瓢介の怒り
倉庫に入ってすぐ、早速黒服に見つかった私達だったけど、これは想定内。
私はすかさず、瓢介の両手を掴んで、捕縛してるように見せた。
「お嬢様。どうしてこちらに?」
「ちょうどよかった。あなた。この化け物をどこかに閉じ込めておいてくださる?」
「この男は、生徒会長の……」
「えぇ。界黎学園のブレインの1人、滑川瓢介ですわ。彼を捕まえるために執事を犠牲にしましたが、その分の収穫はあるはずです」
「確かに……」
そう納得する黒服に、私は瓢介の身柄を引き渡した。
「では、頼みましたわ。私はあの2人を少々いたぶってから戻りますので」
「かしこまりました」
黒服からの言葉を聞き、背を向けた私は、内心ホッとする。プラン通り上手くいった。これで何の障害もなく、レミと幸を救出できる、と。
そう思いながら、2、3歩歩いたところで、さっきの黒服にスタンガンを突きつけられた。
「とでも言うと思ったか? 偽物」
完全に騙せたと思ってただけに、尋常じゃないぐらいドキッとする。
「な、何を仰っていますの……? 無礼でしてよ?」
「フッ、まだシラを切るか。執事を犠牲にするほどの男を、お嬢様がどうやって捕まえたとというんだ? それに、だ。お嬢様は学園の頭脳の1人だからとかを考えて攫うほど、賢くはない」
げー! アレクシアの奴、手下にもバカってバレてんじゃん。
「が、もう1人連れてきてくれたことには礼を言おう。いや、お前を含めて2人か」
そう言うと、黒服はトランシーバーで応援を呼び、程なくして倉庫内の黒服全員が続々と集結し、私達を取り囲んだ。
「ごめん。瓢介」
「気にすんな。こればっかりはしゃあねぇよ」
「動くな。大人しくしていろ」
そう言われて、私達は両手を挙げて、素直に従ってる素振りを見せる。
そう。まだ、諦めたわけじゃない。
「でもさ、瓢介。結果オーライじゃない?」
「まぁな。予定とは違うが、集まってくれた」
「何か企んでるようだが、所詮は無駄なことだ。とりあえずお前。正体を現せ。お嬢様のままではやりづらい」
そう言われて、私は意地悪な笑みを浮かべた。
「あれれ? もしかして化けてるとか思ってる?」
「あぁ。違うのか?」
「うん。私は幽霊だからね。お嬢に取り憑くことぐらいしか能がないんだよ」
それを聞いて黒服達はざわついた。
なーるー。異種族だらけの町だから、妖怪の変化とかは予想できたけど、幽霊までいるってことは聞かされてなかったんだ。そこんとこ、部下達にも言っとくべきたったね。バカお嬢。
「そういうわけだから、手荒なマネはしない方がいいよ。バカとはいえ、お嬢様を傷つけたくはないでしょ?」
「くっ、お前……!」
そう悔しさを滲ませつつも、対応に困る黒服達を見て『勝った』と思った私はニコッと笑い、
「では、私はこれで。ご機嫌よう」
と、令嬢らしい挨拶をして、黒服の横を通過していく。
けど、最後まで格好はつかず、スカートやヒールの高い靴に足をとられて、何度もこけそうになる。
「あーもう! ほんっとにこのドレスと靴、走りづらい! こんな格好は、社交界か中世ヨーロッパでしてろっつーの!」
イライラが募った私は、不満を漏らしながら、靴を脱ぎ、ドレスのスカート部分を引きちぎりながら、全力疾走した。
その様子に、呆気にとられていた黒服連中は、急いで私の後を追いかけようとするけど、瓢介がそれを許さない。悪寒に似たプレッシャーで、黒服達の足を止める。
「そっから1歩でも動いてみろ。てめぇらの脳ミソ、俺の妖気で吹っ飛ばしてやる。てめぇらは俺達の後輩となる奴を傷付けたんだ。それ相応の覚悟は、できてんだろうな?」
怒りとも殺気とも言える威圧感に、黒服達はすっかり畏縮してしまって、全く微動だにできない。
その様子を後から見た時に、私も怖いって思ったな。それこそ、瓢介は怒らしちゃダメだって思うぐらいに。




