41.鑑識と検視官と法医と
そろそろ鑑識が到着するだろうということで、オレたちは再び笹嶺神社に向かい、社の前で待つことにした。
待っている間、五十嵐と神主を襲った何かが社の中にいるのではないかと刑事二人が中に入って確認したが、発見はなかった。
まもなく鑑識一行が到着した。追って検視官と法医が来るということで、松井さんを案内役に残し、オレたちは骨の見つかった場所へと鑑識一行を連れて行くこととなった。
先頭を行くのが香川さんとオレと畑谷、その後に鑑識一行という順で森の奥へと進んでいく。香川さんは鑑識一行に、オレと畑谷は捜査に協力している専門家だと説明していた。
鑑識一行は職業病なのか、下や周辺を観察しながら森の奥へと進んでいる。オレはその様子を時折振り返って眺める。畑谷ではないが、まるでドラマか映画のワンシーンに紛れ込んだような気持ちになった。
湧水に近づき、オルダが鳴き始めたので、オレと畑谷は途中で耳栓をした。刑事たちは事情を分かっているものの、鑑識一行は分かっていないので、一部から怪訝そうな顔で見られた。
紅葉の大木が見えてくると、先ほどの吐き気と寒気を思い出し、オレは急に怖くなった。
「体調心配ならば、その辺りから眺めててください」
香川さんはオレに言ってくれたが、
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。立ち会わせてください。オルダの動きも気になりますので」
「そうですか。分かりました」
香川さんが骨の付近へ鑑識一行を案内すると、鑑識一行は骨に向かって合掌し、それぞれの仕事の準備を始めた。彼らの仕事は骨そのものではなく、骨の周辺にあるようだった。土ひとつにしても、上部の土と、骨周辺の土など様々な部分から採取している。湧水も汲んでいる。
特にオルダに変わった様子はなかった。先ほど見えていた黒い姿は隠れており、一見するとただの白骨死体である。
しばらくして、松井さんが青い服の男性4人とスーツを着た女性を連れてやってきた。おそらく青い軍団が検視官で、スーツが法医なのだろう。
香川さんは彼らの方へ行き、
「わざわざご足労ありがとうございます」
と言い、オレと畑谷を手招きした。
ただの見学者状態であったオレと畑谷はお呼びがかかったとばかりに小走りで香川さんたちの方へ向かった。
「今回捜査にご協力いただいているオルダ専門家の戸塚さんと畑谷さんです」
突然紹介されて、オレたちは少し緊張気味に挨拶をした。
「戸塚です。よろしくお願いします」
「畑谷です。よろしくお願いします」
すると、青い軍団の中でもっとも年配そうな男性の方が、
「検視官の飯尾です。よろしくお願いします」
と会釈をし、その後女性の方が、
「法医の中島です。よろしくお願いいたします」
と挨拶してくれた。
「白骨死体はこちらです」
香川さんの案内で、検視官一行と法医は手袋をはめながら三体の骨の方へと歩いていった。
オレと畑谷と松井さんはその後に続く。
骨の場所へと到着すると、鑑識一行と同様に検視官一行と法医は骨に向かって合掌をした。
「これは…どういうことだ」
検視官の飯尾さんが呟いた。
「測定しなければ正しい時期は分かりませんが、両端の褐色のお骨はかなり古いものであるのは間違いないですね。ただ、抱かれている白骨はまるで最近のもののようだ」
隣で法医の中島さんも頷いている。
「しかし、抱いている褐色の骨があとから動かされた様子はないですね。埋められた時点で最初から抱いていたような…だから非常に違和感がある」
話を聞いていた香川さんが二人に言った。
「戸塚さんたちの調査によると、このご遺体は300年以上前のものである可能性が高そうです」
それを聞いて法医の中島さんが驚いて、
「300年前? 褐色の方はその可能性が高そうですが、この白骨はそんな古いものではないですよ」
「そこなんですよ。問題は。本当は、このお骨の年代調査をお願いしたかったんですが、このお骨、触れると呪われる可能性がありまして」
検視官と法医の二人は、頭に大きな「?」マークを浮かべたような顔をした。
「は? 呪い?」
検視官の飯尾さんはまるで信じていないといった風な顔をして言った。
それに対して香川さんは頭をポリポリとかきながら、
「いやあ、私もお化けや幽霊の類は信じない質ですがね、こればかりは信じざるを得ないと言いますか、可能性はゼロではないように感じていまして」
検視官の飯尾さんは、鼻で笑った。
「呪いなんてものがあったら、この世の未解決事件は無くなりますよ。私は呪いなんて信じていないので大丈夫ですよ。触りましょうか?」
香川さんと松井さんは「いやいやいや」と止めに入ったが、飯尾さんは白骨死体の横にしゃがみこんだ。そして、再び合掌をして、抱いている褐色の骨をどかそうとした時だった。
オレの耳元で、ギーーーーーーーーーーーーーーーーーー!というオルダの叫び声が聞こえた。畑谷にも聞こえたらしく、畑谷が慌てて両耳を押さえた。
それとほぼ同時に、飯尾さんが「ワア!」と驚いて、後ろにひっくり返った。
香川さんと松井さんは飯尾さんに駆け寄った。
「どうされました?」
飯尾さんは目を見開いている。
「骨に触れようとしたとき、その白骨死体に睨まれたような気がして。目がないのに…」
飯尾さんの息が少し荒くなっている。
法医の中島さんは「呪い…?」と少し動揺している。
「今、同じタイミングで、オルダの鳴き声が聞こえたっす」
畑谷が香川さんに言うと、香川さんは人差し指の甲を口の下に持っていった。
「こちらの大きい褐色のお骨のみ回収にしましょうかねえ」
香川さんはそう言った。
「こちらの千代と子も調べたいですが…」
法医の中島さんが「千代と子?」と聞いてきた。
それに反応して、香川さんが続けた。
「こちらの抱いている方のお骨が千代、抱かれている方の白骨がその子どもの可能性がありまして。ともに300年以上前にこの村にいたとされる人物です」
法医の中島さんは理解が追い付かないと言った風に首を傾げた。
「いや、持ち帰りましょう」
飯尾さんが言った。
「白骨に触れず、かつ、この状態を維持したまま運べばいいわけですよね。今回やめたとしても、一度空気に触れてしまった骨は乾燥して崩れる可能性があります」
飯尾さんは同行した検視官たちに、
「ウレタンフォームあるか?」
「車に戻れば」
「持ってきてくれ、周辺の土ごと包むぞ」
「分かりました」
検視官二人ほどが慌てて来た道を戻っていく。
「私も道案内役として付いていきます」
松井さんが検視官の後を追っていった。
飯尾さんは立ち上がり、香川さんに言った。
「私は呪いは信じちゃいない。ただ、危険性があるのならば、どういう危険があるのか、情報共有いただけますか?」
香川さんは頭をポリポリとかいて、
「それを今、この専門家のお二人が調査中なんですがね、このお骨に触れると、もしかしたらですが、虫が体に入り込む危険性が…」
香川さんは、検視官たちと法医の中島さんに、オレが伝えた鬼虎の話と、この村の寺の話、そしてオルダの存在について話した。
その後、香川さんの振りにより、オレは検視官たちと法医の中島さんにオルダを披露した。
彼らはオルダを見て予想通りに驚いてくれた。
「この虫が、あの白骨に触れると体に入り込む可能性がある、ということですね」
法医の中島さんが言った。
「あくまで可能性で、本当にそうかどうかはわかりませんが…」
オレは徐々に居心地の悪さを感じながらも、申し訳なさげに答えた。




