第12話
翌日、俺たちは早々に準備してボスに挑もうとしていた。
「いいか、俺はボス部屋に入ったら一切動かずイスカを守る。最初から最後まで、ボスはお前が倒すんだ」
「わ、わかりました……」
「そんな不安そうな顔をするな。もしダメそうになったら助けてやるから」
緊張が伝わったのかドラ子さんは俺の肩を叩き励ましてくれる。
レベルが勝っているとは言え、ボスは本来パーティで倒すものだ。
何回か倒した相手でもソロは初めて、やっぱり緊張する。
けど、ドラ子さんについて行くにはこれが最低ライン。俺は意を決してボスの部屋に足を踏み入れる。
入った直後、後ろからバサッと何かを広げる音が聞こえ後ろを振り返る。するとそこには、敷物の上でお茶の準備をしている少女二人がいた。
「あの、俺これからボス戦なんですが……」
「知ってるよ、頑張れよ。応援してるぞー」
「ガンバー」
ドラ子さんもイスカも緊張感の無い状態で俺に声援をくれる。戦わないとはいえボスの間でこんなリラックスしてていいのかな。
そんなことを思ってると、とうとう部屋の真ん中にボスが姿を現した。
「ヂッ」
ヘッドデスマウスが子分のデスマウスを数十匹連れて出て来た。デスマウスは30センチくらいの大きな鼠だ。これらを一人で倒すのか。
攻撃手段をほぼ持たない俺の戦術はいたってシンプル。敵の攻撃をアタックガードで返し続ける、たったそれだけだ。
ここに来る前、準備中にドラ子さんが話したことを思い出す。
『いいか、俺たちがモンスターに囲まれるなんて出来事はざらにある。だからまず自分の身を守ることに慣れろ。10階のボスは群れを成すヘッドデスマウス、これに一人で対応する事ができればお前の生存率は格段に上がる』
逆に言うと俺がここのボスを倒せないと、先へは進められないって事だ。イスカのため時間がかかっても絶対ここは突破してみせる。
俺は盾を構えながらデスマウスの群れに近づいて行く。
早速デスマウスの群れが列をなし俺に突っ込んできた、ここは冷静にスキル・プロテクトを使い群れをいなしながらボスへ向かう。
プロテクトは防御力を底上げして尚且つ、一定以下のダメージを無効化する。
ドラ子さんは俺のレベルでのプロテクトならデスマウスの攻撃を無効化できるって言っていた。
そしてその通り、デスマウスの突撃攻撃はプロテクトを貫通することは無く俺は難なくヘッドデスマウスの目の前までやってこれた。
周囲の攻撃をものともせず、突然前に出て来た俺に驚いたのかボスはとっさに引っかき攻撃をしてくる。これがチャンスだ。
「アタックガード!」
盾を構えながらスキルを発動する。すると引っかき攻撃は弾かれボスにダメージが入る。
「ヂャ!」
攻撃が弾かれたボスは怒ったようで、周囲に命令するように大声を上げた。
「ヂー!」
だけどデスマウスは俺に向かってくることは無く入口でリラックスしていた二人に向かってしまう。
「ドラ子さん!イスカ!そっちに!」
「まったく、なんでこんな後ろにいる俺たちを狙うんだ……」
デスマウスの突撃攻撃が二人への距離をどんどん縮めていく。
しかし、ドラ子さんは隣に座るイスカ以外全てを威圧する。勿論俺も威圧された。
勢いづいていた列は一瞬ピタリと止まりその後、一斉にばらけ散り散りにボスの後ろへ戻って行った。
同じく威圧を受けたボスも俺も一瞬動けなかった。あれがドラ子さんの威圧か、怖いな。
あの威圧があれば二人が襲われる心配はない。俺とボスは仕切り直すようにお互いの距離を取る。
ボスも俺だけに狙いを絞ったのか周りに再度攻撃を命令を出す。
俺は再びいなし、さっきと同じように前に出る。けど先程とは違いボスはすぐに攻撃してこなかった。
そればかりか目の前に立つ俺に威嚇してきた。
「ヂャー!」
目の前の威嚇に、今度は俺が驚いてしまって一瞬体が固まってしまう。
その直後、ボスの尻尾が鞭のように横から飛んできた。
「うわっ!」
完全に判断ミスだ、威嚇にビビって尻尾攻撃の直撃を受けてしまった。
しかもさらに攻撃は続く、群れの突撃が向かってきたのだ。
俺は横に転がり何とか避けた。
「アホー、せっかくの反撃チャンスなのに食らってどうするー」
後ろのドラ子さんからもお叱りを受ける。全くその通りだ、何回か戦って行動パターンは分かってたつもりなのに反応できなかった。
やっぱりパーティで戦うのとソロは違うな。気をしっかり引き締めないと。
突撃をいなし、再び前に出る。さてボスは次にどう出るか。
俺は盾を構えながら様子を見る。しかしボスは俺のアタックガードを警戒してか、自ら手は出してこない。
代わりにデスマウスたちがボスの前に並びその大きい前歯を向けて来た。
「プロテクト!」
いなそうとするが、先程と違い列をなさずバラバラに攻撃してきた。これじゃスキルの発動時間内に避けきる事が出来ない。
俺はスキルが切れた瞬間盾で目の前のデスマウスを殴りつけた。
「とりゃぁ!」
「良いぞダンク、防御は最大の攻撃だー」
「コウゲキー」
俺の攻撃法に外野も湧いてくれた。
デスマウスを数体叩き落とし、再び前へ出る。
「今度は待ってやらないぞ!」
「ヂッ!」
「てりゃぁ!」
デスマウスにやったようにボスにも俺の盾をお見舞いする。
盾で叩く攻撃はそんなにダメージは高くない、けど挑発には十分使える。
中途半端なダメージを与えられてボスは怒ったのか、しなる尻尾を振って来た。
「これを!弾く!」
ボスの尻尾は盾に弾かれて、思い切り吹き飛ぶ。
「どうだ!」
俺の最大の攻撃手段、アタックガードが決まって喜んだのも束の間。その直後、横から襲ってきたデスマウスの前歯を食らってしまう。
「いてぇ!」
「こら、油断するな!常に周囲のモンスターに気を配れ!」
「コラー!」
「す、すいません」
再びプロテクトで身を守って周囲を殴りながらボスに近づいて行く。
スキルで身を守ってるとしてもこの数のモンスターはやっぱりキツいな。
となればアタックガードをボスだけではなく、周りのデスマウスにも使って数を減らしていくしかないか。
「うおぉぉ!アタックガード!」
俺は前歯で襲ってくるデスマウスに盾を構え向かった。
アタックガードで前歯が弾かれたデスマウスは飛ばされ再びボスまでの道が開く。
「よし、何となくパターンが分かってきたぞ!」
こいつらは必ず先に群れで襲って来る、その後にボスが来るなら順番に対処できる。
グレート団にいた時は、数とコンビネーションの力でボスに攻撃してたから分からなかったけど、こいつらはしっかり連携取っていたのか。
「こいつは攻撃回数も少ないし一発が分かりやすい、これなら見切れる!」
俺は再度ボスに盾で殴りかかった。
そして幾度もスキルでボスにダメージを与えて数時間が経った。
「はぁはぁ……」
「ヂュー……」
俺はボロボロの状態でボスと真正面からにらみ合っていた。
他の敵を全て倒し、もういない。この数のデスマウスを一人で倒せたんだ、やるじゃん俺。
けど流石に体力の限界が近い。もう少しで倒せると思いたいけど……ソロ討伐初めての俺の勘はちょっと信用できない。
「だからちょっとでもダメージを与える!」
もう何度目かもわからない程やった盾で殴る攻撃を繰り出す。
当然近づけばボスも攻撃を仕掛けてくる、それをスキルで弾き返す。既にパターン化された動きを繰り返す。
けどそのパターンに完全に安心しきっていた。たぶん数時間戦っていて集中力も散漫になってたんだろう。ボスは前歯で攻撃してきた。
今まで見た事ないパターンに、俺は一瞬反応が遅れて前歯攻撃を防ぎきる事が出来なかった。
「うわっ!」
「ダンク!」
攻撃を食らった瞬間、背後からイスカの悲鳴のような声が聞こえる。
前歯は脇腹をかすめ結構なダメージを貰ってしまった。
「くっ……やっちゃった」
ヘッドデスマウスとは何度か戦ったことあるし、この攻撃も知っていた。けど、すっかり油断していた。
今ならわかる、この前歯攻撃はこのボスの奥の手なんだ。多分、体力をある程度削らないと出してこないんだろう。
脇腹を抑えながらうずくまってる俺に、ボスは追撃と言わんばかりに再び前歯攻撃を仕掛けてくる。
俺は無理やり立ち上がりアタックガードで前歯を弾いた。脇腹に尋常じゃない痛みが走る。
「ぐぅっ!」
ボスはすかさず尻尾を振り下ろしてくる。
ここにきて積極的に攻撃してくるなんて……!これはアタックガードが間に合わない。
「プ、プロテクト!」
今の俺にできるのはダメージを軽減する事だけだ。
こいつの攻撃はプロテクトでは無力化できない、尻尾を受け俺はまたもダメージを受けてしまう。
「……け、けどそっちから近づいて来てくれるなら!」
追撃とばかりにボスは再び前歯を向けてくる。
「これだ!アタックガード!」
前歯から突っ込んできたヘッドデスマウスはスキルによって体全体が弾かれてしまう。
「こっちも追撃だぁ!くらえ!」
俺は尻尾攻撃を食らわないようその場でジャンプする。力を入れたおかげでわき腹から血が噴き出した。だけどこのチャンスを逃す訳には行かない!
「うおぉぉ!」
ボスの鼻先に盾を叩きつける。
「ヂャ……」
その攻撃がトドメとなりヘッドデスマウスは倒れ起き上がる事は無かった。
「はぁはぁはぁ……た、倒したか……?」
俺はその場で尻もちをついた、倒した安堵もあったけど体力の限界で既に立ってられなかった。
「まったく、最後の確認まで油断するな」
いつの間にかすぐ後ろにはドラ子さんが来ていて、驚く俺を無視してすぐにヘッドデスマウスを確認する。
「ふむ、息は無いな。よく頑張った。10階ボスソロ討伐完了だ、おめでとう」
「やったぁぁ!」
俺は喜びの声を上げながらその場で仰向けに倒れた。隣にはイスカもやってきていてリジェネレートを掛けてくれた。
「ありがとうイスカ、生き返るぅ~」
おかげで疲労も痛みもどんどん薄れていって体力も戻って来た。
「俺的にはもう少し早く討伐できると思ったんだがなぁ」
「俺どれくらい戦ってました?」
「四時間半ってところだな、他にダンジョン攻略者がいなくてよかったよ」
思ったより長い間戦っていたな、そりゃ疲れるわけだ。
そんなことを話していると部屋の中央に宝箱が現れた、ボスの討伐報酬だ。
「さて、中身はなんだろなぁ」
ドラ子さんは回復している俺より先に現れた宝箱を開けようとするが俺は慌てて立ち上がる。
「ボス倒したの俺なんですから俺に開けさせてくださいよ」
「まあそうだな、じゃ早く開けてくれ」
俺はさっそく宝箱を開ける、中に入っていたのはなんと――
「な、鍋?」
そう宝箱に入っていたのは誰がどう見て大きな鍋だった。宝箱に入っている鍋は非常にシュールだ。俺は宝箱の鍋を手に取ってみる。
「えと、これがボス討伐報酬ですか」
「戦闘には関係ないが……多分レアアイテムの類だろうな。ちょっと待ってろ、鑑定してみる」
ドラ子さんアイテムの鑑定もできるのか、この人何でもできるな。
「えーとなになに、名前はドラゴン族の中華鍋。ドラゴンが踏んでも潰れず吐くブレスにも耐える程の強度を持つ鍋。ただし実際にそんなことをしたら料理人が持たないので注意。って説明だ」
「へぇ、とんでもない強度だ。確かドラゴンのブレスって超高温なんですよね」
ドラゴン本人であるドラ子さんに直接尋ねる。
「まあ種類にもよるが鉄で出来た装備なんかは三秒もしないで溶けるな」
「そんな炎に耐えられるなんてすごい強度だけど……鍋かぁ。個人的には惜しいけどかさばるから置いていきましょうか」
「いや、待て……」
ドラ子さんは鍋をじっと見た後、俺の持っている盾に目を向ける。
「ボコボコだな」
そう言われ俺も改めて自分の盾を見る。よく見ればドラ子さんに言われた通りボコボコだ。理由は明白、これでモンスターを殴りまくったからだろう。
「ふむ、これからその盾で進むのは心許ないな。これからこの鍋を盾にしたらどうだ?」
突拍子もないドラ子さんの発言に俺は驚く。確かにこの鍋なら強度はあるし大きさも申し分ない。けど鍋を盾として使うのは料理人として少し抵抗があるな。
「鍋でガードするのって傍から見たらかっこ悪くないですかね」
「まあかっこいいとは言えんだろうが……それよりも性能重視だ。うん決まり、今からその鍋を盾として装備しろ」
有無を言わさず命令される。まあ今の俺の盾よりも性能は高いことは確か、ここは大人しく言うことを聞こう。
そうして俺は盾についていた革のバンドを構えやすくするため鍋の取っ手に取り付ける。
「これで取り回しは盾に近くなったけど……やっぱりかっこ悪いなぁ」
「気にしない気にしない、さあ階段はこの奥だ。イスカ行くぞ」
「おー」
こうしてボスを倒し新たな装備?を手に入れた俺たちは次の階へと進む。




