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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
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22.オルダを知る男

 診療所の中は、古い小学校のような、古い病院のような、鉄筋コンクリート製というのを実感する昭和の時代にタイムスリップしたような造りだった。

 俺は、男に言われるままスリッパに履き替え、受付と待合所の前を通り過ぎ、診療所への二階へと向かった。それに伴い、ギーーーーーーーーーーーという耳鳴りが強くなっていく。

 男は、二階の廊下の突き当たりにある部屋に俺を入れた。そこには、点滴を繋がれた痩せ細った若い男が眠っていた。左目に比べ、右目の辺りがかなり窪んでいるように見える。

 俺が戸惑っている間、男はベッド脇の棚からカバンを引き出し、中から何かを取り出した。


「これにノートを付けて」


 男は俺にそれを差し出した。それは石だった。小さく丸く加工されている石と、すごし角ばった石が二つあった。

 俺は慌てて石にノートを付けた。その瞬間、ギーーーーーーーーーという男はスッと消えた。俺はホッと一呼吸ついた。


「そのノート、どうなってるんだ?」


 男は不思議そうにノートを見ている。


「あんた、そのノートとどうやって契約したんだ?」

「契約?」

「契約したんだろう?」

「契約って?」

「オルダは、契約して初めてオルダの鳴き声が聞こえるようになるんだよ」

「これ、オルダっていう虫の鳴き声だったんですか?」

「それすら知らないのか?」


 なぜか怒られているように感じてしまって、思わず「すみません」と謝ってしまった。


「ノートはあんたのものじゃないのか?」


 俺は小さく頷いた。


「どういう経緯で手に入れたんだ?」

「いや…。俺、リサイクルショップ経営してて、遺品整理的な感じで行った先で回収した古本の中に偶然紛れ込んでいたというか」

「遺品整理? そのノート見せてくれないか?」


 俺は素直にノートを渡した。

 男はペラペラと捲っていき、例の家系図のようなページで動きを止めた。「鬼虎…」と呟いた。


「このページを見て、この村に来ようと思ったと?」

「はい。そのノート気持ち悪くて、どこにしまっても、気づけば俺のそばに何故かあって。耳鳴りがするようになったタイミングと、そのノートを手にした時期が同じだったんで、原因はきっとこの気持ち悪いノートだろうと思って」

「聞いていいか?」

「はい」

「その遺品整理に行った先って、稲塾大学の岡田教授の家だったりするか?」


 なぜ知っているんだ?と驚いた顔で男を見てしまった。


「やはりそうなのか…。ということは、これがあのノートか…」

「亡くなった人のことご存じなんですか?」

「直接は知らないんだが、俺もつい最近教授のことを知って、このノートのことも耳にしてた。……完全に処分されたわけではなかったんだな」

「俺はいつ契約したんですか?」

「知らねぇよ」

「契約はどうやってするんすか」

「自分の血をオルダに吸わせるんだ」


 ふと思い当たる節があった。初めてこのノートに触れた時、ノートの端でほんの少し指を切った。きっとあの時だ。俺は無意識に男に詰め寄った。


「どうしたらこのノートと縁を切れますか?」


 男は少しばかり後ずさった。


「知らねぇよ。一度契約したら一生だろ」

「まじっすか。俺は一生このノートを持ち歩かなければならないということっすか」

「だと思うけど?」

「そんな…」

「ただ、さっき見た通り、オルダ同士に挨拶させれば音は止むから、何とかなると思うけどな」

「挨拶?」

「オルダは、知らないオルダが自分の領域に入ると、警戒心からか鳴き出すんだよ。それがお前が聞こえていたギーーーーーーーーーーーーっていう声だ」

「耳鳴りじゃなかったんすか。じゃあ、ギーーーーーーーーーという声が聞こえるということは、そのノートのほかにオルダがいるということっすか?」

「そういうことになる」

「ってことは、俺の店にオルダがいるということっすか?」

「店でギーーーーーーー―という声を聴いてたのか?」

「自宅の1階が店になってて、毎日毎日24時間ずーっと聞こえてたんすよ。店の中の方が強く聞こえていた気がします」

「なら、あんたの店の商品のどこかにオルダがいたんだろうな」


 俺は店の商品で心当たりのあるものを思い出そうとしたが、パッと思い浮かばない。


「基本的には、オルダはヒスイに住む」


 男は先ほどの石を見せて言った。

 商品の中でヒスイと思われるものは限られる。帰ったら、片っ端からノートを付けていって、オルダの声が聞こえなくなった商品が、オルダが住んでいるものということになる。

 男は再びノートを開き、1ページごとに擦っている。そして、何ページかめくったところで、「こいつか」と言った。

 ノートを覗くと、絵に描かれたような虫が動いていた。


「ノートにオルダがいるなんて信じられん」


 男はオルダを見つめながら、唖然とした様子だった。


「あんた、外に停まってる軽ワゴンで来たのか?」


 突然、話が飛んだ。

 俺は勢いで「はい」と答えた。


「今日、このあと暇か?」

「暇というか、原因が分かったので、店に帰ろうかと。片道4時間ぶっ通しで走ってきたので、少しは休みたいですが」

「オルダのこと、もっと詳しく知りたいと思わないか? 例えば、オルダがどうやって生まれているのかとか。もしかしたら、オルダと契約を切る方法も分かるかもしれない」


 オルダと契約を切る方法は確かに知りたい。


「今日、オレに付き合わない?」


 まるでナンパでもされたような気になった。興味が無いと言えば嘘になる。俺は思わず答えてしまった。


「いいですよ」

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