39.湧水の中
オレたちは、ホームセンターで購入したシャベルやスコップを持って、笹嶺神社の森の奥へと進んでいった。
オレの後をついてきながら、香川さんが言った。
「よくもまあ、こんな森の奥に入ろうと思いましたな」
松井さんは同意するように深く頷いている。
黙々と進んでいき、オルダが鳴き始めたところで、オレと畑谷は耳栓を装着した。
「ここから先、話に反応しないこともありますが、ご了承ください」
刑事たちに事前に伝えていたが、再度お願いした。
「このボリュームは聞こえますか?」
香川さんの声はこもっていたが、一応
聞こえている。
「はい、大丈夫です」
オレたちは更に進んでいき、紅葉の大木がある湧水に到着した。
「鬼虎の話が本当なら、そこの湧水に鬼虎と千代と千代の子が埋められているということですな。300年前だと土に還ってる可能性は高そうですが、まあ確かめましょう」
オレと畑谷が少し不安そうな顔をしていたらしい。
「異変を感じたら、すぐに離脱してくださいね」
香川さんが言った。
刑事の2人が大きなショベルで湧水の隣をザクザク掘っていき、オレと畑谷は小さなスコップで湧水の周辺を用心深く掘って行った。
しばらくして松井さんの踏み込んだショベルがカッという音を立てた。
「何か当たりました」
松井さんは慎重にショベルを動かしながら降り進めた。
一緒に掘っていた香川さんが動きを止めて言った。
「骨だ」
そこには人の足のものと考える黒褐色の人骨が現れた。
「鬼虎の話の真実味が増したようですな」
香川さんがオレに向かって言った。
オレはふと思った。
「確かめていいですか?」
オレはペンダントを外して、オルダを骨に付けた。しかし、鳴き声は止まなかった。
「どうっすか?」
畑谷の質問に対して、首を横に振った。
「もう少し掘り進めましょうかね」
香川さんの合図で、オレたちは更に掘っていった。
足の骨の周辺を掘り進めて行くと、骨の人物の全身が現れた。
「大きいですね。骨太の男性な気がしますね。鬼虎かもしれないですね」
松井さんが言うと、香川さんは人差し指の甲を口の下に当てた。
「この横を掘りましょう。このお骨と平行に、湧水のあたりを」
刑事二人がメインに掘り、オレと畑谷は二人の邪魔をしないように隙間を掘っていった。
少しして松井さんのショベルが再びカッと鳴り、一同は一度手を止めた。
「何かに当たりました」
「慎重に掘っていくぞ」
徐々土を掻き出していく。やがて、細めの黒褐色の骨が現れた。その周辺を慎重に掘り進めていくと、二人分の骨と思われる姿が現れた。
一人の頭部はちょうど湧水があった場所の真下にあった。頭部の付近から水がちょろちょろと出ている。その人物に抱かれるような形でもう一人の骨が横たわっていた。
それを見て、オレたちは同じことを思ったと思う。香川さんがオレの気持ちを口にした。
「どういうことだ?」
抱いている方の人骨は、先に出てきた骨と同じ黒褐色をしている。最初に見えた骨はこちらの人物のものであったようだ。
しかし、この骨に抱かれていたと思われる骨の方は真っ白であった。
「まるで最近の骨のようだが、人なのだろうか…」
香川さんは言った。
真っ白の骨は、人の姿に限りなく似ている。しかし、一か所おかしな部分があった。後頭部のあたりが異常に長いのだ。そして、その後頭部には黒い染みが見えた。
「オルダかもしれません」
オレはペンダントを再び外し、オルダを白い骨に付けようとした。その時、オルダが今まで聞いたこともないような大声で鳴いた。オレは思わず手を止めた。
「どうしたんすか?」
畑谷が心配そうに聞いてきた。
「挨拶しないほうが良さそうだ。オルダが挨拶を拒絶した。こんなことは初めてだ」
答えた瞬間、突如寒気と吐き気が襲ってきた。
オレは、その場を離れ、木の陰に走り、しゃがみこんだ。心臓がバクバク言っている。
畑谷と刑事2人がオレの元に走ってきた。
「大丈夫ですか?」
「すみません。急に寒気と吐き気が」
香川さんは人差し指の甲を再び口の下に当てた。
「一旦中断しましょう。300年前の事件は我々の管轄外ですが、白い骨が出てしまった以上、法医に回す必要があります」
オレたちは骨の方向に向かって手を合わせ、その場を後にし、携帯の電波が届く村役場のあたりまで戻ることにした。




