97.交渉
「五十嵐さんオルダハンター引退して、ここで働くことになるんですね」
オーナー部屋に入ってきて早々、朱里さんが言った。
「いや、それはこれから話を聞くところで」
オーナーはまごまごとした口調で答えた。
「オーナーのせいで目玉を失って、オルダとの契約も切れてしまって、俺もうオルダハンター出来ないの。こうなったのはオーナーが俺をあの村に向かわせたからでしょ。そこは責任取って貰わないと」
そう言った後、五十嵐は自分のカバンからオルダを取り出して、
「これ、今日の俺の出品物」
と机に置いた。
オーナーはそれを手に取って、見て、そして言った。
「お前、オルダハンターとしての最後がこの品で後悔はないのか?」
「もっとデカいもん見つけて、それが億単位で売れて、しばらく遊んで暮らしたかったという点で後悔はあるが、仕方ねえのよ。両目失うリスクと天秤にかけたら、オルダハンター引退した方がいいとなったの」
「戸塚は無事に戻ってきたじゃないか」
そうオーナーが言ったので、オレは五十嵐に加勢することにした。
「オレは、村に行った初日に、五十嵐が右目を失って3か月眠り続けた状態というのを目の当たりにして、リスクを回避しながら行動していたんですよ。五十嵐が先に行っていなかったら、オレが五十嵐のようになっていたかもしれない」
隣で畑谷がウンウンと頷いている。
オーナーは腕時計を見て言った。
「オークション開始時間が近づいたから、終わってから話をしようじゃないか」
「約束だぞ」
五十嵐が言うと、
「五十嵐さんが入るのは賛成。私、最近残業多すぎるんですよ。ワークシェアリングするべきですよ、オーナー」
と、朱里さんが乗ってきた。
おそらく前室で二人で話した際に、事前に打ち合わせをしたのだろうと思った。
オーナーはバツが悪そうな顔をして、畑谷を見た。
「君のオルダは?」
「あ~、はい」
畑谷はスーツケースの中から、リサイクルショップくれよんで発見された5体のオルダと香川さんから貰ったオルダを取り出して、机の上に置いた。
オーナーはそれを一つずつ見ていき、ガネーシャのペンダントトップとループタイ、香川さんからもらったオルダを小物群の方に置き、白っぽい大きな原石を大物側に置いた。そして、鏡面緑のヒスイ原石を見て、
「これ…昔うちでオークションにかけられたもののように思うな」
「まじ?」
「この加工の仕方、見覚えがある」
すると畑谷が言った。
「うち、遺品整理もやってるんで、価値の分からない…オルダがいることを知らない遺族が売ってしまったのかもしれないっす。俺が買い取ったものじゃないから、誰が売ったかとか全く知らないっすけど」
「遺品整理…」
オーナーはその言葉に引っかかったようだ。そして、そのまま硯を手にした。
「これにオルダ?」
オーナーはそう言って、硯をこすった。するとそこにオルダが現れた。
「う~ん。残念だけど、これは無理かな。オルダがいるってだけでは売れないんだよねえ。石そのものに美しさが無いと、どれだけ大きくても値はつかないし、手のひらサイズの石でも美しければ値が付く。価値の低そうな石の場合は磨いてツルツルにして少しでも価値を上げるかしないと。硯にも価値のあるものはあるが、ここのお客様は求めてないかな」
と硯を畑谷に返した。
畑谷は硯を受け取った。
「な、言ったろ。だから長命寺の石は無理だったんだ」
「理解したっす」
こうしてオレたちの話は一時中断となり、オークション会場へ移動することになった。
オレと畑谷、五十嵐は客席の最後尾に紛れ込んで座った。
煌びやかな会場の照明が変わった。オークショニア朱里さんが壇上に上がった。客席はざわざわし始める。
「五十嵐さんもあれやるんすか?」
畑谷が訊く。
「いや、俺は裏方でいい」
鋳型氏はボソッと答えた。
朱里さんは、マイクの位置、手元のハンマーやペンの位置を調整し、会場全体を眺め、常連や新規の人の場所を確認。そして、マイクのスイッチを入れ、ハンマーをコンコンと鳴らして、
「オークショニアの声が届かないというお客様はいらっしゃいますか?」
すると、オレたちの隣の客が「聞こえるよー」と返す。
朱里さんはこの言葉を受けて、開始のアナウンスをした。
「では、本日のオークションを開始いたします。最初のORDAはこちらです」




