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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
78/107

78.買取

 オレと香川さんは、清水さんを連れて五十嵐の部屋に戻った。

 五十嵐は、オレたちの後ろにいる清水さんを見て、「誰?」という表情をした。

 香川さんは清水さんを指して言った。


「根音村役場の清水さんです」


 清水さんはそれを受けて一歩前に出て会釈した。


「はじめまして。根音村役場の清水と申します」


 五十嵐は小さく会釈をした。


「清水さんは、五十嵐さんの目を覚まさせるために、五十嵐さんのオルダと契約していただきました」

「オレのオルダと契約?」

「五十嵐さんは、笹嶺神社で契約解除された後、すでにお聞きかと思いますが、3か月眠っておられました」

「はい」

「オルダとの契約解除によって眠り続けた人を起こす唯一の方法が、契約解除されたオルダと他の人が契約を結ぶということで、清水さんに同意の上、ご協力いただきました」


 五十嵐は少し動揺をしているように片目を泳がせた。


「あの…ありがとうございます」


 そう言って、五十嵐は小さく頭を下げた。


「そのため、清水さんはオルダを持ち歩かなければならず、五十嵐さんから買い取りたいと」

「そっか…。そうなるのか。いいですよ、あげます。また、別のと契約すればいいですし」


 それを聞いて畑谷が目を丸くさせて言った。


「え、また契約する気っすか」


 五十嵐は不服そうに畑谷を見た。


「契約しなきゃ、仕事になんねーじゃん」

「次に契約解除したら、もう片方の目も無くなるんすよ?」

「ここに来なきゃいいだけだろ」

「いやいやいや、自宅でも契約解除されちゃう可能性あるんす」


 五十嵐は驚いた顔をして、口をぽかんと開けた。


「俺のオルダ、このノートなんすけど」


 畑谷は五十嵐に和綴じノートを見せた。


「ノート?」


 五十嵐は頭の上にハテナマークをたくさん浮かべているようだ。

 畑谷はノートをこすりながら開いていき、オルダがいるページを五十嵐に見せた。


「これっす」


 五十嵐は驚いて、


「まじかよ。石だけじゃねーの?」

「このノートの元の持ち主、自宅で亡くなってたんす。両目が無い状態で。だから、笹嶺神社ではないところでも契約解除されちゃう可能性あるんすよ」


 それを聞いて、五十嵐だけではなく、香川さんと清水さんが驚いて畑谷を見た。


「それは本当ですか?」


 清水さんが詰め寄った。


「そういえば、岡田教授は両目を無くした状態で亡くなっていたと仰ってましたね。言われてみればそうですな」


 香川さんが言った。


「だから、もう一回契約すんの危ないっすよ。今回はたまたますぐに病院に運ばれたから点滴打って大丈夫だったしれないっすけど、一人暮らしで自宅で契約解除されたら、見つかるまで栄養取れなくて餓死っすよ」


 そうか、岡田教授は両目を取られたから亡くなったのではなく、倒れた状態で何日か過ごしたせいで餓死した可能性もあったのか。オレも一人暮らしだ。気を付けないと。


「それを言われたら、もう一回契約するの怖くなっていた…」


 五十嵐は動揺している。

 そこに清水さんが「ちょっと話戻していいですか?」と入ってきた。


「あの、お代金をお支払いしたく」


 清水さんが手のひらに乗るオルダを見せて言った。

 五十嵐は「あっ」と思い出したように清水さんを見て、


「いいですよ。あげます」

「いや、私は公務員なのでそういうわけにはいかず、買取させていただきます」

「え、じゃあ、1000円で」

「いや、正しい金額で買取しないといけなくて」


 と香川さんを見た。

 香川さんは清水さんの代わりに口を開いた。


「これ、相場はいくらになりますか?」

「え~、それあんまり質良くなくて、オークションにかけたところで俺の手元に来るのは1~2万程度かな」


 香川さんはオレを見た。


「戸塚さんの見立てとほぼ同じですね」


 オレは頷いた。


「じゃあ、1万で」


 五十嵐が言うと、清水さんは少しほっとしたような顔をした。


「では、こちらを」


 ポケットから折りたたまれたお札を取り出し、一枚を五十嵐に渡した。五十嵐に渡すように15000円を用意してきたのだろう。手元に残った5000円札は再びポケットにしまった。

 五十嵐は「どうも」と言って受け取り、一万円札を眺めて、ベッドの横に立っていた看護師に言った。


「そこのカバンに入れておいてもらっていいですか」


 看護師は「分かりました」と言って、五十嵐のカバンに一万円札を入れた。

 一連の流れが終わった後、香川さんが口を開いた。


「五十嵐さん、少々お尋ねしてよろしいですか?」

「なんですか?」

「笹嶺神社に行かれる前に立ち寄られた家は、佐伯という名字でしたか?」


 五十嵐は口を半開きで宙を見て、


「あ~、そんな名前だった気がします。ワタナベとか、タカハシとか四文字ではなく、三文字だったと思います」

「そこはお寺の近くではなく、お寺そのものではなかったですか?」


 清水さんは何となく感づいたようで、顎を触り始めた。


「寺だったかなあ。寺が近くにあったイメージはあります。あの鐘? お寺の鐘? あれが印象的で」

「オルダの契約解除について教えたのは、坊主頭の男性ではありませんでしたか?」

「いや、男じゃないです。おばさんです」


 五十嵐の言葉に、オレと香川さん、そして清水さんも一緒に反応した。


「おばさん?」

「オバサン?」

「オバさん?」


 三人が同時に反応したことに五十嵐が驚いて、オレたちの顔を順番に見た。


「たしか、おばさん。イメージアラフィフみたいな」


 オレは地図を取り出して、五十嵐に見せた。


「この地図で言うと、どこら辺?」


 五十嵐は地図を覗いた。


「え~、どの辺って言われてもなあ、笹嶺神社がどこだ…? ああ、ここか。でいうと…え~、ああ、そういえば隣が学校だった気が、だからこの辺り」


 と言って、五十嵐は地図を指した。

 そこは正しく心松寺だった。


「確定…」


 香川さんは人差し指を口の下にあてて、呟いた。

 

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