17.アザ
お婆さんの話に岡田教授が食いついた話は、オレの立場からすると十分に理解できた。
「鬼虎の他に、もじゃもじゃの男や笹嶺神社で倒れていた男が興味を示した話はありましたか?」
お婆さんは怪訝そうにオレを見る。
「おまんは警察か?」
「いや…。ただ、なぜ五十嵐、笹嶺神社で倒れていた男の知人なので、なぜ彼があの神社で倒れていたのかを知りたくて。お婆さんは、笹嶺神社で倒れていた男に鬼虎以外の話をしましたか?」
お婆さんは思い出すように空を見上げた。
「んー、思い出せんけぇ」
「そうですか…。では、お尋ねしたいのですが、この村の寺に共通してあるものとかありますか? 例えば、千代さんあるいは鬼虎の子の遺品であるとか」
お婆さんは「あぁ」と思い出すように言った。
「もじゃもじゃ男も似たようなことを聞いてきた。それを笹嶺神社で倒れていた男に伝えたさよぉ」
「! それを教えてください」
「大したことじゃねえけぇ。呪いをかけられた村人の手の甲にアザが現れたっつぅ話さよぉ」
「アザ?」
「村人の手の甲に黒いアザが現れたんだが、それはたまに消えて、また現れる。その繰り返しだったっつぅ話さよぉ」
それはまるでオルダである。
「そのアザは子供や孫にも現れたのですか」
「それは分からねえぇ」
「お婆さんには?」
「ないよぉ。でも、黙光寺には、アザが移った跡があるって話を聞いたことがあるよ。見たことはないけども」
「アザが移った跡?」
「黙光寺は、手水舎で手を清めたら手のアザが消えて、アザが水盤に移ったというよぉ。その話を聞いて村人たちはの寺で同じことをしたが、アザは消えなかったという話さよぉ」
オレは、地図で黙光寺の場所を確認した。往路で使った道にはなく、今いるルートにもない。オレが地図を睨んでいると、お婆さんが指し示した。
「黙光寺はここよ」
お婆さんが指した場所には、『保育所』とあった。
「保育所?」
「黙光寺は保育所をやっとるのよ」
その保育所は、今いるルートと往路を繋ぐ道の途中にあった。
オレは黙光寺を向かうことにした。お婆さんに礼を言い、万福寺を出て、ガラガラとスーツケースを引きながら田舎道を再び歩き出した。
10分ほどするとギーーーーーというオルダの鳴き声が聞こえてきた。いる。そう思った。徐々に鳴き声が大きくなり耳が痛くなったところで黙光寺に到着した。
保育所は境内に入ってすぐの右手にあった。小さな平屋建ての保育所の中には人がいるようで明かりがついていた。子供が少なそうな村であるが、保育所の経営は成り立っているようだ。保育所を早々に通り過ぎ、オルダの鳴き声がする方へと進んでいく。
その泣き声は、確かに存在した。オレの目の前には手水舎が現れた。石造りの水盤に柄杓が2本添えられている。オレはペンダントを外し、水盤の外側に当てた。しかし、オルダの鳴き声は止まない。どういうことだ。確かにここから聞こえる。集中してオルダの鳴き声が聞こえる場所を絞る。それは水盤ではなく、亀をかたどった水口の土台から聞こえるようだった。オレは土台にペンダントを当てるとオルダの共鳴が止んだ。
「ふう」と息をついた。
土台はオルダが好んで住んでいる薄緑色のヒスイでできていた。姿は見えないが、この土台にオルダが住んでいるのは間違いない。そして他に鳴き声が聞こえないことから、他にオルダはいないのだろう。寺の人から話を聞きたかったが、あの保育所以外に人の気配がない。裏側に住職が住んでいそうな一軒家が存在している。オレは、インターフォンを鳴らすことにした。




