69.変な相談
外に出ると、オレは香川さんに手を出した。
「石、貸してください」
香川さんは「お願いします」と石を差し出した。
オレは、香川さんのリクエスト通り、最も価値の低そうな部分にオルダを寄せていき、3センチ大の大きさに切り取った。
オルダがいなくなった方のヒスイは生気を失った。
「これ、何度見ても不思議ですな」
オルダがいない方の石を見て香川さんが呟いた。
オレは、3センチ大の石を少し研磨して、表面をつるつるにして、香川さんに渡した。
「これで持ち歩きやすくなったかと思います」
「おお、ポケットに入れられますね。無くさないように気を付けます」
「無くならないと思いますよ。離れた瞬間にオルダが鳴くので、すぐに気づくはずです」
「なるほど。銭湯に行くときは考えねばなりませんな」
「だからオレはペンダントにしてるんですよ」
「なるほど」
香川さんがオルダをポケットにしまったところで、
「香川さん、実は相談がありまして」
香川さんはオレの神妙な顔で何かを察してくれたようだ。
「どうされました?」
「変なことを言うなと思われるかもしれませんが…」
「どうぞ、お話しください」
「オレのこと調べてもらえませんか?」
「はっ?」
さすがにこの相談には理解が追い付いていないようだ。
「オレ、このオルダの調査をしている間に気づいたことがありまして」
「ええ」
オレはペンダントを外し、自分のオルダを香川さんに見せた。
「なぜ笹嶺神社のオルダと共鳴しないのだろうと考えたんですよ。すると、そもそもオルダをどうやって入手したか覚えていないと気づいて。誰かから貰ったような気はするんですが、全く覚えていなくて」
「え?」
「そう思うと、なぜオレはオルダハンターになったのかも思い出せなくて、しまいには家族についても記憶から消えていて。どうやって学生時代を過ごしたのかも全く思い出せなくて」
「え? 記憶喪失?」
「分からないんです。普通に暮らしていて、過去のことを思い出すようなシーンもあまりないので気になったことが今までなくて気づかなかったんですけど、オレ、過去が消えてるんです。オルダハンターをやりはじめた以降のことは覚えているのですが」
「でも、身分証はお持ちですよね?」
「ええ、だから、オレが戸塚雄介という人物であることは間違いないと思います。確定申告もしてますし、住民票も普通に出ましたし…。ただ、世帯主がオレなので、オレの名前しかなかったような」
「戸籍謄本の全部事項証明を取れば、出生地やご両親の名前は確認できるとは思います」
確かに、それで確認するのもありか…ただ…
「それに気になることがあって」
「何でしょう?」
「根屋家の日記に出てきた佐々木氏について、何か情報がないかと出入りしている美術商に確認したら」
オレは携帯の朱里さんからのメッセージを開いて、香川さんに見せた。
「オレをオルダハンターにしたのも、美術商に紹介したのも、佐々木という人らしくて…」
香川さんは開いていた口をギュッと閉じた。
「佐々木氏とお知り合いだったということですか?」
「それが分からなくて。でも、もしオレのオルダが佐々木氏から譲られたものだとしたら、笹嶺神社の社のオルダと共鳴しなかったことも理解できます。既に挨拶済みだった可能性があると思うんです」
「畑谷さんのオルダは?」
「アイツのオルダは、元々は岡田教授のもので、岡田教授もこの村に来ているので、その時に挨拶をしていた可能性があるかと」
「なるほど…」
「自分のことを調べてくれという依頼をするのも変な感じなんですけど。正直、過去に犯罪犯してたら嫌だなとか」
すると香川さんは苦笑した。
「それはないですよ」
「え?」
「ほら、交番の警官に身分証を提出しているでしょう。その時に前歴があれば引っかかりますから。なにも引っかかっていないということは、前歴はないということですし、何かの事件に巻き込まれていた可能性も低いかと思います」
「それならば良かったです」
「今回の件とは関係ないかとは思いますが、ご協力もいただきましたし、調べてみましょう」
香川さんの回答にオレは嬉しくなって、笑顔で頭を下げてしまった。
「ありがとうございます!」
そして、オレたちは診療所の中に戻った。




