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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
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46.焼肉

 香川さんと松井さんは本署に戻り、オレたちは診療所へと帰った。


「進展ありましたか?」


 三田さん、オレ、畑谷の順でシャワーを終えて、夕食のために医者の家に行くと、扉を開けた医者が興味津々の顔で聞いてきた。


「あったと言えばあったし、無かったと言えば無かったという感じですね」

「昨日と同じですね」

「まあ、そうですね。笹嶺神社の社に何かありそうですが、要因が全く分からないんですよね」


 そう言いながらダイニングに入ると、テーブルの上には朝ホームセンターで購入した焼肉グリルが鎮座していた。


「おお!」


 と、オレと畑谷は同時に声を上げた。

 医者はその反応に対して嬉しそうに、


「購入していただいたんで、さっそく使おうと思いまして。ちょうど、通院している近所のお爺さんからイノシシ肉をいただいたんですよ。東京風に言うとジビエですね。イノシシ食べたことあります?」


 医者の問いに、オレと畑谷は同時に「ないです」と答えた。


「それは良かった。私もこの村に来るまでは食べたことなかったんですけど、患者さんに貰うようになって、食べるようになったんです。最初はちょっと抵抗あったんですけど、食べなれると癖になりますよ。イノシシ肉は鍋もおススメではあるんですけど、焼肉もなかなかです。あ、換気のために窓を開けっぱなしにしますが、そこはご了承ください」


 オレと畑谷、医者と看護師は昨日と同じ席、三田さんはお誕生日席に座ることになった。はじめは医者が誕生日席に座ろうとしたもの、三田さんが遠慮した。

 焼肉グリルでジューっと焼いていく。牛や豚とはちょっと違う臭いが漂い始める。

 畑谷は、焼肉グリルに肉が乗せられるたびに「お~!」と感嘆の声をあげている。

 まずは塩コショウのシンプルな味付けのものをいただく。初めて食べた猪は少し硬いように感じたが、


「肉々しいっすね!」


 という畑谷の言葉に同意した。この硬さ、肉々しさも含めて美味である。

 次にごま油や醤油、塩こうじに漬け込んだものとどんどん味変していった。どれも味わったことのない、でも医者の言う通り癖になる味だった。


「美味しいですね!」


 オレがそういうと、医者と看護師は同時に「でしょ~」と笑って答えた。

 そんな医者と看護師を面食らったように見ていた三田さんに、医者は気づいて、


「あ、紹介遅れました。私たち夫婦なんですよ」

「そうかなとは思いましたが、いや、診療所の雰囲気と全く違うので驚きまして」


 医者は照れたように笑い、


「焼肉で調子乗っちゃいましたね。久々なんですよ、大人数での焼肉。この村に来ると外食がほとんどないので、妻以外の人と焼肉というのでちょっと嬉しくなっちゃいまして」

「確かに外食する店少なそうですね」


 看護師は頷いて、


「村の食堂くらいしかないんですよ。前は休診日に富士まで出たときにランチを外で食べるというのはありましたが、五十嵐さんが入院されてからというもの、なかなか行けなくて…」


 確かに休診日も体拭きをしたり、様子を診ていたりしたというから、この数か月外出できてないんだろうなと思った。


「早く、五十嵐や神主さんが目を覚ます方法見つけないとですね」


 オレが思わずそういうと、医者と看護師は切実そうに頷いた。


「ええ、お願いします。医師にできることは、もう無さそうなので…」


 扉を開けての第一声が「進展ありましたか?」なのは、切実な想いからなのだろうと察した。


「あっ、そうだ。星影神社の石を神主さんの部屋に運んだ時、神主さん反応しましたか?」


 オレの問いに答えたのは看護師だった。


「それが全く。戸塚さんに言われて、表情に注目しながら棚に運びましたが、まぶた一つ動きませんでした」

「そうですか」


 オレが残念そうな顔をすると、それを横からの覗き込むように見た畑谷が言った。


「何か思うことがあるんすか?」

「いや、昼間に先生から二人がノンレム睡眠状態という話を聞いて、違和感のようなものがあって、それが何でだろうか…と。ほら、畑谷くん言ってたじゃないか。実家では一日中オルダの鳴き声がしてたって。その時眠れた?」

「いやあ、全然っす。寝ようと思っても、耳元でずっとオルダが鳴いてて、全然眠れなくて、だから俺、ウィークリーマンション暮らし始めたんすもん」


 医者は興味津々に、


「オルダの鳴き声ってそんなにうるさいのですか?」


 と聞いてきた。それに対して、

 「めちゃめちゃ煩いっす」と畑谷が、

 「耳が痛いくらいです」と三田さんが答えた。


「へえ。それならば、外からは分からないですが、本人にはオルダの声が聞こえている可能性もあるかもしれないですね」

「本当ですか?」

「確証はありませんよ。五十嵐さんや神主さんのようなケースは出会ったことがないので。ただ、以前、救命で働いていた時、昏睡状態に陥った方が運ばれてきまして。声をかけても、肩を叩いても、何をしても反応がなくて、心臓もどんどん弱っていって、必死に心臓マッサージをしても反応が弱かったため、これはもうダメかもしれないという話をした時があったんです。その後患者さんは奇跡的に意識が戻ったんですが、その時に、心臓マッサージをしていた時の声が全部聞こえていたって言われたんです」

「そんなことあるんですね」

「聞こえていた内容を確認すると、確かに話していたことだったんですよ。患者さんは聞こえているということを伝えたかったらしいんですが、声が出なくて、反応もできなかったそうです」

「だから、五十嵐や神主さんも聞こえている可能性はあるということなんですね」

「ゼロではないと思います。まあ、五十嵐さんに三か月間あの状態なので、なんとも言えませんが」


 なんとなく違和感の原因が分かったような気がする。

 医者も看護師も「診療所に運ばれてきたときからずっと様子は変わらない」と言っていた。でも、五十嵐は運ばれた時からずっとオルダがそばにあった状態、神主さんは運ばれた時からずっとオルダがなかった状態だった。つまり、変化があるわけがないのだ。

 看護師は部屋に運んだ時にまぶた一つ動かなかったと言っていた。そりゃそうである。廊下の時点で近づいているのだから、表情が変わるわけがない。

 ここで、オレは二つの実験をしたくなった。

 一つは、五十嵐のオルダと星影神社のオルダを挨拶させたらどうなるか。

 もう一つは、星影神社のオルダあるいは五十嵐のオルダを持って診療所の外に出たらどうなるか。


「畑谷くん、夕食のあと付き合ってくれないか? ちょっと確認したいことがある。先生もお時間があれば付き合っていただけると幸いです」


 医者は興味津々の顔で頷いた。


「私でよければぜひ」

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