49.黙光寺、再び
「香川さんの用件なんだったんすか?」
黙光寺の道中、畑谷が運転しながら聞いてきたので、根屋の娘を名乗る黒髪の女ががオレが予想していた人物であったこと、香川さんがこれから会いに行くというので聞いてもらいたいことを伝えた、と伝えた。
「なんで根屋の娘は、オークションに参加する社長の元を渡り歩いたんすかね? オルダ買いそうな社長の秘書になってオークションに参加させてたってことすかね?」
「それを香川さんに聞いてもらおうと思って伝えた」
「ですよねー。それ思いますよね」
そんな話をしている間に黙光寺に到着した。
門をくぐると、今日も保育所は運営しているようで子供の声が聞こえた。
「旦那の方しかいないなら、話聞けないかな」
本堂の前に到着すると、寺の掃除をしていた住職がオレたちに気づいて会釈をした。
「どうされました?」
「少々お伺いしたいことがありまして。あ…、あれから、どうですか?」
「おかげさまで、寺の外に出られるようになったので、昨日は妻と久しぶりに富士宮の方まで出てみました」
「それは良かったです」
「途中でギーーーーーーーー―というオルダの鳴き声がしたのですが、そこに他のオルダがいたということですよね?」
「そういうことになります。ちなみに、それはどこですか?」
「えっとカントリーの近くだった気がします」
「貴重な情報ありがとうございます」
「いえいえ、ご用件はなんでしょう?」
住職は寺の掃除を中断して、オレたちの方へ近寄ってきてくれた。
「先日お話をお伺いした水盤にオルダ、アザを移された方のことで。かなり昔のことだとは思いますが、その方がオルダを移した前と後で何か変化が起きたのかどうかご存じかなと思いまして」
「体からアザが消えた張本人ということですよね?」
「はい」
「本当に申し訳ないのですが、私は詳しくなくて…今の時間であれば、私が一時的に代わることもできるので妻を呼んできますよ。食事やお昼寝の時間はダメなのですが、遊びの時間であれば…」
そう言って、住職は保育所へと向かった。
少しして住職の妻がやってきた。
「あまり時間は取れませんが良いですか? あの人5分くらいが限界なので…」
「はい、大丈夫です。逆にすみません」
「アザを水盤に移した祖先の話ですよね?」
「はい。アザが水盤に移った後、その方に何か変化があったという話は伝わっていませんか?」
「変化…?」
住職の妻は「うーん」と言いながら考え込んだ。
「例えば…片目が見えなくなったとか」
オレがそう言うと、住職の妻は、
「ああ!そうです」
と言った。
オレと畑谷は顔を見合わせ、再び住職の妻を見た。
「アザが水盤に移った後、しばらくの間眠り続けたという話があります。眠りから覚めると片目が見えなくなっていたとか。でも、代わりに千代の子の鳴き声は聞こえなくなったと」
「目が覚めたんですか?」
「ええ、そういう風に聞いています」
「どうやって目が覚めたかは伝わっていますか?」
「申し訳ありません。そこまでは…え、もしかして診療所の男性も先祖と同じ状態ということですか?」
「今、お話を聞いて、その可能性が高まったと思いました」
「それならば、いつか目が覚める可能性はありそうですね」
「そうですね。お時間いただきありがとうございました」
「いえ、あまりお役に立てませんで」
オレたちは住職の妻に礼を言い、黙光寺を後にした。
車に乗り込むと、畑谷がシートベルトをしながら言った。
「オルダとの契約が切れると、目玉が無くなるということっぽいっすね」
「っぽいな」
「五十嵐さんと神主さんは契約が切れてる可能性高そうっすね」
「だな」
オレの反応が短かったからなのか、畑谷はエンジンをかける手を止めた。
「何か思うことあるんすか?」
「いや…どうしようかなと思って」
「何がっすか?」
「笹嶺神社で実験…したら危険だよな」
畑谷はオレの意図をすぐに理解したようで、
「止めといた方がいいっす。目が無くなって、眠り続けるの確定っすよ。いいこと何もないですって」
「だよなあ」
「俺たちがするのは、五十嵐さんや神主さんの後追いではなく、二人を目覚めさせる方法を探すことっす」
「だよなあ」
「あ、いいこと思いついたっす!」
「ん?」
「食堂行きません?」
「それがいいこと? この時間はまだ準備中だろう」
「だからっす。開店前に話を聞きに行くっす。あそこのおばちゃん、色んな人と話してそうじゃないっすか。実は笹嶺神社の慰霊祭とかも詳しかったりしませんかね?」
「笹嶺神社の慰霊祭が終わったのは今から150年以上前の話だぞ?」
「まあ、聞いてみないと分かんないじゃないっすか」
こうしてオレたちは、開店前の食堂に行くことにした。




