62.合流
竹山さんが自席に戻った後、先ほど浮かんだ疑問を清水さんに伝えた。
「こんなに近くに根屋家と繋がる人がいたのに、どうして笹嶺神社の慰霊祭について聞かなかったんですか?」
責めたわけではないが、清水さんはバツが悪そうな顔をした。
「いや、笹嶺神社の慰霊祭は年に一度とかで開催される大きなイベントのようなものだと思っていたんですよ。まさか根屋家が独自に単発的に行っていた除霊のようなものだなんて思わなかったんです。逆に、なぜ通史に慰霊祭という表現で記したのか疑問が浮かぶくらいです」
確かにそうである。ああいう表現をされたら、行事的なものだと考えてしまう。
「根音村史が編集されたのは50年ほど前ですが、出土したものと史料が存在するものを基本として記載され、一部に文字記録の少ない民間伝承が紹介されている形です。笹嶺神社の慰霊祭は史料のある出来事の中に含まれていたにもかかわらず後注がなく、調べようがなかったんですよね。だからこそ気にはなっていたと言いますか」
「でも、通史に記載されていたということは、伝承として当時残っていた、あるいは史料がきっと存在していたんですよね」
「おそらく。著者が根音村史編集委員会となっていて、誰が編集したかというのが今となっては不明で」
「杜撰っすね」
「言い訳ができないです」
オレは机の上の根屋家資料に視線を落とした。
「少なくとも根屋家の史料は使って無さそうですよね」
「なんでっすか?」
「だって、この最も古そうなもので1700年以降のもののようだった。根音村史には17世紀末って記載があったはず。つまり、1690年代を指しているはずで」
「そっか」
「だから、これの他に史料か、あるは誰かから聞いたかしたはずなんだ」
しかし、ここで畑谷が本質を突いてきた。
「てか、俺たちの目的は笹嶺神社の慰霊祭の歴史を紐解くことじゃなくて、五十嵐さんと神主さんを起こす方法を探すことじゃなかったっすか?」
オレはハッとした。
「そうだった。龍王寺左兵衛が庚申塔建立日に倒れたという記載が見つかったから、次に探すべきは竹山さんが言っていた石のシミに触れて耳鳴りがするようになった人と、再度触れて耳鳴りがしなくなった人に関する記載だな」
清水さんはとても名残惜しそうに言った。
「あの、とても言いにくいことなのですが、時間的にあと1時間が限界です」
清水さんが時計を指すと、16時を指していた。
「閉館時間が17時なんですよ」
「もう、そんな時間になってましたか。ってことは、そろそろ香川さんたち到着するんじゃ…」
「到着する前に、ざっと見なきゃっすね」
それまで龍王寺左兵衛に注目して探していたが、これからは石のシミによって耳鳴りがするようになったなどの記載がないかに的を絞って探すことにした。
清水さんは座席に戻らなくてよいのかと心配したが、
「いや、この資料を読み解くことも立派な業務ですので」
と、あくまでオレたちの調査に立ち会う予定のようだ。
畑谷は根屋家資料を順に確認していく。しかし、記載されているのはこれまで通り寺の人物に関することと、耳鳴りが聞こえるという人の情報、そして、石のシミが出たから鎮めなければならないというものばかりであった。一巻ずつ、一冊ずつ確認していくが、なかなか欲しい情報は出てこない。
そんな時だった。オレの携帯のバイブが鳴った。香川刑事からである。「失礼」と言って、オレは応答した。
「はい」
『どーもどーも。まだ携帯が繋がる場所にいらっしゃいますね』
「ええ、まだ村役場の中に」
『調べものですか?』
「はい」
『外にお二人のワゴンが停まっておりましたので、そうだと思いましたよ』
つまり、香川さんたちは村役場の駐車場にいるということだな。
『村役場のどこにおられますか』
「郷土資料室です」
『了解です』
そう言うと、香川さんは電話を切った。
オレは携帯をしまいながら、
「香川さんたち到着しちゃいました」
「じゃあ、今日はここで終了っすね」
「片付けなきゃですね」
畑谷は読むのを止め、清水さんは根屋家資料の片づけを開始した。
その最中、竹山さんに連れられて、香川さんと松井さんがやってきた。
「どーも、進展はございましたか?」
香川さんが右手を上げながらオレに聞いてきた。
「あったと言えばありました」
「ほう」
「そこの竹山さん、根屋家の親戚だそうです」
竹山さんはギョッとした顔でオレを見た。
刑事たちは竹山さんを見て、
「それは本当ですか?」
と聞いた。
竹山さんは戸惑いながらも、
「祖母が根屋家の人でした」
と答えた。
「ほう。それは是非ともお話を伺いたいですな」




