61.竹山さん
清水さんが受付担当の白髪交じり女性を連れて戻ってきた。
「竹山です」
女性は名乗った。
「戸塚です。先日はありがとうございました」
「いえ、業務を行ったまでです」
「畑谷です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
清水さんがオレたちが今調べている内容について竹山さんに簡単に説明した。そして、根屋家から持っていた資料の中に、笹嶺神社の慰霊祭や石のシミに関するものがないか、そのシミと契約する方法などが伝わっていないかを確認したい旨を竹山さんに伝えた。
すると竹山さんは、
「なるほど。それで私が」
と状況把握したようだった。
「まさか倒れていた男性と石のシミが原因とは思ってもいませんでした」
「確定ではないですが、可能性が高いという状況です。まずは、笹嶺神社の慰霊祭や、石のシミについてご存じのことを教えていただきたいです」
「祖母が根屋家の出身というだけで、祖母から聞いた話くらいしか把握していませんが…」
「ご存知の範囲で教えてください」
竹山さんは戸惑ったような表情を浮かべたが、話してくれた。
「根屋家は、鬼虎の話に出てくる千代の家です。千代の直系ではなく、千代の弟の家系のようです。伝わる話では、息子に先立たれた千代は笹嶺神社の森の奥で自害したというのは事実であったようです」
森の奥で人骨を発見できた時点で、概ね事実だったのだろうと思ってたが、やはりそのようだった。
「その時に息子を死に追いやった人たちを呪ったという話が伝わっていることを既に把握されているかと思いますが、根屋家では彼らの動向を観察していたようです」
「それが、この文書なのですね」
竹山さんは机の上に広げられた古文書に視線を落とした。
「正直、私には読めませんが、おそらくそうだと思います」
「どのような呪いなのか、寺の人々に何が起きているのか、というのを観察しているうちに、彼ら以外にも彼らと同じ症状のある者がいることが分かり、彼らの観察もするようになったと伝えられています」
竹山さんは再び顔を上げ、オレたちの方に視線を戻した。
「その同じ症状を持つ人たちに共通していたことが、笹嶺神社に足を運んでいたということでした。そして、彼らは笹嶺神社の石を持ち帰っていたことが分かりました」
「石を持ち帰る?」
「笹嶺神社の石には亡くなった人の霊が宿るという噂が一部で流れていて、それを信じた者たちが、石に現れた霊魂を切り出して、持ち帰っていたようです」
おそらく現れたオルダを亡くなった方の霊魂に見立てていたのかもしれない。そして、そのオルダと偶然契約してしまった人たちが、寺の人たちと同じ症状を持つようになったのだろう。
「しかし、それがいつしか千代の呪いだと言われるようになって、根屋家ではこれ以上千代を悪者にしないように人々を石に近づけない方法を考え、実行しました。それが笹嶺神社の慰霊祭の始まりです。石にシミが現れたら祟りが起こる。だから慰霊を行い、鎮めなければならないということにしたようです。そうすることで、人々が笹嶺神社の石を勝手に切り出さないようにしたと伝えられています。同時に根屋家が笹嶺神社の管理をするようになりました。」
ふと、清水さんは何故竹山さんに慰霊祭の話を聞いていなかったのだろうという疑問が浮かんだが、今は口にしないほうがいいと黙ることにした。
「管理を続けていく間に、誤って石のシミに触れてしまった人がいたようです。すると、これまで観察してきた人々と同じ症状が出たようです。その人物は、笹嶺神社を離れると耳鳴りに悩まされるようになり、しばらくの間、境内で過ごしたと伝えられています」
まるで黙光寺の住職と同じである。
「しばらくの間ということは、境内を出られるようになったということですか?」
「はい。石のシミに再び触れ、境内の外に出たいと願ったことで耳鳴りがしなくなり、家に戻ることができたと伝わっています」
「その時に倒れたとか、目が見えなくなったとかいう話は?」
「そういう話は特にないです。その後も、根屋家では度々石のシミに触れて耳鳴りが聞こえるようになった人がいたようですが、同様の方法で治したと伝わっています」
契約解除をしたら、目玉が取られて、その場に倒れるわけではないのか?
「私が聞いている話ではこの程度です」
竹山さんは謙遜しているが、結構なボリュームだった。伝わっている話の中に目玉が取られたり、その場に倒れたりという話がないのであれば、五十嵐や神主さんの原因が石にあるとは思わなかったのも仕方ない。
「根屋家に残っていた文書なども持ち帰ったという話を伺いましたが」
「持ち帰りはしましたが、読んではいません」
「それを見せていただくことはできますか?」
「自宅の蔵にありますので、本日の業務が終わったらでよろしければ」
「待ちます。待てます」
「では、業務終了後に」
「はい、よろしくお願いします」
業務が終わる17時半頃に、竹山さんの家に行く約束を取り付けた。
「私も行きます!」
と、清水さんも同行することになった。




