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ORDA オルダ~蟲の住む石~  作者: ふじしー
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12.待合室

 診療所の待合室。背もたれのない長椅子が左右に2台ずつ並んでいる。現在診療時間外のため、座っているのはオレと、オレの隣に大川さん、オレの正面に警察官と医者だけである。


「つまり、ただの顔見知りということでよろしいですか?」


 警察官はオレに向かって言った。


「はい、その通りです」

「名前も苗字しか分からない?」

「はい…。すみません、お役に立てなくて」


 警察官は訝しげに聞いてきた。


「では、なぜ彼がここにいると思ったのですか?」

「それは…あの…同業者ならではの事情と言いますか…」


 オレが言葉に詰まると、医者が思い出したように言った。


「先ほどの石ですか?」


 警察官はオレが答えるよりも先に医者に訊いた。


「先生、石とは何ですか?」


 医者は、オレの気まずそうな視線を意に介せず、オレが五十嵐の手荷物に石があることを知っていたこと、その五十嵐の石と、オレの持っていた石を慌てた様子で合わせたことを警察官に伝えた。

 警察官は再び訝しげにオレを見た。


「その石を見せてください」


 オレは仕方なくペンダントを外して、警察官に渡した。

 警察官は石を表から裏までじっくりと観察している。医者はそれを横から観察している。幸いオルダは眠っているようで表には現れなかった。


「ただの石のように見えますが、これは何か特別な石かなにかですか?」


 警察官はペンダントを観察しながら訊いてきた。


「一部の人にとっては貴重な石かもしれませんね」

「一部の人?」

「例えば海辺に落ちてる流木も、多くの人にとってはただの流木ですが、流木コレクターにとってみれば何万、何十万もの価値がある、みたいなものです」


 警察官、医者、大川さんは揃って「あ~」と納得したような声を出した。しかし、医者だけは疑問が残ったようで、


「男性の石と合わせた理由は何ですか?」


 なかなか言い逃れが難しい質問を投げてきた。

 オレは回答に迷い、苦し紛れの嘘をついてみた。


「なんというか磁力的な…石同士が反発しあう的な…それによってちょっと頭痛がして…低気圧がやってきた…みたいな」


 医者は目を輝かせてオレに詰め寄った。


「それは聞いたことがない事例ですね。この石は周囲に影響を与えるということですか。論文があれば読んでみたいです」

「論文は…どうでしょう。少し前に検索したことがありますが、全く出てこなかったです」


 医者は残念そうに「そうですか…」と席に戻った。

 3人の反応を見て、オレは逆に質問したくなった。


「逆にお伺いしたいのですが、この石を知らないということですか?」


 3人とも同時に「全く」「知らない」「見たことないです」と答えた。


「そうなんですか…」


 オレが残念そうにすると、警察官が、


「上の男性、五十嵐さんも、その石を探しにこの村に来たと?」

「おそらくそう思います」

「で、オタクも石を探しにこの村に来て、運んでくれたタクシー運転手に五十嵐さんを乗せたことを聞いて、村役場で確認してみたということですか」

「そういうことになります」

「この村に石があると言う話は誰から?」


 オークション会場やマスターのことは口外できない。オレは慌てて嘘を見繕った。


「えっと…同業者の中での噂話的な…」

「つまり、この石を探すために他にも来ている可能性がある?」

「かもしれないです」


 ここで大川さんが口を開いた。


「確かに、この村の人間ではない人をたまに見ることはありますよね。ほら、五十嵐さんが倒れていたときも、他に見たことない人がいたとか、いないとか、そんな話になりましたよね」


 警察官は頷いた。


「そうでしたな。結局目撃証言は時期がずれてて、当てにならなかったけども」


 警察官はオレにペンダントを返してきた。


「ありがとうございました。本署と連絡を取った後、再度お話をお伺いすることもあるかと思いますが、その時はよろしくお願いしますね」

「分かりました。オレも知人に五十嵐の情報を聞いてみます。ただ、ここ電波が届かないんですよね」


 オレは携帯を取り出して電波を確認したが、やはり届いていないようだった。


「WiFiならありますけど、使います?」


 医者が軽く言った。


「え?」

「ネットが繋がらないと仕事にならないので、回線は引いてるんですよ。電波も村役場の周辺だったらキャッチできますよ」

「マジ?」

「はい、マジです。パスワードをメモってくるので、少しお待ちください」


 医者は足早に診察室に入っていった。

 大川さんは妙に誇ったような顔で言った。


「この山間の村でも電波が届く場所はあるんです」


 オレは思わず作り笑いを返した。

 間もなく医者は戻ってきて、オレに一枚のメモを渡した。


「ネットワークでBaffarateとなってるとなってるものです」


 オレはWifiの設定を確認した。確かに唯一のネットワークとして「baffarate」という文字が見つかった。医者から貰ったメモにあるパスワードを入れると、Wifiに繋がり、思わず「おお!」と感嘆の声を出してしまった。


「これで連絡が取れますね」


 医者は笑顔で言った。


「五十嵐さんのご家族の連絡先が分かりましたらお知らせください」


 警察官が言った。


「わ、分かりました」


 オレは取り急ぎ朱里さんに五十嵐が見つかったこと、そして五十嵐が寝たきりの状態のため五十嵐の家族の連絡先が欲しいとのメッセージを送った。

 大川さんが突然パンと手をたたいた。


「ちょうどお昼ですし、村唯一の食堂に案内しますよ」


 携帯に表示された時間を確認すると12時半を回ったところだった。


「オレもご一緒しようかな。午後の診察は14時からですし」


 医者は言った。


「申し訳ない。私は交番に戻って本署に連絡しておきます」


 警察官は言った。

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