友のためにできること
「みんな。帰るのは少し待ってくれ」
ホームルーム後、先生は帰り支度を始めようとする生徒を呼び止めました。理由は岸川さんについてです。
「もう知ってることだとは思うが、今日もゆかりが来ていない。それについて、みんなに話がある」
そう言ってから先生は、岸川さんに何があったのか、彼女との出会いも含めて一から丁寧に説明してくれました。ここで岸川さんが幽霊だと知った人も、少なからずいたと思います。
「そんなことが……」
「そこで、みんなに頼みがある。恩を返せとは言わない。ただ、少しでもゆかりのことを友達だと思っているのなら、彼女を救うために、どうか力を貸してほしい。頼む」
そう言って先生は、懇願するように頭を下げました。
教師が生徒に頭を下げる。人によっては威厳がないとか、情けなくて生徒になめられるとか批判されかねない行為でしたが、先生は躊躇いもなくやりました。
そんな先生の姿を見たイグニス君達の気持ちは……既に決まってました。
「先生。頭を上げてくれよ」
「イグニス……」
「心配せずともよい。皆の答えはとうに決まっておる。そうであろう?」
コハクさんがみんなにそう聞くと、口々に賛同の意を示しました。
(みんな、気持ちは1つだったんだ。みんな、岸川さんのことを想ってくれている……)
僕はみんなが協力してくれる姿勢からそう安心しかけていました。
けど、その中には例外も。
「すみませんが、私は私用がありますので、これで」
席から立ったアレクシアさんは、水を差すようにそう言うと、教室を出ようとしました。
「私用ってなんだ! お前、どうせヒマなんだろ! ちったぁ手伝え!」
「お断りですわ。確かに、私用はありませんが、私に害しか与えない悪霊を救う道理など、私にはありませんわ。オーッホホホホ!」
そう言って、いつもの高笑いをするアレクシアさんに、みんなが怒りを滲ませていると、今度はユリウス君までもが席を立ちました。
「悪いが、僕も辞退させてもらう」
「ユリウス君!?」
「僕はあくまで生徒会役員だ。学校全体の問題ならいざ知らず、彼女個人の問題に付き合う義理はない。何より、僕は彼女が嫌いだ。彼女が成仏なり消滅なりしてくれたら、どれだけありがたいことか」
「てめぇら……!」
イグニス君の怒りがこもった言葉も、2人にとってはどこ吹く風みたい。ユリウス君とアレクシアさんは、まるで他人事のように教室から出て行ってしまい、残った僕らは、非協力的な2人に、大なり小なり不満を抱かずにはいられませんでした。
「あの2人……」
「仕方ないよアクア。みんながみんな彼女が好きというわけではない。この世の全ての生物が誰とでも仲良くなれるなら、今頃戦争や喧嘩なんて起こってないし、こんな学校を作らなくても、みんな平和にやっていけるはずだ」
先生の言うとおりだ。それができないから僕らは不完全で、それができないから完全なれるように努力している。
真理とも言える先生の言葉は、僕らの胸の奥深くを貫きました。




