32.紅葉の木
永福寺を出て車に戻ると、畑谷が少し興奮気味に言った。
「星影神社が繋がりましたね!」
「そうだな」
「あの神社の人、明らかに怪しかったっすもんね! なんだか俺、探偵の気分っす」
オレは窓の外を見た。少し陽が傾いているが、まだ間に合うか。
「紅葉確かめに行こうか」
「笹嶺神社っすね。行ってみたいっす」
「陽が落ちる前に行かないと遭難するかもしれねぇから、早く行かないと」
「そんなとこなんすか!?」
「目玉にも気をつけねぇと」
畑谷はゴクリと唾を飲み、一転緊張した顔になった。
車を走らせて1〜2分で笹嶺神社に到着した。やはり歩くより車が楽だ。畑谷が偶然現れて、かつ、畑谷が軽い奴で助かった。
車を降り、笹嶺神社の鳥居の前に立った畑谷は言った。
「想像以上に森っすね」
オレたちは奥へと進んでいった。
ひっそり佇む社が現れる。
「これが鬼虎が立て籠った社か。でも、これ60年くらい前に建て直されて、何度か修繕されてる感じっすね」
畑谷が社を観察しながら言った。
「何度か修繕?」
「ほら、屋根なんかは完全に近年のものじゃないっすか。銅板葺きっすし。古いものなら茅葺きとか、柿葺きとかじゃないっすか?」
「たしかに」
「ここに使われている梁はかなり古いものだと思うっすけど、それ以外の柱とかは昭和にはいってからの物のように思うっす。土壁も定期的に塗り直されてますしね」
「畑谷くん、こういうの詳しいの?」
「いや、詳しくはないっすけど、遺品整理とかで古民家系はちょこちょこ行くんすよ。で、その度にこの家は50年前のものだとか、100年前のものだとか、天保年間に建てられたのものだとか、そういう説明を毎回聞くんすよ。遺族は、だからこの家の骨董には価値があるという期待をしてるんすけど…実際価値ある品は少なくて。まあ、そうやって訪れていくうちに、家の大体の古さは分かるようになって」
「なるほど。星影神社がこまめに修繕してんのかもな」
オレたちは、昨日見つけた湧水へ向かうことにした。
「よくこんな奥に入っていこうと思いましたね」
畑谷がガサッという音にビビりながらオレの後をついてきている。
「オルダ探しは、もっと危ないところも行くぞ」
「マジっすか!?」
「滅多に無いけど」
「なんだよー」
昨日の湧水に到着した。
「紅葉なくないっすか?」
畑谷が周囲を確認しながら言った。
確かに全てデコボコした木肌のどんぐり系の木といった感じで、紅葉のようなツルっとした木は確認できない。
「300年以上前に植えられたなら、相当な大木っすよね」
確かにそうだ。紅葉の木がどれというよりも、目立った大木となっているはずである。そんな大木見つからない。
「ここじゃなさそうっすね」
畑谷はそう言って、目を閉じて、手を当てて耳をそばたてる仕草をした。
「何してんだ?」
「他に水の音聞こえないかなーって」
「手前の音が邪魔で聞こえねえよ。歩いた方が早い」
陽の傾きを気にしつつも、オレたちはどんぐりで目印を残しながら奥へと進んでいった。
「オルダ!」
畑谷が言った。
同じタイミングでオレのオルダも鳴き始めた。
「いるな」
オレたちはオルダの声が強まる方向へと歩き出した。
オルダの声はどんどん強くなっていく。
「あ、紅葉」
畑谷が指差した先に、緑色の中に所々紅色の葉を纏った紅葉の大木があった。オルダの声によって消されていたが、紅葉の大木の手前に湧水も存在していた。
「ここだ」
畑谷は頷いて言った。
「早く挨拶させましょ」
しかし、オレは止めた。
「いや、やめておこう」
「何でっすか、俺耐えられないっす」
「場所は分かったんだ。一旦帰ろう。もう少し調査をした方がいい」
「ああ、そっか。千代の呪いがあるかもしれないっすもんね」
畑谷は湧水に向かって「成仏してください」と手を合わせた。
しかし、オレは千代の呪いが怖いから止めたわけではなかった。ただ、オルダの居場所がわからなかったのだ。
目に見える範囲でオルダが住んでいそうなものは見えなかった。石があるわけでもなく、紅葉の木というわけでもない。湧水の辺りにオルダが居そうなのは間違いない。見つけるには、あの辺りを掘るしかない。五十嵐は掘ったのだろうか? 3ヶ月前とはいえ、その形跡はない。
オレは、「これでもしとけ」と予備の耳栓を畑谷に渡した。オレは既に装着済みである。
「こんなんあったなら、早く渡してくださいよ」
畑谷は早速耳に装着した。
少し会話がし難いが仕方ない。
「とりあえず帰って、明日また来よう」
オレたちは、陽が落ちないうちに、と足早にその場を立ち去った。




