96.地下2階
「駐車場ここっすか?」
畑谷は恐る恐る左折した。
「たぶん…」
「たぶんって何すか」
「徒歩でしか来たことねえもん」
駐車場には無事入ることができた。地下2階に停め、耳栓を装着してから車を降りた。
「重っ」
畑谷はオレのスーツケースをトランクから下ろした。畑谷の店のオルダはオレのスーツケースに入れてきたのだ。
「あそこだ」
オレは奥に見える観音開きの黒い扉を指した。
相変わらず両脇には黒いスーツの男性が二人立っている。扉の前には、スーツ姿の男女二人組が立っている。男性が黒スーツの男にカードを見せると、
「お待ちしておりました」
と、黒スーツ男たちは扉を開く。男女二人組は中へと入っていった。
それを眺めていた畑谷がボソッと言った。
「秘密俱楽部っすか」
「似たようなもんだ」
オレが答えると、五十嵐は頷いて言った。
「中に入ったら、より一層秘密倶楽部かと思うぞ」
「まじっすか。オルダの共鳴もすごいっす」
「あの扉入ったら、もっと強烈だ」
一度扉が閉まったことを確認して、オレたちは扉の前へと移動した。
黒スーツの男たちは相変わらず態度が悪い。オレと五十嵐を見て「勝手に入れ」という風に面倒くさげに顎で指示をしてきた。しかし、いつもと違ったのは畑谷を止めたことだった。
「どちらさんですか?」
「あの、えっと…」
畑谷が助けてと言った視線でオレと五十嵐を見ている。
「新しいオルダハンターだ。オーナーに話は通してある」
オレが言うと、黒スーツの男たちは不服そうに畑谷を中に通した。
「怖いっすね」
「まあ、用心棒だからな」
扉の中の天井が高く、煌びやかで、まるでパーティ会場のような室内に畑谷は驚いている。今日も金をたくさん持っていそうな着飾った老若男女がシャンパン片手に会場に飾られたオルダを眺めている。
「まじで秘密倶楽部っすわ」
畑谷は口をあんぐりとさせて眺めている。
「あまり留まると不審がられるから行くぞ」
オレは畑谷が持っているスーツケースのハンドルを奪って、会場の裏側の小さな扉に進んだ。
扉を開けると、入ってすぐにあるデスクに座っていた朱里さんが驚いて立ち上がった。
「戻ってきたの?」
「こんちは。五十嵐を連れてきましたよ」
「え?」
朱里さんの反応と共に、五十嵐が扉から入ってきた。
「ご心配おかけしました」
朱里さんは何かを言いかけて、しかし言い淀んで、大きく息を吐いた。
「よかった。心配していたのよ」
その後ろで畑谷が両耳を押さえている。オルダの共鳴がかなり辛くなっているのだろう。
「ま、二人で話してよ。オレはこいつ連れてオーナー部屋に入るわ」
と畑谷の袖を引っ張った。
「どなた?」
朱里さんは畑谷を見て聞いた。
「彼は畑谷君。新しいオルダハンター」
五十嵐を朱里さんの元に残し、オレはオーナー部屋へと入った。
オーナーはオレに気づき、手を挙げて、
「よお、おかえり」
その後、オーナーは後ろに立つ畑谷に気づいた。
「誰?」
「あれ? 連絡入れなかったっけ? 根音村で知り合った新しいオルダハンター。今日の出品は彼のもの」
「ほお」
「それより先に、挨拶させて」
オレはペンダントトップを机の上に並ぶオルダに重ねていった。
「俺もいいっすか?」
畑谷はカバンから和綴じノートを取り出して、机のオルダに重ねていった。
オルダの鳴き声が止んだオレたちは「ふう」と大きく息をついた。そして、その時にオーナーが畑谷の和綴じノートをジッと見ていることに気づいた。
「何っすか」
畑谷はオーナーの視線に怯えている。
オーナーはジッと畑谷を見て、
「それにオルダがいるのか?」
「ええ、はい」
「見せてもらっても?」
「ああ…はい…」
と畑谷はオーナーに和綴じノートを渡した。
オーナーはノートを開いて、すぐに気づいたようだった。
「君、これをどこで?」
答えに困った畑谷は「あの、えっと…」と言いながら視線でオレに助けを求めてきた。
オレは朱里さんから岡田教授の件を聞いたが、それをオーナーは知らない。
「彼、畑谷君はリサイクルショップを経営していて、買い取ったものの中に紛れていたそうです」
「はい、そうなんです。その過程で知らぬ間にオルダと契約しちゃっていて」
「君の店はどこにあるの?」
「えっと、松戸っす」
「これを売りに来た人は?」
「えっと、知人っす」
「知人?」
オーナーの追い詰めるような聴取に怯えた畑谷の前に立ち、オレは答えた。
「それ以上はちょっと…」
オーナーは再び和綴じノートを読み始めた。
「このノートを知っているんですか?」
オレはオーナーに訊いてみたが、オーナーは「いや…」と言いながら口ごもった。
「ノートにオルダが住んでるなんて驚きますよね。オレも初めて見たからビックリでしたよ」
しかし、オーナーはオレの話を聞いていない。
「これ、売ってくれないか?」
オーナーは畑谷に言った。
「いや、無理っす。契約しちゃってるんで」
「契約解除できるんだろう?」
「無理っす。解除したら片目が無くなるんす」
そこへ「ちわーっす」と五十嵐と朱里さんが入ってきた。
オーナーは五十嵐を見た。
五十嵐が口を開くかと思いきや、口を開いたのは朱里さんだった。
「オーナー、五十嵐さんはオルダハンター引退して、ここで働くことになるんですね」




