心をノックする声
…………過去回想を終えた私は、ハーッと大きなため息をつく。
「……結局のところ、私は楽しんじゃいけない人間だったんだ……人を見る目もなく、無計画に生きてた奴に、人生を楽しむ資格はない……いい勉強になったよ……来世からは気をつけるよ…………」
(さよなら。先生、みんな……今までありがとう。こんな私で、ごめんね……)
口で卑屈な言葉を吐き、心でそう言う私の目から涙が零れ落ちる。
落ちた涙は床を濡らさず、スーッと消えていく。幽霊だからか……てことは、私もこんな風に……けど、仕方ないよね……? だって、私は…………
そう思い、運命を受け入れかけた私の耳に、部屋のドアを激しくノックする音が聞こえた。もしかして……
「お姉ちゃん! 返事してっ! お姉ちゃんっ!」
「レミ……」
いや、レミだけじゃない。あの扉の向こうには、みんなもいる。
「ゆかりっ! 早まんな! ここにいる奴は、誰もお前を責めたりしない! 悪いのは全部俺だ! 考えなしにあんなこと言ってすまねぇ!」
翔馬……でも……
「ゆかり、あんたは悪くないよ。それなのに、自分のせいだと思い込んで消えるなんて、あんまりだよ! あんたみたいな明るくて優しい太陽みたいな奴がいなくなるなんて、私……嫌だよっ!」
太陽って……言いすぎだよ千尋。それに、私なんかいなくたって……
「千尋先生の言うとおりだ。それに、岸川さんがいなかったら、今の僕はいない。2年前、家の事情もあって、学校に馴染めず孤立していた僕の初めての友達になってくれたのは岸川さんだ! 君がいなかったら、僕はずっと孤独なままだった!」
「私もっ! ゆかりがいなかったら、オーグ達にいじめられ続けて、殺されてたかもしれない! ゆかりがあの時助けてくれたから、私は今もこうして、生きていられるの!」
…………違う…………
「あたしなんて、ゆかりがいなかったら万引き犯として逮捕されてたよ。そうなったら、アイドルなんて続けてらんないし、素の自分を見失ってた」
「岸川先輩。私はあなたのおかげで、心について知れました。それはおそらく、あなた無しでは到底辿り着けなかった事実だと思います」
……違う……
「私が石化能力を制御できるようになり、瓢介さんに想いを伝えることができたのは、全て先輩達のおかげです」
「俺もだ! お前がいなかったら、俺は甲子園に行くことも、アクアに告白することもできなかった! それどころか、ヘタすりゃ野球人生そのものが終わってたかもしれねぇ! 俺もアクアも、お前には返しきれねぇほどの恩があるんだっ!」
違う……!
「ゆかりさんがあの時助けに来てくれなかったら、私はまた、怖い人達のところに連れ戻されてた。私をあそこから救ってくれたのは、ゆかりさんだよ!」
「そうよ! ゆかり、私も……!」
「俺も……!」
コウメイや幸達の説得に続く形で、アクア達も私に向かって必死に訴えかけてくる。
その暖かくも優しい言葉をシャットアウトするように、私は必死に耳を塞いだ。
(違う……違う違う。違うっ! 私がいなくても、みんな自力でなんとかできた! 今のみんながあるのは、それぞれが頑張った結果であって、私は何もしていないっ!)
私は心の中でそう否定するけど、先生達は構わず説得を続ける。
「……ゆかり、これが君が3年間で築き上げてきた友情だ。君は今まで、友達としてみんなを支え、絆を深めていった。だけど、それだけじゃ不十分だ。真の友情とは、互いに支え合うもの。一方的に支えてるだけじゃ、それは友情とはいえない。だからこそ彼らは、それを果たすためにここにいる」
「岸川さん。今まで支えてくれた分、今度は僕らが君を支える! 辛い時も苦しい時も、僕らが支え、君の心を癒やしてあげる! だから岸川さん……」
「だからゆかり……」
「だから先輩……」
「勇気を出して、出てこーいっ!」
みんなの熱くて力強い言葉が、私の閉ざされた心の扉をノックする。だからこそ、すごく辛い。
(みんな……お願い……もうやめて……! そんな言葉をかけられる資格なんて、私にはないよ! 私はただ、みんなを一方的に支えてただけ。友達ごっこをしてただけ。そんなことすらわかってなかったバカな私に、先生の言うような友達なんてっ……!)
そう心で言いながら、私は頑なに友情を拒絶し続けた。みんないい奴すぎて、私にはみんなと友達になるなんて、もったいなさすぎるぐらいだから。
でも……なんで? なんでこんなに、心が痛くて、苦しいの?




