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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
72/107

72.ウクライナ料理

 今日、五十嵐から話を聞くのは難しそうだということで、刑事たちは警察署に帰ることとなった。

 

「明日、五十嵐さんが話の出来る状態になりましたらご連絡ください」


 香川さんが医者に言うと、医者は「分かりました」と答えた。

 次に香川さんはオレを見た。


「先ほどの依頼も進めておきますので」

「よろしくお願いします」


 オレは香川さんにペコリと頭を下げた。

 畑谷と松井さんは不思議そうに見る。


「何か依頼したんすか?」

「ちょっとな」


 そして刑事たちは帰っていった。

 清水さんも今日は帰宅することになった。


「戸塚さんたちはどうされますか?」


 医者は言った。


「今日は五十嵐さんも神主さんも目を覚ましましたので、妻は病院食を用意し、五十嵐さんに関しては食べさせる役目を担わなければならず。その間私は上の二人を診ることになり、食事の用意が遅れることになるかと思います。シャワー浴びたりして時間を潰していただいても、時間が余ってしまうかもしれないです」


 すると畑谷が言った。


「じゃあ、今日の夕飯は俺が作るっすよ」

「え?」

「台所を勝手に使って良かったら、なんすけど」

「よろしいんですか?」

「俺、学生の時にウクライナ料理屋の厨房で4年間バイトしてたんす。ボルシチとかビーフストロガノフとか作れるっす。ビーツがないとボルシチは無理っすけど」


 医者は笑顔になって、


「夕飯作っていただけるならありがたいです」

「では、台所をお借りします」


 看護師が流動食を作り終わったタイミングで、オレと畑谷は台所に入ることになった。冷蔵庫の中のものを自由に使って良いということだったので、畑谷がそこから献立を考えた。


「やっぱ牛肉はないか。でも合い挽き肉あるし…ペリメニかガルプツィか…じゃがいももあるだ。シャーニギもいけるかな…」


 畑谷はブツブツ言っている。


「畑谷君は何気にスペック高いよな」


 オレがそう言うと、畑谷は聞いていなかったようで、


「なんか言ったっすか? 戸塚さんは餃子とか包めるタイプっすか?」

「いや…」

「ガルプツィかなあ…。こねることくらいは出来るっすよね?」

「言われた通りにやるまでだ」

「分かったっす」


 畑谷は手際よく準備を進め、オレはジャガイモの皮むきをしたり、畑谷から渡された袋をひたすら揉んだりした。オレは畑谷が何を作っているのか分からないまま手伝い続け、1時間半ほどで料理は終わった。

 ちょうどその頃、医者と看護師が戻ってきた。


「わぁ~、いい匂い」


 看護師がパタパタとやってきて、台所を覗いた。


「何作ったんですか? ウクライナ料理だって聞きましたよ」

「ガルプツィとポテトパン、あとウクライナ風サラダです」

「料理名だけではどんなものか浮かばないですけど、美味しそうな匂いだってことは分かります」


 看護師はニコニコしている。


「今日はそこに座って待っててくださいっす」

「ありがとうございます!」


 看護師と医者はダイニングの椅子に腰をかけた。

 そしてオレと畑谷で料理を順に運んでいった。

 すべての料理が並び、今日の夕食が始まった。


「これがガルプツィというウクライナ風のロールキャベツです。で、こっちがポテトパン。マッシュポテトと小麦粉で作ってるパンで、ピロシキにしようかと思ったんですけど、ガルプツィで挽き肉使っちゃって被るんで、ヘルシーに野菜ベースにして鶏肉をちょっと混ぜました。で、こちらは普通のサラダで、これはウハーというウクライナ風のスープです」

「凄いですね。全部初めて見ます。スープにレモンが入ってる」


 医者は身を乗り出して料理を見ている。


「ウクライナ料理は酸味のあるものが多いんすよ。タラがあったので使わせてもらいました」


 畑谷は得意げに答える。

 

「外食みたい! 嬉しい!」


 看護師は胸の前で手を握り、ニコニコして喜んでいる。


「では、いただきます!」


 オレたちは夕食を開始した。

 ウクライナ料理なんてビーフストロガノフしか知らなかったが、一口食べただけで美味しいと分かった。


「美味しい!! 味の薄い料理をお出ししてたのが恥ずかしいです」


 看護婦がそう言うと、医者は「おいっ」と突っ込んだ。しかし看護師は医者のツッコミを意に介せず、そのまま畑谷をじっと見て、


「久しく外食をしていなかったので、こういう外食風料理食べられるのが嬉しいです」


 医者と看護師の嬉しそうな顔を見て、畑谷は小鼻が膨らんで、得意げになっているのが見た目で分かる。


「喜んでもらえてよかったっす。ウクライナ料理店でのバイト経験が生きました」


 畑谷の料理をおいしくいただいて、後半に差し掛かった頃、五十嵐と神主の様子に話が変わった。


「本当に不思議なんですよね。どういう力で目玉が無くなっているのか、全く分からないんです。二人とも痛みはなさそうで、最初から目玉が無かったのではないかと思ってしまうくらい綺麗になくなっていて」

「神主さんは何故ガーゼを当てていたんですか?」

「ああ、無意識に開けてしまうようなんですよね。でも、開けると肌が引っ張られるような感覚になるようなので、あえてガーゼを当てて、開かないようにしてます」

「なるほど」

「あと1つ、今回二人が目を覚ましたことで分かったんですが、目だけではなく、どうやら目玉が無くなっている方の耳も聞こえにくくなっているようです」

「耳も?」


 オレと畑谷が驚いていると、看護師が食べていたパンを置いて言った。


「五十嵐さんの方は直接聞いたわけではないので、反応から想定しているだけですが、神主さんの方は右耳が、目玉が無くなってしまっている方の耳が聞こえにくいと言っていました。全く聞こえていないわけではなく、山に登った時のような感じだと言っていました」


 なんとなくイメージはできる。


「自分の声がこもって聞こえるみたいなやつですよね。耳に水が入ったみたいな」

「そうです」


 続いて医者が言った。


「健康診断で使っている聴力検査の機械がうちのは持ち運べる簡易式のもので、それを病室に運んで試したのですが、40dBが聴取不可能であったので、本人が言う通り聞こえにくくなっているのだと思います。ただ、私は耳鼻科は専門外のため、詳しいことは耳鼻科で精密検査を受けていただくのがベストかと」


 畑谷がオレを見て言った。


「オルダの鳴き声がそんな聞こえ方っすよね。耳の中でこもって聞こえる」

「そうだな。そう思うと、これもオルダと契約解除したことが要因かもしれないな」


 医者が話を続けた。


「二人とも回復が早くて、そこもまた不思議なんです。五十嵐さんに関しては3か月点滴だけで過ごしていました。普通、点滴だけでは3か月持ちません。口から食事ができなくなって、点滴だけになると余命は3か月ほどです」

「そういうものなのですね」

「ええ。でも、五十嵐さんはそれほど痩せもしませんでしたし。今日は目が覚めたばかりの状態で、流動食ですが食べられました。それが不思議で。言葉は悪いですが、研究意欲がそそられます」


 医者の目がキラキラしていた。


「本当はオルダと契約してみたかった?」

「ええ、とても。でも、清水さんが契約したので、ありがたいと言いますか、身近な被検体として彼には協力いただこうかと思います」


 医者はキラキラした目でにっこり笑った。

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