63.竹山家
「ほう。それは是非ともお話を伺いたいですな」
香川さんが興味深そうに竹山さんを見ている。
「根屋家と繋がりがあると何か疑われるんですか? それならば私の他にもいますが?」
竹山さんは動揺している。
「いやいやいや、疑うとかではありません。参考までにお伺いしたいということです。どんなお話されたんです?」
動揺している竹山さんの代わりにオレが答えた。
「根屋家に伝わる笹嶺神社の慰霊祭と石のシミに関連する話です。慰霊祭は、人が神社の石のシミに触れないようにするために始まったもので、石のシミに関してはおそらくオルダのことで、契約する方法と解除する方法が伝わっていました」
「オルダとの契約と解除の方法をお聞かせください」
「石のシミに触れることで契約ができ、再び触れて境内の外に出たいと願うと契約が解除されたそうです」
「それは神社のオルダと契約をしたということでしょうか?」
「そうみたいですね。境内の外に出ると耳鳴りが続いてしまって、境内の外に出られなくなったそうです」
「その時に目玉が取られたという話は?」
これには竹山さんが答えた。
「そのような話は伝わっておりません」
香川さんはあの癖を出した。人差し指を口の下に当てている。
「根屋家の娘さんと同じですな」
それに対して竹山さんが反応した。
「伸治の娘ですか?」
それに対して香川さんが興味を持って返した。
「根屋信治さんとのご関係は?」
「はとこになります」
「なるほど。ご想像のとおり、根屋信治さんの娘さんです。お会いしたことは?」
「いえ、残念ながら一度もありません」
「春に村を訪れているようですが、その時もお会いしていない?」
「ええ。おそらく私の存在も知らないと思います」
「そうですか」
香川さんは再び人差し指を口の下に当て、そしてオレを見た。
「ああ、そういえば、この後は診療所ですか?」
「いえ、竹山さんの家にお邪魔して、根屋家の史料を見せていただく予定です」
なんとなく予感したが、案の定香川さんは言った。
「ほう、では我々も同行させてください」
こうして、竹山さんの業務終了後、オレたちは全員で竹山家にお邪魔することになった。
竹山家に到着すると、そこはいわゆる古民家と言った木造建築で、立派な長屋門となまこ壁の蔵があった。
オレたちはモノが何も置かれていない和室に通された。竹山さんはその部屋の押し入れから座布団を取り出し、オレ、畑谷、香川さん、松井さん、清水さんの5名分を畳の上に並べた。
「根屋家のものは蔵に入れてありますので、こちらでお待ちください。持ってくるものは紙の資料でしたね」
「手伝わなくても大丈夫ですか?」
オレが聞くと、
「それほど多くありませんので」
竹山さんはそう言って母屋を出ていった。
「立派な御屋敷ですなあ」
香川さんは部屋を見渡している。
畳の上には何もない部屋ではあるが、床の間には掛け軸と生花が飾ってある。
畑谷は職業病なのか、掛け軸をじっくり見ている。そして戻ってきて、オレに言った。
「この家、おそらく明治の初めの方に造られてますね。掛け軸は佐伯岸駒のようです」
「佐伯岸駒?」
「幕末頃の絵師です。金沢あたりで活躍していました」
「有名なの?」
「それなりですかね。相場は10万前後です。でも、模写も多くて。その場合は3000円くらいですね」
「畑谷くんは目利きなんだね」
「本職ですから。この家立派ですよ。長屋門も蔵もありますし、上級武士だったか豪農か豪商か、まあ格が高い家だと思いますよ」
「根屋家も千代の時代には村で一番大きな屋敷に住んでいたということから、村の有力者の家だったろうし、そこから嫁に来ているくらいだから、ここも名士の家だったのかもしれない」
そこへ竹山さんが段ボールをひと箱持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらです」
竹山さんはオレたちの中央に置いた。
中には畑谷が持っているような和綴じのノートが5冊ほど、昭和時代のものと思われる糸綴じのノートが3冊入っていた。
「では、確認させていただきましょう」
前のめりで言ったのは清水さんだった。
オレたちは古そうな和綴じノートから確認していくことにした。




