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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
65/107

65.ノートの中身

 さあ、ノートの続きを読もうと思った時、畑谷が興奮気味に声を出した。


「あったっす!」


 ノートを開いて見せてきたが、相変わらずオレには読めない。


「内容を教えてくれ」

「明治35年3月29日、樺山貯水池を建設中に磨石が複数出土。ヒスイ多く含まれ、ひとつにシミがあり。土工の一人、幻聴が聞こえるようになった。おそらく石のシミが原因と思われ、シミの石を持たせると幻聴止む。吉凶どちらに出るか賭けであるが、笹嶺に連れていき、笹嶺右石の上に出土石乗せて退散願わせた。凶であった。土工その場に倒るる」

「この頃の契約解除は一か八かみたいなことだったということか? 星影神社の神主さんは凶だったから倒れてしまったということになるのか?」


 口の下に人差し指を置きながら聞いていた香川さんが竹山さんを見て言った。


「この話は伝わっていなかったのですか?」


 竹山さんはあからさまに動揺している。


「もしかしたら聞いていたかも知れませんが、覚えていなかったです。私が祖母から聞いたのは50年近く前の話ですから」

「そうですか」


 香川さんは口の下に人差し指を当て、竹山さんをジッと見たままそう言った。

 オレは思わず竹山さんに同情した。


「続きがあるっす」


 畑谷の一言が空気を一瞬変えた。


「明治35年3月30日、笹嶺にて霊を鎮める」


 確かに慰霊は続いていたようだ。


「明治35年3月31日、土工今日も眠り続ける。出土石を現場に返却。明治35年4月1日、土工今日も目覚めぬらしき。衰弱進む。明治35年4月2日、土工の一人、幻聴が聞こえるようになる。出土石触れたらしき。幻聴聞こえるようになった土工の共通点を確認したところ、手荒れ酷く、所々に雁瘡(がんがさ)あり。これ要因か。幻聴聞こえるようになった土工には石を持ち歩くよう忠告する。同日、先の土工が目覚めたという連絡あり」

「契約解除したオルダが別の誰かが契約すると、倒れた人の目が覚めるという予想は正しい可能性高そうだな」


 香川さんはまだ考えているようだ。


「そうっすね。もうちょっと先読んでみるっす」

「じゃあ、オレも」


 ようやくオレはノートの続きを読み始めた。


『昭和55年5月6日、坂上家建て直し時に出土。石の中に白色のヒスイ。シミはやや薄く黄色。かなり珍しい。5万円で買取」

『昭和56年7月8日、井原の畑にて出土。シミあり。ヒスイではない。笹嶺の土台に近い。2千円で買取』


 この頃の根屋家はヒスイだけではなくシミのある石をひたすら買取をしていたようだ。読み進めていくと、昭和60年にやっと現れた。


『昭和57年10月30日、南波氏次男事故死。笹嶺土台石にシミ現れたため鎮める』


 慰霊の記載はほとんどなく、これくらいであった。不慮の事故があると慰霊を行っていたのかもしれない。


『昭和60年6月20日、佐々木という男が訪れ、石を譲ってほしいと言ってきた。シミはオルダと呼ばれる虫であり、オルダがいるヒスイは一部で高値で取引されているという。なぜオルダというか問うと、新潟糸魚川のあたりで使われているという。一説では『ここに虫がおるだ』という方言が縮まり『おるだ』が使われるようになったらしい』


 佐々木が出てきた。どうやらオルダハンターだったのかもしれない。

 それにしても、オルダが新潟の方言始まりだったとは思わなかった。ORDAというのはオークション向けに作った綴りなのかもしれない。


『昭和61年9月3日、佐々木氏にオルダ1体渡す。オークション落札額の5割の契約とした』


 この村のオルダが少なかった理由が分かったような気がした。見つからなかったのではなく、村の外に運ばれ、いなくなっていたのだ。

 また、同様に分かったことがある。オルダが村の外に出ていき、新たな契約した者が現れなかったということもあるのかもしれないが、この時には契約解除を行っている様子がない。もしかしたら契約解除の危険性を把握していたからかもしれない。

 その後、同じようなタイミングで香川さんと松井さんも読み終えていた。


「私のノートでも、不慮の事故による死者の霊を鎮めた記載や、耳鳴りが聞こえるようになった人の話はありましたが、契約解除の話はなかったです」


 香川さんは言った。続けて松井さんが言った。


「私の方は、徐々に佐々木氏の名前がなくなっていき、オルダの話も減っていきました。唯一あったのが、平成7年9月12日に黙光寺の住職に耳鳴りが現れ、寺から出られなくなったという話を聞いた。オルダのいるヒスイは手水舎に設置されているため取り出せない、というようなことが書いてありました」


 畑谷も続けて言った。


「土工以降は、幻聴や耳鳴りの話が出てきても、契約解除の儀式っぽいものは出てこないっす」

「つまり、明治の土工を最後に笹嶺神社で契約解除の儀式を行うことは避けたということか」


 香川さんは再び人差し指を口の下にあてて言った。


「危険はあるかもしれませんが、これはやるしかないですね」

「やる?」

「神主のオルダとは、私が契約しましょう」


 香川さんはそう言ってニヤリと笑った。


「まずは星影神社さんに許可を取らなければなりませんな。所有者が移転するのでね」

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