諦めを打破する糸口
コウメイ達が待つベンチに戻った私は、3人と一緒に、直近の試合のスコアブックを見ながら、最近のイグニスについて、ランドの口から話してもらった。
「……前は、もっといいピッチャーだったんだ。変化球は、一向に上達しなかったが、148㎞のノビのあるストレートだけで、強豪と渡り合えるぐらいに、な。だが、3ヶ月ぐらい前から何かに焦り出し、次第に努力が空回りするようになってしまった」
「その結果、スランプに?」
「あぁ。コントロールは悪くなり、唯一の武器だったストレートもあのザマだ。それでも、まだ打ってくれれば大目に見てやれるが、ここ3回の練習試合の打率は1割ちょい。ホームランは無いくせに、三振ばっかりしている。エースで4番がこれでは、コールド負けになるのも頷けるというものだ」
ランドの話を聞いた私は、スコアブックを閉じて、深いため息をついた。
「こりゃ、戦力外通告もんだね」
「だろう? が、かといって、うちのピッチャーは、あいつ以外、先発を任せられるほどのスタミナを持ってる奴が1人もいない。そいつらを起用したところで、いずれはイグニスを登板させることになる。つまり、あいつに頼るしかうちの野球部には道がない、ということだ」
「だから、どうしてもイグニス君を元に戻そうと……」
「そういうことだ。まったく、困ったエースだろ?」
呆れと疲れを覗かせたランドの顔を見て、コウメイ達の中で、諦めムードが出始める。それは、私も同じだった。もう少し気付くのが遅かったら、挫折してたと思う。
けど、そうなる前に、スランプ脱却の糸口を見つけることができた。ランドとイグニスが言っていた言葉のおかげでね。
「ねぇ、ランド。1つだけ聞いてもいい?」
「ん? 何だ?」
「イグニスの握力ってどんぐらい?」
「そうだな……確か、200は優に超えていたはずだが……」
そう言い終える手前で、ランドは私の意図を察してくれたみたい。
「そういうことか」
「そういうこと。ありがとねランド。んじゃ!」
そう言って私は、いまだに質問の意味を理解できていないカスミン達を残して、足早にブルペンへと向かった。
あいつのスランプを打破する打開策を引っ提げて、ね。




