57.龍王寺左兵衛
清水さんが巻物を運んできてくれたので、アザ(オルダ)が人から人へ移ったという記録がないかの確認を中断し、巻物を確認することにした。
巻物は直径10cmまではいかなくとも、7~8cmはありそうなもので、それが3つあった。
3人で相談し、箱の見た目が古そうな順番で開くことにした。
一つ目の巻物の始まりは、亥年であった。
「笹嶺しみあらわるる。重三か。亥ノ七月三日 …しょっぱなからシミネタっすね」
「こっちの冊子タイプと似た内容か?」
「そうっすねえ…」
畑谷は読み上げず、目で追っている。畑谷の合図で、清水さんは少しずつ巻物を伸ばしていく。
「違いがあるとすると、馬込出てこないっすね。寺の名前は出てくるっすけど、馬込出てこないっす」
「馬込が出てこない?」
「万福寺女 泣き声続き堂に二日こもる 丑ノ十月十二日」
もう丑年なのか、と思ったが、そこはツッコまなかった。
「あっ、出たっす。庚申塔建つも呪い取れぬ 寅ノ十二月二十九日」
オレは思わず除いた。かろうじてだが庚申塔が読める気がした。
「1720年以前の寅年っていつだ?」
オレは携帯を取り出して検索をした。1720年はねずみ年らしい。1691年から1720年の間にある寅年は2回である。
「1698年と1710年だ」
「ちょっと待ってください」
清水さんが前のめり気味で言ってきた。
「私、庚申塔の調査をした時に写真撮ってるんですよ。そのデータ見れば、どっちの庚申塔か分かるかも。PC立ち上げるので少々お待ちください。ようやく庚申塔の調査が役に立つときが来ましたね」
清水さんは郷土資料室に設置されているパソコンの電源を入れた。少ししてパソコンが立ち上がり、
「これです」
オレたちは清水さんの背後に回り、表示された写真を見た。
「これが一つ目の庚申塔で元禄四年、次が元禄八年…」
「1698年は元禄11年みたいです」
「三つ目が元禄十一年ですね。元禄十一年十二月吉日」
「さっきも12月でしたよ。合ってる!」
「その先も見てみましょう。次の寅年は?」
「宝永七年」
「四つ目が元禄十四年、五つ目が宝永元年、六つ目が宝永四年…次ということですね」
そう言って、清水さんは七つ目の写真を開いた。
「宝永七年十二月吉祥日」
オレたちも写真で確認する。
「こっちも12月っすね。でも、これであの巻物が1698年か1710年のもので確定したっすね」
「素晴らしいです!」
清水さんは妙にテンションが上がっている。
「あの巻物の続きを確認しよう。内容次第で、どっちのものか分かるかもしれない」
畑谷は再び椅子に座り、先ほどの続きを確認していく。
「永福寺弥一没す 卯ノ九月廿四日」
「寺の誰かが亡くなった時もメモってるということか」
しかし、特にめぼしい情報はないまま一つ目の巻物が終わった。
続いて、二つ目の巻物を確認していく。
「これ続きっぽいっす。辰年から始まってるっす」
畑谷が確認していく。
「基本的には似た内容がひたすら続いてるっすねえ。笹嶺神社にシミが現れすぎっす」
そう言いながら、どんどん読み進めていく。そして、
「出た。年代確定っす。龍王寺嘉兵衛没す 子ノ十月廿日」
オレと清水さんは畑谷が指した場所を覗いた。
「正徳何年とかでしたよね?」
清水さんが言った。
「たしか1717年の1~2年前です」
オレは年代を確認する。ねずみ年は、
「1715年ですね」
畑谷はどんどん読み進めていったが、残念ながら直前の申年の八月で終わってしまった。
そして、最後の巻物の確認を開始した。
「きたっす」
畑谷が一文を指した。
「庚申塔建つ 享保二年壱月五日」
清水さんがパソコンに駆け戻り、画像を確認する。
「九つ目の庚申塔が享保二年壱月五日です」
「一致してる」
オレの言葉に被すように畑谷が言った。
「龍王子左兵衛 卒倒す 享保二年壱月同日」
「同じ日?」
畑谷は読み進め、「あった」と呟いた。
「龍王子左兵衛没す 骨と皮だけ 呪いか 享保二年弐月五日」
オレの中でほぼ確定した。
「体からオルダが抜けると気絶して眠り続ける。五十嵐は診療所で点滴を打ち続けているから3か月なんとか保っているが、昔はただただ痩せ細っていき、亡くなる。目玉の確認はできないが、ほぼ間違いないだろう」
「そうっぽいっすね」
「つまり、アイツらはもうオルダとの契約が切れている」
畑谷がオレの話に頷いた。
しかし、話についていけない約1名が言った。
「オルダって何ですか?」




