第11話
「ダンク、ダンク」
俺は誰かに揺さぶられて目を覚ます。目を開いて最初に見た光景は俺をのぞき込んでいたイスカの顔だった。
「うーんもう朝か、ドラ子さん今何時くらいですか」
「九時だな、イスカがずっと腹を空かせてたぞ」
「すいません、ちょっと寝すぎましたね。イスカもごめんな」
「ハラヘッタ」
イスカが腹の音を鳴らしながら朝食をせがむ。
「分かってる、今簡単な物を作るよ」
急いで荷物から食材を取り出す。取り出した物はパンと野菜、そして日持ちするちょっといいベーコンブロック。ベーコンを火で炙って薄く切ったパンに肉と野菜を挟めばお手軽サンドイッチの完成だ。
炙ったベーコンは辺りに香ばしい匂いを漂わせる。ベーコンはあらかじめ味がついてるし、滴る脂は野菜に絡みついてそのままソースになる。
味気なくて硬い干し肉ではなく、これならイスカも食べるはずだ。
「どうだイスカ?」
「ウマー」
イスカは親指を立てながらサンドイッチを頬張っている。そう言えばドラ子さんに料理を出すのは初めてだな、口には合うだろうか。
「ドラ子さんはどうですか?」
「んーなんかもしょもしょするな。人間の料理って感じだ」
あれ、なんかあまり良い反応ではない。俺は自分の作ったサンドイッチを食べてみる。うん、冒険者用の携帯食料よりは美味いし食べやすい。イスカもドラ子さんの反応を見て俺と首を傾げた。
「さて、それより今日の予定だ」
サンドイッチでお腹を満たし、片付けと出発の準備を整えている最中ドラ子さんはこれからの方針を話す。
「まず昨日に引き続きダンクにはレベリングをしてもらう、目標は10階のボスをダンク一人で倒せるようになる事。数日潰れるだろうがこれが出来なきゃダンクを連れて先へ行くことは無理だ。ダンクもイスカを思うなら死に物狂いでレベルを上げるんだ」
「う、うっす……」
ダンジョンには主に10階ごとにボスがいるらしい。俺が前のパーティで登った最高階数は17階だから本当にそうなのかはまだ確認できてないけど冒険者みんなが言ってる事だ、間違いはないんだろう。
詳しいことは分かってないけど、10階ごとに魔力の濃い階があり、そこに強いモンスターが惹かれたり魔力を吸収しボス化するという噂だ。
グレート団にいた時も毎回10階を超えるのは大変だった。
ボスは毎回同じでヘッドデスマウス。2メートルはある大ネズミで、部下のデスマウスを十数匹連れているネズミの親玉だ。
「ヘッドデスマウスはまず新人冒険者がつまずく関門だ。こいつを一人で倒せれば他のモンスターの動きにも対応はできるはず、つまり俺の足手まといにならない為の試練って訳だな」
ドラ子さんの言う通りグレート団でも最初ヘッドデスマウスに遭った時は全員で逃げ帰り。そして、こいつを倒すのに丸二日頭を悩ませたくらいだ。
それが俺一人でとなると、かなりの長期戦になってしまうのは確実だろう。
「じゃあ昨日みたいに瀕死のモンスターを飛ばしまくるぞ。今日は一日中それをやって次の階を目指す。次の階では階層を踏破するくらいモンスターをエンカウントする予定だからな、死ぬ気で付いて来いよ」
「が、頑張ります!」
それから数時間、地獄のレベリングが続いた。
イスカを背負うドラ子さんがモンスターを俺に飛ばし、それをダッシュで追いかける俺の姿は他の冒険者から見たらまるで二人の少女を執拗に追いかける不審者に見えたらしい。
何度か正義感溢れる冒険者に止められてしまった。その都度同じパーティということを説明しながら進んでいく。
そして現在9階、モンスタートラップ直後、ドラ子さんが宝箱を確認する時が唯一の休憩となっていた。
宝箱の中身がポーションだったらもう最高だ。今の俺にはどんな高級装備よりも嬉しいアイテムだ。
「はぁはぁ……モンスタートラップの休憩ありがたい……」
「なんかダンジョン廃人みたいなこと言い出したな。うーん中身はガラクタか」
この無茶なレベリングのおかげですよ、なんて心の中で突っ込みを入れながら俺も宝箱の中身を確認する。
中身は装備品だったがどう見ても今俺たちが装備している物の方がレベルが高い。本来は使えない装備でも金にはなるから持って帰るものだが今回はひたすら上を目指すからこんな所で荷物を増やす訳にはいかない。ちょっともったいないがスルーするしかないのだ。
「この階も大体回ったな、レベルはどうなってる?」
宝箱の横でぐったりする俺にドラ子さんは尋ねてきた。俺はギルドカードを出して確認して見た数字に俺自身がびっくりした。
「おお、14だ!レベル14になってますよ!やっと元の仲間に追いついたって感じの数字になりました」
俺の喜びとは裏腹にドラ子さんは不服そうな顔をした。
「うーんやっぱりこんな低階層じゃ効率は良くないな」
「こ、これでですか?」
「まあ今そんなこと言っても仕方ない。今日一日最後までレベリングして、明日10階に挑むか。さあ、もうちょっとがんばれ」
「ガンバレー」
イスカからも励ましの声を貰う。
そうしておやつの時間という小休憩を挟んだ。
今日のおやつはコンフェイトという小さな星の形をした砂糖菓子。中々高級品であまり数は買えなかった。
一つ口に入れる、その甘味は疲れた全身のを癒すように広がった。
「ウマウマ!」
イスカもコンフェイトのおいしさに興奮しているようだ。飛び跳ねながら喜んでいる。
甘いもので英気を養った後、体を奮い立たせて再びレベリングに挑む、更に数時間後――。
「何とかレベルは15になったな」
「は、はひぃ……」
10階、ボスの間前で俺たちは休むための準備をしてドラ子さんは俺のギルドカードを確認していた。
下ろした荷物にもたれながら俺はイスカにリジェネレートを掛けられていた。もう俺は座り込んで指一本動けない状態だったので晩御飯のためイスカに体力を回復してもらっていた。
「リジェネが身に染みる……ありがとうイスカ」
イスカは得意げな顔をしながら回復してくれている。これに報いるためにはおいしい晩御飯を作るしかないだろう。
立ち上がれるまでに回復した俺は、背負っていた荷物のコンプスを解く。そして調理器具と食材を取り出した。
明日は俺一人でボスに向かわなくちゃいけない、気合を入れるぞ。
「ドラ子さん、魔法で料理手伝ってください」
「いいぜ、何すりゃいい」
「この鍋に水を入れて火でお湯を沸かしてください」
「あいよ」
更に隣にも火を出してもらい、まず具材を炒める、中身は足の速い野菜と肉だ。それを沸かしたお湯に入れて各種スパイスを入れる。具材を煮ている間別の鍋で干し米を茹で柔らかくする。そうして米もスパイスを入れてしばらく待つと完成だ。
徐々にいい匂いが漂っていきイスカは声を上げる。
「んー」
そうして数分後、完成したのはカレー雑炊。水も火も自由に操れる魔法を使える人と一緒ならできる、冒険者の贅沢飯だ。
これを食って明日は頑張るぞ。
「ンマー!」
イスカも今日の飯に満足してくれてるみたいだ、どんどん鍋の中身が無くなっていく。
「ドラ子さん、これはどうです?ちょっと自信作なんですが」
「うーんドロドロしてるな……悪くないが俺にはよくわからん」
その返答に俺は元よりイスカまでもショックを受けて、二人で信じられないという顔でドラ子さんを見た。
「これはお前たちにとってそんなに美味い物なのか。まあドラゴンと人間の違いだ、気にするな」
種族の違いか、そう言われれば仕方ない。とはいえみんなでご飯を食べてる最中一人だけおいしいものを食べられていない状況は気になるな。
「ドラ子さんが好きな食べ物って何ですか?」
「味なんて気にしたことなかったからな、食えりゃ何でもいい。そういえば人間なんかも食ったことあるぞ」
ドラ子さんは豪快に笑いながら話してくれたけど、あんまり聞きたくなかったなぁ。
「だから食い物に関しては俺なんかに意見は求めるな、ただしいて言えば竜気があるものは美味いと感じるぞ」
「それってどうやれば手に入るんですか?」
「さぁ……」
これは困った、ドラ子さんを満足させる料理を作るには竜気を知らなければならない。けど本人はどうやれば竜気なる物を料理に添加できるか知らないという。
「さあ、今日はもう休め。明日はダンクの10階ボスソロ討伐だぞ」
「……はーい」
そう言えばドラ子さんのことも全然知らないな。いずれ分かる日が来るんだろうか。
もやもやとした気分の中俺とイスカは横になる。
けれど疲れていたのかすぐに眠り落ちてしまった。




