約束のために
「サンキュ、イグニス。あいつを説得できたのは、あんたのおかげだよ」
「礼を言うのは俺の方だ。ありがとよ。恩に着る」
そう言ってイグニスは、頭を下げた。
「けど、よく受けたね。普通なら『大きなお世話だ!』って言って、断ってもおかしくないのに」
カスミンが素直な意見としてそう言うと、イグニスは決意を滲ませた。
「……どうしても、今年こそは行かなきゃなんねぇから、な」
「最後の夏だから?」
「それもだけど、1年の時に約束したんだ。あいつと。『必ず甲子園に連れて行く』って」
「あいつって、アクアさん?」
コウメイがそう聞くと、イグニスは頷き、さっきよりも深く頭を下げた。
「頼むゆかり達! 俺の力になってくれっ! 俺はあいつを甲子園に連れてって、想いを伝えたいんだ! だから!」
なーるー。そういうことか。そういうことなら、俄然燃えてきた。
「そういうことなら喜んで! 水泳部のエースと野球部のエース。2人のエースが恋人同士になるなんて、最っ高に素敵じゃん! そう思わない? コウメイ、カスミン、ミュミュ」
そう聞くと、3人も同感だった。
「おめぇら……」
「さ、いくよ。イグニス。甲子園に向けて、プレイボールだよ!」
「……おう!」
そう言うイグニスの目には、気合いと闘志が宿っていた。いいね。その感じ。
あとは、私達が支えるだけ……ん? ちょっと待って……
「…………あ。あーっ!」
「どうしたの? ゆかり。そんな大っきい声出して」
「今、思い出した! 私、幽霊で筋肉が無いから、この状態じゃ全力で打てない」
その言葉にイグニス達はズッコケた。
前にも触れたと思うけど、今の私は先生達のおかげで、物を持ったり、跳んだり、走ったりすることができる。だけど、生きてる人間と違って筋肉が無い分、肉体があった頃の半分以下の力しか出せなくなってしまっている。
(しまったぁ、どうしよう……この際、憑依できるんなら誰でもいいんだけど……)
前にカスミンに憑依したことはあったけど、あれも喧嘩の反動で、カスミンの体を相当傷付けたしな……そう考えると、シチュエーションに合った人に憑依した方が……でも、部員が帰ったこのタイミングで、そんな都合のいいことが…………
なんて思ってると、
「ぜぇ……ぜぇ……キャプテーン、3周走ってきましたー……」
隼太が息を切らしながらベンチに帰ってきた。
あ、いた。都合のいい時に都合のいい奴が。私は迷わず即決した…………




