第13話
10階ボスのソロ討伐を果たした俺だが、地獄のレベリングはまだ続いていた。
「アタックガード!」
現在15階、俺のレベルは18にまで上がっていた。以前までの俺からすると急成長だろう。
新しく装備した鍋の取り回しは上々だ、鍋なのになぁ。
ダンジョンの進み方も、俺のレベリングから先を急ぐ方にシフトしている。
故意にモンスタートラップに入るなんてことは無く、次の階への階段までに出現するモンスターだけを倒している状態だった。
「ほら!次」
「はい!」
俺たちの進むペースはその辺の冒険者たちなんかより断然早い、それこそ途中何度か他のパーティを追い抜いたほどだ。
追い抜かれたパーティもモンスターを倒し爆速で駆け抜けて行く俺たちを見て、唖然とした顔をしていた。
そして次の階へ上がる階段前、俺たちは軽食を取りながら休憩していた。
ちなみに軽食は蒸かした芋だ様々な調味料を用意しているからイスカは笑顔で頬張っていた。
「そろそろフォーメーションを意識してこうと思う」
「フォーメーション?」
「最初は俺がイスカにくっついて進もうと思ってたんだけどな、けどそうすれば自然とイスカも前に出て負担をかけることになる。けど、せっかくタンクがいるんだ、お前にはイスカの文字通り盾になってもらうと思ってな」
「盾ですか、でも俺まだレベル低いし……」
「その為のレベリングだ、どの道ブレイブガードを覚えるまで続けるから心配はない。次の戦闘からちょっとフォーメーションを試してみるぞ、敵がまだそんなに強くない内に練習しときたいからな」
「わかりました」
話し終わるとドラ子さんは俺の作った蒸かし芋を頬張った。
「ん?何だこりゃ。美味いな」
「えっ!」
ドラ子さんは以前、種族が違うから味の感じ方も違うって言っていた。けどこの芋は美味いのか。新しい鍋のおかげかな。
「こりゃ竜気が含まれてるな、その鍋そんな効果があったのか。うん、俺でも美味く感じるぞ」
そう言ってドラ子さんは次の芋にも手を付ける。
「そうだったのか、でも竜気って俺たちが摂取しても大丈夫なんですか?」
「味付け程度にしか含まれてないから大丈夫だろ、これで何十年も飯を食ったら竜人化するかもしれないが――なるほど種族チェンジの可能性がある鍋か、こりゃ案外お宝かもしれないな」
「この鍋が……」
正直ただの鍋だと侮ってた。でも思えば宝箱から出て来たんだ、凄い性能があるのは当然かもしれない。
しかしドラ子さんは食べ物に竜気が含まれるだけでここまで違う反応するのか、こりゃ色々な料理試したくなるな。
試しにそのままのニンジン一本を鍋で蒸かしてみる。
「ドラ子さん、これ作ってみたんだけどこれも食べてください」
少し切れ目を入れて蒸かしただけのニンジン、ドラ子さんはそのニンジンじっと見た後パクリと口の中に入れた。
「うっめー!お前料理の天才かもな!」
そう言ってドラ子さんは俺の方をバシバシ叩く。
特別なことは何もしていないただの蒸かしニンジンをここまで美味そうに食うとは、この人さては竜気があれば何でも美味く食べれる人だな。
ともあれこれからはドラ子さんも一緒においしい食事を楽しめそうだ。
「この鍋が手に入って良かったかも」
鍋を拭きながら一人つぶやいた。
休憩を終え先へ進む。
広めの通路、俺とイスカはドラ子さんに言われ立ち止まる。
「さて、ここから先はモンスタートラップだ」
「何の変哲もない通路に見えるんですがなんで分かるんですか?」
「こればっかりは経験だな。で、さっきのフォーメーションの話だ」
ドラ子さんは俺たちに向かい合うとしゃがみ込み、地面に石で図を描く。
「トラップに入った後まず俺が先頭、続いて少し離れてダンクの後ろにイスカという至ってシンプルな陣形を取る。イスカはダンクにディフェンスブーストをかけるんだ、でダンクはイスカを守る。良いな?」
「ヴィ!」
イスカはやる気満々だ。
「それでモンスターを瞬殺するんですね」
「そんなことをしたら練習にならないだろ、俺は二、三匹モンスターを見逃す。しばらくイスカを守って見せろ」
「えっは、はい」
「心配するな、イスカに攻撃が向けられたら即中止にするから」
「お、俺が危なくなったら……」
「……さあ張り切って行こう」
俺の不安はドラ子さんにスルーされた。
そして三人でモンスタートラップに入る。すると周囲に複数のモンスターが出現した。周囲に緊張感が走る。
ドラ子さんはさっき言ったフォーメーション通り、先頭に出て我先にとモンスターの群れに飛びかかる。
俺もイスカの前に出て盾代わりの鍋を構えた、後ろではイスカが俺にディフェンスブーストをかけてくれる。背中が少し暖かく感じられた。
「よし準備万端だ」
俺の声が聞こえたのかドラ子さんがいる先頭から三匹のモンスターが迫ってくる。後ろにはイスカがいる、そう思うと緊張で心音が早くなってきた。
「……よし、来い!」
一匹目のモンスターはヘビ型モンスター、こいつは俺を狙って攻撃を仕掛けて来た。それを軽く盾でいなす。
二匹目は体が小さい小型のネコ科のモンスター、こいつは明らかにイスカを狙っていた。俺は素早く攻撃パターンを見極めようと攻撃の起こりを観察する。モンスターは爪を構えていて、十中八九単体攻撃。これはチャンスだ。
「アタックガード!」
俺はイスカを庇いスキルを使う、するとモンスターの攻撃は弾かれ反動でドラ子さんの方へ吹っ飛んでいく。ネコ科モンスターはそのままドラ子さんの攻撃に巻き込まれ倒された。
そして三匹目、こいつは羽ばたきながら飛んでいて距離を詰めてこようとはせず中距離を保ったままだ。そして空気がモンスターに吸われて行くのを感じる。
「範囲攻撃か!?プロテクト!」
すると次の瞬間モンスターは俺たちに向けて炎を吐く。少し熱いけど俺が前に立つ事で炎がイスカに届くことはなかった。
何とか範囲攻撃も鍋で防ぎきり、三体のモンスターの攻撃を全て防ぐ事に成功する。
「ここまではいいけど……」
当然モンスターを倒さない限り攻撃は続く。
「やっぱり終わらないよなぁ、練習って言ってたしドラ子さんはすぐ来ない……か」
俺の力では時間をかけないとモンスターは倒せない。
そんなことを考えていると更にもう一匹ドラ子さんが戦っている所からモンスターが迫って来た。ドラ子さん、これ最初からキツ過ぎませんか……!
俺はまた三体のモンスターを前に盾を構える。
「はぁはぁ、疲れたけどまだいける……」
俺はつぶやきならがらモンスターの攻撃を防いでいた。息は切らしながらも何とかくらいついて行ける。
このレベルのモンスター三体からなら俺でもイスカをしっかり守れるな。
「敵の動きはバラバラ、なら一体づつ注意すればいい」
それからまたも炎で範囲攻撃をするモンスターが動き出す。俺はイスカの目の前に立ち構えた。
炎の範囲攻撃によって一瞬視界が塞がれる、この時が一番緊張する。視界が開けたすぐ後に攻撃を食らうかもしれないからだ。
そして予想通り炎を防いだすぐ後、別のモンスター攻撃を仕掛けて来た。だがギリギリで防ぐ。
「連携みたいなことしてくるなんて!」
何とかいなした後モンスターたちを確認する。しかし目に映るモンスターの数は二体。
「一体いない!?」
しまった!どこへ――!
「ダンク&#*!」
イスカの叫ぶような声が聞こえて思わず後ろを振り返るってしまう。するとイスカは指で上を指していた。
俺より後ろにいたイスカは俺の視界から外れたモンスターの動きが見えたのだろう。その位置を教えてくれていたのだ。
イスカの言葉の意味が分かった瞬間、後頭部に強い衝撃を感じて俺はそのまま意識を手放した。
「う、うん……はっ!」
俺は目を覚ました瞬間周囲を確認する。既に辺りにはモンスターの姿は無く、すぐそばにはイスカが俺を見守っていてくれていた。
「ダンク……」
「イスカ大丈夫か!モンスターは、ドラ子さんは!?どうなった!」
俺はイスカの肩をつかみながらイスカの怪我の有無を確認する。
「落ち着け、イスカがびっくりするだろう」
後ろから声が聞こえて振り向いてみると、ドラ子さんが宝箱の中身を確認している最中だった。
「モンスターは全部倒したよ。もともとこんな階層のモンスタートラップなんてあんなに時間かけなくてもクリアはできたんだ。お前がどこまでやれるか見たかったから時間かけたんだが」
「やっぱり……」
「だけどすまなかった、そっちの状況は見てたんだけどお前が倒れる前に間に合わなかった」
ドラ子さんはその場で頭を下げてくれた。
「これは多分、事故ですよね。俺どれくらい倒れてました?」
「倒れてた時間はそんなに長くない、十数分ってとこだろう。まさか俺もあんなことになるとは」
「イスカはモンスターの場所を教えてくれていたんですよね」
「ああ、あの言葉は俺も聞こえたよ。上って言ってたんだ。言葉が分かればお前でも十分防げただろう」
「だけど俺は見えなくなったモンスターに焦ってつい必死な声を上げたイスカの方を向いてしまった……」
「そのあと後頭部にモンスターの攻撃が直撃、すぐにモンスターは全滅させたが、一発目は防げなかった。見たところ威力は高くなかったようだが……体調はどうだ?」
俺は立ち上がり少し体を動かしてみる、後頭部はちょっと痛いが問題はなさそうだ。
「大丈夫です、問題ありません」
「この階層で練習しておいて正解だったな。上層階だったら、今のミスは死に直結していたぞ」
「……ですね。よかったぁ」
ふと横を見てみると、イスカは俯いていた。
「イスカずっとお前の横で心配してたぞ、自分が声上げたからダンクがやられたってな」
「そうだったのか……でもあれはイスカのせいじゃない。モンスターの場所を教えてくれたんだろう?イスカの言葉を分かっていたら防げていたんだ」
「ダンク……」
「まあ今回はダンクの言う通り事故なんだが……意思疎通出来ないってのは辛いだろう。どうすっかな……」
ドラ子さんは腕を組みながら考え込む。
「俺、イスカの言葉覚えますよ。方向を表す数単語くらいなら何とかなると思いますし」
「うーん……」
俺の言葉を聞いたドラ子さんは唸ったまま、あまり良い顔はしなかった。
そればかりか、妙にじっとりとした視線でこっちを見る。何か悪い事でも言っただろうか。
「な、何か問題ありますか?」
「まずその性質上空翼人の言語はわざと難しくなっているし発音しにくい。正直言葉を覚えるのに時間を割くくらいなら先を急ぎたい所だ」
確かに、イスカが喋る言葉は俺ははっきり聞き取れていない。数単語とは言え覚えるのにちょっと時間がかかるかもしれない。
「それに空翼人はな、その昔公用語を捨ててまで自らの存在を隠そうとした過去があるんだ」
「どうしてそこまで……じゃあ空翼人、イスカが使っている言語も機密って事ですか?」
「そう言うことになるな、それより最初から言葉を理解できるイスカにこっちの言葉を覚えてもらう方が早いだろ。どうだイスカ?」
ドラ子さんの言葉にイスカは頷いた。
確かにイスカはこちらの言葉を理解してるし、何回か教えるだけですぐに使いこなす。俺が最初から覚えるより効率はいいか。
それからはまたも俺のレベリングをしながら先へ進む。とりあえず今日は進めるだけ進んで、イスカに言葉を教えるのは休んでるときにすることにした。




