浮遊霊から地縛霊へ
私が白血病になったのは、小学校6年の冬のこと。ソフトボールの試合中にマウンドで突然倒れたことで発覚したの。
そっからのことや心境は、前にも話したことがあるから知ってるとは思うけど、入院生活が退屈しなくて済んだのは、見舞いに来てくれた翔馬達や恋を始めとする翔馬の恋人連中。
それと……
「ゆかりーん。見舞いにきたよ~……ふにゃっ!」
と、毎度のごとくコケる幼馴染み、猫宮柚の存在がデカい。
特に柚はよく来てくれてね。ドジで天然なとこやちょっとエッチなとこはあるけど、一緒にいてあそこまで楽しくて気が合う奴は、後にも先にもあいつしかいない。
だからこそ、あの話は信じられなかった。西暦2007年3月。卒業式が近付いたある日、翔馬から柚が殺されたと知らされた。
青天の霹靂のような話に、私は愕然とし、何度も翔馬に本当のことを話すよう求めたけど、翔馬から返ってきたのは『殺し屋と犯罪組織の抗争に巻き込まれた。それ以上のことは言えない』の一点張り。最後まで返答が変わることはなかった。
(なんで? なんで柚が!? そりゃ、あいつは確かに、ドジで天然だからよく人に怒られてたけどさ! 優しくていい奴だよ!? なのに、なんであいつが、私より先に死ななきゃならなかったのっ!?)
親友の死を理解できなかった私は、その日、涙が枯れるまで朝まで泣き続けた。
そして翌朝、柚を殺した奴らに対して、私は生まれて初めて憎悪の念を抱いた。
けど結局、私の憎しみが晴らされることはなかった。それから半年後に、私もめでたくご臨終して、浮遊霊デビューしたから。
今思うと、私が誰よりも青春を謳歌し、楽しく生きたいと思ったのは、私個人の未練だけじゃなく、柚の分まで楽しもうって想いがあったからかもしれない。
そういうこともあり、私はレミが結婚するまでの間は日本を、それ以降は世界中を旅して回り、これでもかっていうぐらい浮遊霊ライフを満喫した。
そうしてく内に、私の中で『柚のため』っていう大義名分は徐々に消えていき、ヨーロッパで優雅に過ごしてた頃には、もう自分が楽しむことしか考えてなかった。
だからかな? そのツケがあの時、回ってきたんだと思う。
今から104年前の西暦2053年。桜が見頃を迎えたことを知り、久々に日本に帰ってきた私を待っていたのは、辛い現実だった。
花見終わりに、面白半分で自分のお墓の墓参りをした私は、その墓に自分だけじゃなく、お父さんとお母さんの名も刻まれてるのを目にしてしまった。
その事実に、私は言葉を失い、激しく後悔した。だって私は、自分が楽しむことばっかりに夢中になりすぎて、両親の死を看取れなかったから。
浮遊霊だからとかそんなの関係ない! 娘が親より先に死んだだけでも親不孝なのに、その親の死も看取れないなんて、娘失格だよ!
その日から約100年間、私はずっと自分の墓にもたれかかるように座り続け、とうとう地縛霊と化した。
最初の頃は、この強すぎる霊気のせいで、よく人にみつかって怖がられてたけど、存在理由である楽しみを失ったことで、霊力もそれに比例する形で消失していき、いつの間にか誰にも気付かれなくなっていった。




