90.最後の夕食
医者の家での最後の夕食。料理の担当は医者…のはずだったが、後から合流した畑谷が主担当で、医者はアシスタントをしたらしい。
「これはペリメニといって、ロシア風の水餃子っす。で、途中まで先生が作っていたキノコ炒めを利用したキノコパイ。これはサバ缶のサバとジャガイモのレモン煮。サラダはロシアではなくフランス風になるんすけどキャロットラペ。時間が少なったんで少し薄漬気味っす。お味噌汁は先生の作品っす」
看護師は拍手をして「素敵です!」と喜んでいる。
そして、なぜか夕飯を食べ終わっているはずの五十嵐もお誕生日席に座っていて、
「畑谷さん、料理人だったの?」
と驚いている。
「学生の時にロシア料理店の調理場で4年間バイトしててね」
看護師は再び拍手して言った。
「さあ、乾杯しましょう!」
一同はグラスにビールを注ぎだした。4缶しかないので、それをうまく五等分にした。
先生は立ち上がり、
「戸塚さんと畑谷さんとの夕食が最後ということで、とても寂しくなりますが、これも五十嵐さんも神主さんも無事に目を覚まして全てが無事解決してメデタイということなんで、グラス持ってください、では乾杯の音頭を取らせていただきます。みなさん、お疲れさまでした。乾杯!」
オレたちは「カンパ~イ!」とグラスを合わせた。
畑谷の作ったおかずはビールにとても合った。
「うっめ~。これ店の味。店出したらいいのに~」
夕食を食べ終えているはずの五十嵐もビール片手に水餃子やらパイやらサバのレモン煮やらをパクパク食べている。
「五十嵐さんも明日退院できるんじゃ…」
医者は五十嵐の豪快な食べっぷりを見て言った。
「そうだ、先生」
オレは医者に話しかけた。
「はい?」
「延命寺さんにもオルダがいたんですよ」
「そうっす!」
「住職の奥さんが契約してしまったみたいで」
医者は「延命寺さん…」と何かを思い出そうとしている表情になった。
すると看護師が、
「笹嶺神社の先にある岩のとこですよね?」
と言った。
「そうっす」
畑谷が答えた。
「あ~、はいはい。私行ったことないんですよね、あの先。階段かなり昇ると言う話は聞いてます」
「130段、10分かけて昇るんすよ。その上に岩に彫られた仏像があって、地蔵が合って、その地蔵の石にオルダが住んでたんす。そのオルダと契約してしまったらしいっす」
「その石もヒスイだったんですか?」
医者の問いに、オレは答えた。
「いや、表面上は含まれていないように見えました。凝灰岩っぽかったので、中にもヒスイはないのではないかと。ヒスイがあるとしたら蛇紋岩なんですよね」
そこに五十嵐も入ってきた。
「たまにあるんですよ。ヒスイではない石にオルダがいること。そういうのはあまり売り物にならないので入手はしないですけど。笹嶺神社のオルダも凝灰岩でした」
医者は深く頷いた。
「では、笹嶺神社のオルダも、延命寺のオルダも千代の子から?」
「いえ、延命寺の住職の話では、千代の呪いにかかった時には既に岩にオルダが住んでいたようなので、全く別に存在していたと思います。逆に、笹嶺神社の礎石から千代の子の体にオルダが入り込んできた可能性もあるかもしれません。それでも千代の子の骨から人へとオルダが繁殖する理由は分かりませんが…」
「ぜひ研究してみたいですが、危険なんですよね?」
「危険です」
看護師はビールを一気飲みして言った。
「ここの教育委員会はあまり当てにならないからなあ。明日は骨埋めて終わりそう」
清水さんの中途半端な調査を目の当たりにした今となっては「そうだろうな」という気持ちになった。
その後、趣味の話などをダラダラと話して、オレたちの最後の夕食は終わった。




