52.ロコモコ
12時少し過ぎたところで食堂に到着すると、満席であった。
「もうすぐ源ちゃんたちが出るから、ちょっと待っとって」
おばさんはオレたちが入口の扉を開けると言った。
それを聞いて、源ちゃんたちと思われる集団が、
「それは長居するなってことけ?」
「あとふた口で食べ終わるずら」
「しかたねえなあ」
源ちゃんたちは丼の残り物を胃袋の中へとかきこんでくれた。
「ぼくちゃんたちは今日何食べるの?」
おばちゃんはオレたちに聞く。
メニューが手元に無いので、壁のメニューを見る。畑谷も覗く。
「今日のおススメは?」
オレが聞くと、源ちゃんが、
「ロコモコ丼」
と言った。
「ロコモコ丼なんてあるんすか!?」
畑谷が驚いて、壁を見るが、そんな文字はどこにもない。
「実験メニューさよぉ。好評なら定番にしようかと思ってね」
「じゃあ、それで」
「俺もロコモコ丼にするっす」
「はいよー」
畑谷がオレに小さな声で言った。
「ロコモコの値段が分からないっすね…」
「おまえは気にすんな。オレが出すから」
「ゴチになります」
源ちゃんたちが食べ終え、席を立ち、空いた皿をカウンターのところへ運んだ。
「ごちそうさまでした」
「ありがとねー」
そして源ちゃんたちは、オレたちのいる入口の方に歩いてきて、笑顔で、
「ロコモコ丼の定番化は1年後かもしれん」
と言って出ていった。
おばさんは、調理場からロコモコ丼2つ運んできて、テーブルの上に一旦置き、テーブルを拭いてから、椅子の位置に置きなおした。
「どーぞ」
オレたちは、ロコモコ丼が置かれた場所に座った。
「こういうメニューもあるんすね」
「たまにね、他の町に行かないと食べられないものも挑戦するずら。同じものばかりでも飽きられるさよぉ。まあ、実験やけぇ、過度な期待は禁止な」
「わかりました。いただきます」
オレたちは一口いただいた。
「不味くはないっすね」
「うん…」
「すげー旨いってわけでもないっすね」
「うん…。でも、普通に食える」
そんな味だった。
「午後は臼田に行くんすね?」
「そうしようと思う。これ見てくれ」
オレはテーブルに地図を出した。
「清水さんが馬込の場所と予想した牛舎と、根屋家資料に出てきた龍王寺の場所は近いんだよ」
畑谷はハンバーグをほおばりながら地図を覗く。
「確かに」
地図の端っこに牛舎があり、その斜め向かいのあたりに龍王寺が存在している。
「当時この辺りで耳鳴りがしていたということは、つまり、この付近に当時オルダが存在していたということかと思う」
「今もいたら凄いっすね」
「持って帰れるなら、持ち帰りたいよな」
「俺、ひとつは貰える約束すよね?」
あ、確かにそういう約束だった。
「誰の所有物でもないことを祈っとけ」
畑谷は目を瞑り、胸の前で手を合わせた。そして、目を開けると、真面目な顔をして言った。
「俺、千代の子に関連していたのは村で寺を建てた人だけだと思ってたから、あの資料見てビックリしたっす。あの感じだと他にもオルダの鳴き声が聞こえていた人が何人かいたってことっすよね」
オレは頷いた。
「寺関連者は黙光寺のように名前の前に寺の名前が付けて書いていたから、付いてない人は寺関連ではない可能性が高そうだな」
畑谷はご飯を一口食べてから、「うーん」と言い、首を傾げた。
「でも、なんで根屋家はあんなメモみたいなものを残していたんすかね」
確かに今回見たものは一行メモのようだった。
「予想にすぎないが、千代の呪いが関連してると考えたものを記していたように思う。呪いにかけられたとされる寺の人のことや、その寺の人たちと同じ耳鳴りのような症状が出ていた村民のことを記してる。笹嶺神社の石の表面にオルダが現れたら、それも呪いの一つと考えていた可能性も考えられる。だから、その時期に亡くなった人と紐づけて霊を鎮めようとしていたんじゃないだろうか」
「寺の人は神社に近寄らなくても、神社側は寺の状況を観察してたってことっすね。それを最近までやってたんすかね?」
「どうなんだろうか。笹嶺神社の慰霊祭が明治に入って終わったとされているから、そのタイミングで止めている可能性はある。とりあえず、根屋家メモから分かったのは、契約解除されたオルダが他の人と契約を結べば、元の契約者の目が覚める可能性があるってことだな」
「あれって、そういうことっすよね」
「可能性は否定できないってところだ。じゃあ、誰が五十嵐や神主さんのオルダと契約を結ぶのかってことだな」
「そうっすね。あのお医者さんとか、香川さんとか、言ってみたらやりそうじゃないっすか?」
確かにあの二人は興味はありそうだな。ただ、勧めていいのか…
「本人の覚悟次第だろうな。あと気になるのは、笹嶺神社の右石のオルダは今も存在していそうなのに、オレたちのオルダは鳴かないってことだ」
「それ、気になるっす」
「ひとつ可能性があるとしたら、畑谷くんのオルダは元は岡田教授のオルダだ。だから、既に岡田教授が挨拶させていたという可能性が考えられる。でも、オレのオルダはなぜか分からない。この村に来たこともなければ、挨拶したこともない。オレの前の所有者が過去に挨拶をしていたということなのか? でも、このオルダは…」
いや、このオルダは元々貰い物だ。誰から貰った…?糸魚川や境海岸で採取したものではなく、オルダ探しをしていた時にたまたま出会った人に貰ったんだ。あれは、どこだった…?
「どうしたんすか?」
「いや、ちょっと…」
オレは、ロコモコ丼をかきこんだ。
「ほら、畑谷くんも早く食え」
「は、はい」
オレたちはロコモコ丼をかきこんで、あっという間にたいらげた。
「さ、臼田に行くぞ」
「そうっすね」
おばちゃんに「ごちそうさま」を言い、お会計をした。一人800円だった。正直安いのか高いのか分からないが、カレー450円が破格だということが分かった。




