたお茶とカットした果物を全員に出し、俺も敷物の上に座り二人の会話に入る。
「まぁそれくらいなら……どうせダンクも最上階を目指すんだしな」
「じゃあまずはわたしが落ちた時のことを教えてあげるね。このダンジョンの一番上にはわたしがよく遊ぶ場所があってー」
ん?ダンジョンの一番上ってボスとかいるものじゃないのか?
「そこにひとりの冒険者さんがきてたの。わたしは怖くなって隠れちゃったんだけど冒険者さんが突然怒っちゃって……その衝撃で床がくずれてダンジョンの上から落ちちゃったんだ」
んん、なんだか要領を得ない説明だったな。つまりイスカが落ちて来た元凶はその冒険者ってことなのかな。
「冒険者さんは崩れた床にわたしがいるのに気づいてすぐ魔法をかけてくれたんだけど、そのまま下まで落ちちゃって……」
「落ちて来た時イスカには魔法がかかっていたのか……だから傷ひとつなかったんだ」
「そだよー」
「でもイスカの遊ぶ場所で突然怒る冒険者なんて、物騒だなぁ……」
「ねー、いきなりだったから怖かったよー」
イスカはあまり緊張感ない態度で言った後お茶をすすった。
「その冒険者については俺が教えよう。イスカには前に話したんだがそいつは俺の教え子なんだ」
「えっドラ子さんに教え子!?」
「ああ、たまに馬鹿みたいに才能がある奴の面倒を押し付けられるんだ。特徴を聞く限りイスカが出会ったのは俺の教え子で間違いない。ちょっと前にそいつらからこのダンジョンを登るって聞いてたしな」
「という事はこのダンジョンは既に攻略されたんですか?そんな噂聞いたことないですが……」
「まだだろうな。大方そのイスカの遊び場ってのに手間取ってるんだろう。で、その冒険者ってのが現Aランク冒険者、瞬光のラキって奴だ」
「一人でダンジョン攻略を……」
「俺が教え子に聞いた時は二人で登るって言ってたんだがなぁ。イスカと出会った時は一人だったんだろう?」
「ヴィ」
「それでもたった二人で……Aランクは凄いなぁ」
冒険者ランクはA~Eまである、初心者に毛の生えた程度の俺は当然一番下のEランク。
ランクを上げるには依頼をこなし実績を作っていくしかないって話だ。それでギルドから認められると上に上がれるらしい。
俺はまだそこまで言ったことがないから全部聞いた話だ。
「Bランクから上に上がるのは相当難しいって聞いたことあるんですが……Aランクの教え子ですか」
「肩書だけはデカい単なるガキだよ」
普通は大きいクランを作ってランクを上げるみたいだけど、稀に少人数や個人でAランクまで上り詰める冒険者もいるって噂は聞いたことがある。それがドラ子さんの教え子だったんだ。
「もう一人もAランクなんだがどこで何をしてるやら……で、空翼人のこともあるし俺が直接イスカを送り届けるってことになったんだ。あと、こんなことをしでかした馬鹿をきっちり叱ってやらんとな」
ドラ子さんは怒りながら拳に力を籠める。怒気がひしひしと伝わってきて怖い。
「わたしが落ちた時のことはこんな感じだよ、次はダンクの話を聞かせてよ」
「俺?俺の話は平凡だよ……農家の三男だから家を継ぐわけでもないし、だったら冒険者になって一山当てようと思ってね。村の友達だったイグレたちと村を飛び出したんだ」
「ホントに平凡だな」
「よく聞く話だねー」
分かってるよ、だから前置きしたのに。言葉が通じるようになったのは嬉しいが、イスカって意外と遠慮がないな。地味に心が痛い。
「じゃあね、わたしの話するよー。あ、でも話しちゃダメなこと分からないや」
イスカはそう言ってドラ子さんの方をちらりと見る。
「俺も横で聞いてるから自由に話せば良いさ。危なくなったら止める」
ドラ子さんが優しい顔でイスカにそう言うとイスカはウキウキしながら話し始めた。
「やった、じゃあねじゃあね――」
――それからイスカが話し始めて気づけば三時間は経った。
お茶の湯気は消えていて、果物も全てイスカのおなかの中に納まっている。
「それでねパパったら……」
「ちょっと待ったイスカ!」
「え、どうしたの?」
突然会話を止めた俺に驚くイスカ。もうずいぶん前から会話を切ろうと思ってたんだけど、なかなかタイミングがなくイスカの話は途切れなかった。
話が長すぎてドラ子さんなんかもう腕を組みながら寝てるし。
「もう結構話を聞いてイスカのこと分かったしさ、そろそろ出発しないと。ドラ子さんも寝ちゃったし」
「えっそんなに時間が経ってたの?ダンジョンの中だとどれくらい時間たったか分からなくなるよ」
「ああ、話の途中で遮っちゃってごめんな。時間があったらまた聞くからさ」
「じゃあ寝る前にお話ししようね」
「え?あ、あぁ……」
のんびりと返事をしたイスカにさらりと約束を取り付けられてしまった。あんなに喋ったのにまだ話したりないんだ。
「ふぁーあ……話し終わったというかダンクが根を上げたってところか」
俺たちが話していると腕を組んで目を瞑っていたドラ子さんは急に会話に入って来た。もしかして寝てたんじゃなくてずっとイスカの話を聞いていたのかな。
「ドラ子さん起きてたの?」
イスカはドラ子さんに尋ねた。
「いや、寝てたよ。でも会話は聞いていた。俺は寝ながらも聞けるんだ」
ドラ子さんはドヤ顔でイスカに説明した、本当何でもできるドラゴンなんだな。
「さて、じゃあさっさと進むか」
辺りを片付けて再び俺のレベリングをしながら先へと進んだ。
そうしてダンジョンを登り25階、何やら雰囲気の違う階層に出る。階段を上がった途端、今まですれ違う事の方が珍しかった他の冒険者二組とすれ違ったのだ。
「ほう、ここは……」
ドラ子さんは心当たりがあるのか納得したような顔をしている。
「この階に何かあるんですか?さっきの冒険者たちもなんか違和感ありましたが……」
「ここは恐らく冒険者が開拓した階。パーティマーケットだ」
「パーティマーケット?」
「そう、ダンジョンに一つはあると言われてる冒険者たちの市場だな」
「ダンジョンの中ですよ?」
「ダンジョンの中だからこそ、だ」
「?」
ダンジョンだから?モンスターも出現する危険なダンジョンになんでわざわざ冒険者が市場なんて作るんだ?
疑問に思っているとドラ子さんは説明を続けてくれた。
「ここではドロップアイテムだったり食料を売ってくれる冒険者たちが集まってるんだ。理由は様々、単純に手に入れたドロップアイテムが持ちきれなかったり自分に合わない装備を売るため」
なるほど、すれ違った冒険者はあまり荷物を持ってなかった。ここで売ったんだ。
冒険者が持てる量には限りがある。進む冒険者と帰る冒険者がこの階層でお互いに必要なものを売り買いしてるんだ。
「あと、ここで金を稼いでる専用のクランなんかもあるな」
「じゃあ食料なんかも手に入りそうですね」
「ああ、多少は値が張るがな」
「ねえ!なんか楽しそう!見てみたいな。行ってみようよ」
イスカが俺たちの手を引き先を急かす。
「じゃあちょっと見てみるか、食料を買い足すのは俺も賛成だしな」
ドラ子さんからお許しを得た俺たちは早速パーティマーケットに向かった。




