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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
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86.商店からの相談

 商店を出て、車に乗り込もうとしたところ、畑谷が顎で焦点の方を指した。

 それに釣られて商店を見ると、レジの奥から店主がこちらを見ているのが見えた。


「オレらのことが気になるのかな?」

「めっちゃ見てるっすね」

「う~ん、缶詰でも買いに行くか?」

「なんで缶詰」

「ほら、花を入れる花瓶的な?」

「あ~」


 車の後部座席に花を入れ、オレたちは再び商店に乗り込んだ。

 店主はオレたちの行動に気づいたのか、再び新聞を読み始め、オレたちが入った瞬間「いらっしゃいませ~」と義務的に発した。

 それがあまりにあからさまで、オレは思わず下を向いて笑ってしまった。


「この大きさ良くないっすか?」


 畑谷はインスタントコーヒーの瓶を手にした。

 確かに缶詰よりも重さがあってサビもしなくて花瓶代わりに向いてそうである。しかし、


「中身どうする? 桃缶とかなら今日食べれば済むけど」

「診療所でフリーザーバッグに入れてもらうとか、コーヒーゼリー作るとか」

「じゃあ、これにするか」


 インスタントコーヒーをレジに持って行った。

 店主は新聞に顔を向けたまま商品に目線を向けて「900円」とボソッと言った。

 オレは千円札を出しながら、


「オレらのこと気になります?」


 と聞いてみた。

 店主は背筋を正した。


「はい、100円のおつりね」


 店主はオレの質問に答えず、100円を台に置いた。

 オレは100円を手に取って、店を出ていこうとした。その時、


「おたくらさ」


 と店主がいった。


「黙光寺の住職の耳鳴りも治したって聞いたよ」

「ああ、はい」

「客に、20年くらい耳鳴りに悩んどる人がおるさよぉ。いっさら治らん」

「20年!?」

「まじっすか」

「物は試しで、行ってみてくれんけ?」


 オレと畑谷は顔を見合わせた。


「行ってみる?」

「いいっすよ」


 オレたちの会話を聞いていた店主は、レジの下から常温の缶ビールを2缶出して、台に置いた。


「これ、持ってけ」


 畑谷はニカっと笑って「あざーっす」と2缶手に取った。


「それで、その人はどこに住んでるんですか?」

「長命寺の麓あたり、根岸敦子っていうよ」


 オレは地図を取り出して広げた。

 長命寺は笹嶺神社よりも先に存在した。


「遠いっすね」

「長命寺の麓…長命寺は山の上にあるんですか?」


 オレが聞くと、店主は答えた。


「かなり上よ。本堂は階段130段昇るよ」

「まじ?」

「根岸はその寺の家よ」


 店主の答えが意外だった。また、寺だ。ということは、オルダの可能性がある。

 畑谷がニヤッと笑った。


「早く行きましょ」

「そうだな、暗くなる前に行っておくか」


 すると店主が言った。


「おたくらが行くと連絡しとくさよぉ」


 こうして、オレたちは長命寺に向かうことになった。

 笹嶺神社の前を通り過ぎ、2分くらいしたところで長命寺の麓に到着した。


「なんか、昭和って感じの家っすね」


 麓の家を見て畑谷が言った。

 灰色っぽい瓦屋根、外壁はこげ茶の板張り、格子も木製、そして玄関の扉はダイヤガラスの窓のついた木製の引き戸である。


「戦後って感じの造りっす」


 オレたちは車を降りた。


「オルダ、鳴かねえな」


 オレが言うと、畑谷は頷いた。


「俺もそれ思ったっす」


 オレたちは表札に『根岸』とあるのを確認して、インターフォンを押した。

 するとすぐに中から夫婦と思われる中年の男女が顔を出して、小さく会釈した。男性の方は坊主頭である。おそらく長命寺の住職なのだろう。女性の方は白髪交じりのセミロングの髪型だ。

 オレたちも釣られて小さく会釈した。


「商店の店主に20年耳鳴りしている人がいると聞いてきました」

「お待ちしておりました。どうぞ、中へ」


 中年夫婦に案内され、オレたちは根岸家の中に入った。

 家の中は、外観から受けた印象のまま昭和の世界が漂っていた。踏み石のある玄関、少しばかり低い天井、ふすまの多い廊下、オレたちが通された客間は6畳の和室で、床の間には掛け軸が飾られ、俺たちはその前の座布団に座らされた。

 すぐに女性の方がお茶を持ってやってきて、オレたちの前の座卓に置き、オレたちの目の前に夫婦で並んで座った。


「あの、商店で敦子さんと言う方が20年耳鳴りに悩まされていると伺いました」


 すると女性の方が小さく手を上げて、


「私です。ずっと悩んでおります」


 と言った。その声のボリュームは些か大きい気がした。


「今も聞こえるんすか?」


 畑谷が聞いた。


「はい。ずっとギーーーーー―っという音が鳴っている状態です」


 オレと畑谷は顔を見合わせた。


「ギーーーーーーーーーという音なんですか」

「はい。耳栓をすると少し和らぐので、常に耳栓をして生活をしております」


 女性はそう言って耳元の髪を上げた。確かに耳にはオレンジ色の耳栓がされていた。


「20年前に耳鳴りがするようになったきっかけというのはありますか?」

「特に何かしたというわけではありません。いつも通り過ごしていたと思います。ある日突然耳鳴りがするようになった形です。大きい病院で検査してもらったこともあったのですが、異常はなくて」


 そこに男性が入ってきた。


「不思議なんですが、本堂に行くと聞こえなくなるようです。だから気圧の問題かとも思ったんですが」

「本堂に行くと聞こえなくなるんですか?」


 オレが女性を見ると、女性は「はい」と答えた。


「でも、本堂で暮らすわけにもいかないので…」


 確定した、と思った。

 畑谷もオレの方をチラッと見た。


「それでは本堂に行って確認しましょう」


 オレが言うと、夫婦は「分かりました」と答え、オレたちは長命寺の本堂へ行くことにした。

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