雪女になった理由
1時間後。オープンテラスのカフェで早めの昼ご飯を食べながら待っていると、レミがやってきた。なんとか時間がとれたレミは、私達に会ってすぐ自己紹介を済ませると、
「……しっかし、しばらく見ない間にずいぶん綺麗になったもんだね。レミ。あんた、高〇クリニックにでも行った?」
「行ってませんよ。多分妖魔になった影響じゃないかと……ていうか、それを言うなら、千尋さんだって、人間だった頃に、散々セクハラしまくってきたあの翔馬さんの面影が、微塵もないでしょ」
「まぁねー」
と、いつの間にか千尋達と和やかに会話をしていた。
この状況に、私はツッコまずにはいられない。
「なに当たり前みたいに馴染んでんのよバカレミ! あんた、なんでここにいんの!? しかも、雪女になってまで!」
「あぁ、そういえば言ってなかったね。実は私、あの世から出る時に閻魔大王に直談判してね。それで雪女になったの。これが意外といい人でね。顔と名前をほとんど変えないまま、不老長寿である妖魔に転生することを許してくれたの」
確かに、面影はあるけど……整形でもしたのかっていうぐらい美人になってるのも否めない。
ただでさえ、私の幸せ全部吸ったのか! っていうぐらい、結婚して子宝に恵まれて幸せな人生を歩んでたくせに、生まれ変わって美貌まで手に入れたっていうの? はぁ……我が妹ながら欲深というか、なんというか……
あれ? だとしたらこいつ、なんで生まれ変わりなんて望んだんだろう? あんだけ幸せになっといて、まだ足りないとか?
その疑問を瓢介が代弁してくれた。
「なぁ、レミっつったか。あんた、なんで現世に舞い戻ってきたんだ? それも人間じゃなくて、妖魔として」
「それは、まぁ……ほぼお姉ちゃんが原因、かな?」
「私!?」
思わぬ形で名指しされ、私は自分を指差して聞き返す。
それに対して、レミは頷くと、何故わざわざ雪女として再誕したのか、その経緯について説明してくれた。
レミは人間らしい順風満帆な生活を送っていたんだけど、私が浮遊霊として世界一周の旅をしていた47歳の時に乳癌を患い、そのままご臨終していたんだって。
「……その時、私、思ったんだ。『あぁ、お姉ちゃんが手招きしてる』って。でも、いざ行ってみたら、お姉ちゃんはそこにはいなかった。閻魔大王に聞いたら『まだ成仏しとらん』って、言われちゃうし」
レミ、なんかごめん。
「ちなみに、その頃、岸川さんは?」
「確か……エアーズロックの上で1年中ゴロゴロしてた気が……」
自分でも情けない回答に、カスミン達から呆れのため息が漏れ、『ダメ姉』の烙印まで押される。
「じゃああんたは、岸川をあの世に送るために雪女に?」
瓢介から出た言葉に、私は慌てふためく。
「ちょっ、冗談じゃないよ! 私、嫌だからね! まだ楽しみきれてないのに、成仏なんかしたくないよ!」
「大丈夫。そんなつもりないから」
「へ? じゃあ、なんで?」
訳がわからずそう尋ねると、レミはフッと笑い、
「浮遊霊と化した出来の悪い姉を持つと、妹は苦労するもんだよ。私が雪女になったのは、成仏する気がないお姉ちゃんを支え続けるためだよ」
と、答えた。
レミは私を尊重してくれてる。それだけで胸にジーンとくるものを感じる。
「なので、皆さん。こんなお姉ちゃんですけど、これからも末永くよろしくお願いします」
そう言ってレミは礼儀正しく頭を下げたけど、コウメイ達からすれば、それは当たり前のことみたいで、二つ返事で了解した。
「ふふっ、相変わらずしっかりしてるね。レミ」
「当然ですよ。こう見えても私、お姉ちゃんと違って、社会人経験ありますから」
「ちょっとレミ! 一言多い!」
まったく、昔っからこいつは、そうやって私のことをからかうんだから。
でも、なんだか嬉しいなぁ。レミとまたこうして会えるなんて思っても見なかったから……
妖魔の容姿は、性根が悪ければ悪いほど、美しくなる傾向にあります。
故に、姉をからかって楽しんでいる気があるレミの容姿が、昔より美しくなったと考えられます。




