42.白骨
検視官たちは、一体だけで埋まっていた大柄な骨を取り出し、敷いていたブルーシートの上に寝かせた。
「頭蓋骨の左側頭部が凹んでいますね。右腕の関節も不自然に折れている。このご遺体は他殺で間違いなさそうです」
飯尾さんが言うと、横で見ていた法医の中島さんが、
「そうですね。左側頭部の凹み方は、この人物がしゃがんでいた時に背後からツルハシのような先のとがったもので殴ったものと思われます。右腕の骨折はその際にバランスを崩した状態で手を地につけて折れた可能性もありますが、その状態で上から圧迫されたようにも思います。右肩も部分的に凹んでいて、内側から外側に向かって折れているので、うーん、斧のようなものが振り下ろされているように思います。ただ、古人骨なので、放射性炭素年代測定を行うべき事案ですね」
飯尾さんの指示で、検視官2人が大柄な骨を森の外へと運び出していった。
「問題はこちらですよね」
飯尾さんはもう一つの穴から出てきた二体の骨を見て言った。
「外から見た状況では外傷はなさそうです。白いことだけが気になります」
法医の中島さんは言った。
「本当に300年前のご遺体である場合は徒労に終わりそうですが…。ショベルで掘っている時には、特に何も起きなかったんですよね」
飯尾さんが香川さんに聞いた。
「私は特に何もなかったです」
「ということは、やはり2体を引き離さず、直接触れないようにすれば何も起こらない可能性が高そうですね」
「感染症のような対応でいきますか」
飯尾さんの隣にいた検視官が、飯尾さんに聞いた。
「そうだな」
そこへ大きな骨を運んでいった部隊が戻ってきた。
一同はマスクを装着し、手袋を二重にはめた状態で、ウレタンを骨の周囲に詰め始めた。骨を壊さないように慎重に詰めているのが外から見ても分かる。
しかし、その時だった。パキッという音が鳴った。同時に、一人の検視官がアーーーーーーーーと叫んだ。
「どうした?!」
飯尾さんはその検視官に詰め追った。
その検視官は両耳を押さえている。その姿を見て、オレと畑谷は一発で何が起きたか分かった。
「すみません、見せてください」
オレは検視官に駆け寄り、彼の手を見た。白い手袋の一部が赤くなっている。間違いなく血である。オレは検視官の血の出ている方の手の袖をまくった。
「いた」
オレは畑谷に言うと、自分のペンダントを外し、検視官の腕の中にいるオルダに当てた。続いて畑谷も和綴じノートを当てた。しかし、改善する気配はない。おそらく白骨のオルダに共鳴しているのだろう。
「彼をこの場所から離した方がいいです」
オレは香川さんと松井さんに言うと、松井さんが検視官の腕を取り、「行きましょう」と森の外へと連れて行った。
飯尾さんは、あの検視官の作業していたウレタン部分を確認した。そこにはパキッという音が鳴った際に折れたと考えられる骨があったようで、それを恐る恐る手に取った。それは白い骨ではなく、他の骨と同じ黒褐色の小さな骨だった。
「褐色の方の骨が折れたんですか?」
香川さんが聞くと、飯尾さんは横に首を振った。
「これを見てください。折れたのは白骨の足の小指だと思います」
飯尾さんが手にしている骨と、白骨から欠けている足の小指の骨は確かに繋がりそうであった。
「やっぱり、その白い骨は生きてるんだ」
畑谷が言った。
香川さんが人差し指の甲を口の下に当てた。
「ご足労いただいたのに申し訳ない。これは検視官や法医の先生に託す事案ではないのかもしれません。こちらの骨については一旦中断でお願いします。持ち帰るあの骨の年代を測定いただければと思います」
検視官たちはウレタンを外し、その後、骨を土の中に戻した。




