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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
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11.診療所

 村役場の初老の女性は大川と名乗った。

 オレは、大川さんが運転する軽ワゴンに乗り、村の診療所へと向かった。徐々にギーーーーーーというオルダの鳴き声が強くなってきた。診療所に到着して理由が分かった。村に入った時に聞こえたオルダの鳴き声の主は、道沿いの小さな祠だと予想したが、その後ろの診療所だったのだ。オレは片耳だけ耳栓をした。

 二階建ての鉄筋コンクリート造りの老朽化した診療所。入口の扉が曇りガラス製で、ドアを開けると緑色の使い古したスリッパに履き替えるスタイルになっていて、所々に壁のひび割れ、昔ポスターか何かを貼っていただろう名残のガムテープの跡、まるでタイムスリップしたような雰囲気が漂っていて、診療所の主が老人であることを想像させた。


「先生、男性の知り合いという方をお連れしました」


 大川さんが声を出すと、カーテンで仕切られた個室の奥から、オレと近い年齢と思われる男が顔を出した。ノーフレームのメガネに、少し天然パーマの入ったふんわりとした髪、少し垂れ目で物腰の柔らかそうな印象を受けた。老人が出てくるものだと思っていたので、面食らった。


「大川さん、お待ちしておりました。その方が男性の知り合い?」


 この診療所の医者と思われる男性は、オレを一瞥した。

 オレは思わず会釈した。


「2階になります。どうぞ」


 医者は薄暗い階段を昇っていく。大川さんとオレは後をついていく。2階には、いくつかの部屋があるようだった。

 オルダの鳴き声が一層強くなり、オレは耳栓をしていない方の耳を思わず覆った。

 医者は廊下の一番奥にある部屋の前に立って、「こちらです」と扉を開けた。

 自然光が差し込んだ部屋は4畳半ほどだろうか。中央にあるベッドが部屋の大部分を占拠している。そのベッドに五十嵐は横たわっていた。腕には点滴が付けられており、役場で見た写真よりもかなりやせ細っているが、自発呼吸はしているようだった。右目のあざは薄くなっているようだ。しかし、その分右目の違和感が強く出ていた。


「右目…」


 オレは思わず呟いた。

 医者は、オレの反応に気づき、口を開いた。


「この方の右目、先天性のものではないということですか?」


 医者の方を見ると、医者はオレを真っすぐ見ていた。しかし、オレは答えなかった。正確には答えられなかった。オルダの鳴き声に耐え切れなくなったからだ。


「すみません、その前に、この人が持っていた石、どこにあります?」

「石? ああ、あれのことかな」


 医者は、ベッド横の小さな棚から、五十嵐のものと思われるカバンを取り出し、脇ポケットから薄緑色の石を取り出した。


「それです!」


 オレはペンダントを外しながら医者に近づき、ペンダントトップの白い石と、医者の持つ薄緑色の石を重ねた。ギーーーーーーという鳴き声は少し弱まったものの、まだ残っている。


「す、すみません、他にもありますか?」

「え? あ、じゃあ、このカバン」


 医者はオレに五十嵐のカバンを差し出した。オレは慌ててカバンの中を漁り、クッション材に包まれた緑色の石を取り出し、ペンダントトップを重ねた。オルダの鳴き声が治まり、オレはホッと一息ついた。

 一部始終を見ていた医者と大川さんは怪訝そうな顔でオレを見つめていた。


「失礼しました。個人的な事情がありまして。こいつの目のことですよね。最後に会った時には、こんなにくぼんでなかったです。目をどこかにぶつけたんですか?」


 医者は言いにくそうな表情をした。


「彼が見つかった時、右の目玉がなくなっていて…」

「目玉が無くなっていた?」


 五十嵐の右目の違和感は、眼球の丸みが無いことから来たものだと分かった。


「当初、目の周りのアザがひどかったものだから、警察は目玉をえぐり取られたのではないかと」

「目玉をえぐり取られた?」


 医者は、手を横に振り、


「ただ、彼から血が流れた様子が無くて、えぐり取られたとしたら血が流れるはずなので、それも奇妙で。もしかしたら先天性の無眼球症など何らかの事情で人工の水晶体を入れていて、何かがぶつかった弾みで外れてしまった可能性も考えられ」

「義眼ということですか?」

「その可能性もゼロではないかと」


 オレは、五十嵐とすれ違った時の様子を思い出そうとした。彼はすれ違いざま、『近いうちにアンタ抜くから』とオレを横目で見ていた気がする。


「彼をよく知らなくて、ただ同じ場所に出入りしていた同業者というだけで。だから、義眼かどうか正確には分かりませんが、違ったように思います」


 医者は、「そうですか」と悩まし気に言った。

 オレは朱里さんの言葉を思い出した。岡田教授の目玉が溶けたという話だ。


「目玉が溶けて無くなったという可能性ありますか?」


 医者は驚いた顔をした。そして首を横に振った。


「さすがにそれはないでしょう。何故溶けたと思ったんですか?」

「いや…、目玉が溶けたって話を、最近どこかで聞いたような気がして」


 医者と大川さんは怪訝そうな顔で再びオレを見た。


「いや、記憶違いかもしれないです」


 オレは「ははは」と笑ってごまかした。

 トントンと入口が鳴った。

 そこには医者と同年代風の女性看護師が立っていた。


「警官さんがお見えです」


 看護師の後ろから、いかにも交番から来ましたという風の警察官が現れた。


「先生、その人ですか」

「はい」

「少々お話お伺いしてもよろしいですか?」


 警察官はオレを見つめて言った。


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