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スランプの原因

 その頃、イグニスはというと、上手くいかない現状に苛立ちながら、投げ込みを続けていた。だ

 けど、そんな心理状態じゃ、どんなに投げても進歩なんかするはずがない。ただただ体力を無駄に消耗しているだけだった。


「はぁ、はぁ…………くそっ! なんでこう思った通りにいかねぇんだよ! 今年しか、今年しかもうチャンスがねぇってのに……! チックショーッ!」

 そう言いながら、イグニスはヤケになったのか、無茶苦茶なフォームで球を投げようとした。そのせいで体が悲鳴を上げてることにも気付かずに……


 だから私は、ソーッとあいつの背後に近付いていって、耳元かつ恨めしさ全開で、こう呟いてやったの。


「肩ヲ壊シテ野球人生終ワラセタイ奴ハ、ダァレェダァァァ?」


「どわっ!」

 突然のことに、心臓が飛び出るほどびっくりしたイグニスはその場で飛び跳ね、腰を抜かした。


「びっくりした?」


「お、おどかすなよ。ゆかり! 幽霊のお前がお化けドッキリとか、シャレになんねぇよっ!」


「あはは。ごめんごめん。でも、おかげで余計な力が抜けたでしょ?」

 私の言葉に、理解が追いついてないのか、イグニスはキョトンとする。


「あんたのスランプの原因は、必死になりすぎて力んだことによるもの。今年しかないっていう焦りのせいで、頑張りが全部空回りしちゃってんの。そんなんじゃ、ボークで余計な失点だってするし、ヘタすりゃマジで肩壊すよ」

 そう言われて、イグニスはようやドッキリの真意とスランプの正体がわかったらしく、ハッとした。


「熱くなんなとは言わないよ。闘志も勝負に対する熱意も、ピッチャーにとって大事な要素だと思うから。けどね、熱くなりすぎたら、自分も周りも見えなくなっちゃう。だからさ、少しは落ち着こうよ。焦ったって、いいことなんか何にもないよ」


「……そうだよな。そのせいで結果を残せなきゃ、本末転倒だ。そんなの、あいつが喜ぶはずがねぇ」

 そう言って立ち上がると、イグニスは深呼吸して心を落ち着かせ、自分のフォームを確認するように投球モーションに入り、1球投げた。

 イグニスの手から離れた白球は、空気を切り裂く音を立てながら直進し、目の前のピッチングネットのド真ん中に突き刺さる。誰が見てもわかるほど完璧なピッチングだった。


「ナイスボール」


「マジか……今の、前以上だったぞ!?」


「うん。軽く150㎞は超えてるね。それに、球威もノビも抜群にある」

 ただ体の使い方がなってなかっただけで、今までの努力は無駄じゃなかった。私からの評価でそれを知ったイグニスは、感激のうなり声を上げると、


「よっしゃーっ! 完・全・復・活だーっ! これで甲子園いけるぞーっ!」

 って、子供みたい大喜びした。その気持ちは競技は違えど、同じピッチャーとしてわかるよ。


 だからこそ、喜ぶのはまだ早い。もういっちょ苦言を呈させてもらうよ。


「いや、今のままじゃ、地区予選準優勝が関の山だろうね」

 私から冷静にそう言われたことで、イグニスは軽くズッコケ、疑問をぶつけてきた。いやいや、なんでそれで行けると思ったの? 私からすればそっちの方が疑問だよ。


 だってさ、考えてもみてよ。今のご時世、体格的に諸外国に劣る日本の高校生でさえ、160㎞近くの球を投げれるんだよ? いくらイグニスのストレートが進化したからって、他の球種がションべんカーブとへっぽこスライダーだけじゃ、ボコボコにやられるって。甲子園そんなに甘くないよ。


 そのことをイグニスの心にグサリとくるように言ってやったら、本人的には痛いところを突かれたらしく、流石にちょっぴり悄げていた。


 でも、大丈夫。それについてもちゃんと考えがあるよ。驚異的な握力を持つイグニスなら多分、これを使いこなせると思う。ファイヤーストレートに匹敵する新たな決め球を…………

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