アイドルの素顔
「ミュミュさん。どうしてこんなことを?」
コウメイがそう尋ねると、ミュミュは俯き、声を発した。
けど、その声や口調は、今まで私達の前で見せたかわいらしいアイドルのそれとはまるで違っていた。
「…………ストレスだったの」
「ストレスって……仕事の?」
コウメイの問いに、ミュミュは首を縦に振り、視線を逸らす。
「あたしのあのキャラってさ、事務所が決めたキャラなんだ。ほんとのあたしは、語尾に『ニャ』なんてつけないし、可愛げもない。もちろん、アイドルの仕事は好きだよ。やってて楽しいし、続けていきたいとも思ってる。けど、マネージャーや社長から『プライベートでもそのキャラでいろ』って言われて、以来ずっと……このキャラのままでいるのって、ものっすごく疲れるし、何より、このままじゃ、本当の自分も見失いそうになる……だから……」
「その恐怖とストレスから逃れるために、万引きしたって?」
「うん……最初は軽い気持ちだったけど、いつしか、ね」
そう答えたのを聞いて、私はコウメイの横に移動し、改めてミュミュと向き合った。
「事情はわかった……けどね、ミュミュ。そんなんで手に入れたどら焼き食べたって、うまくなかったでしょ? 後ろめたさとか色々あって」
「う、うん……」
「だよね。てことは、何の解決にもなってないし、何の得もしていない。和菓子屋のおじさん達はせっかく苦労して作った商品を盗まれて大損するし、盗ったあんたも得していない。わかる? 結局あんたのやったことは、みんなを損させただけで、無駄なことだったの」
私が正論をぶつけると、ミュミュは強い口調で言い返してきた。
「じゃあ……じゃあどうすればよかったのっ!? 仕事を辞めるまで、ずっと苦しみ続けろっていうの!?」
「んなことは言ってない! そりゃ、嫌なもんから逃げたいって気持ちはわかるよ。でも、私と違って、あんたは逃げれる! どうしても嫌なら、逃げりゃいいじゃない! 私はそれでもいいと思う」
「そ、それは……!」
そう言ってミュミュは、拳を強く握り締めた。
「わかってる。それでも、逃げたくないんでしょ? アイドルって仕事が好きだから。ならせめて、私達の前だけでいいから素に戻りなよ」
私からの思わぬ提案に、ミュミュは一瞬キョトンとした。
「素になって相談しに来なよ。だーいじょうぶ。チクりゃしないから」
「いいの?」
「もっちろん! どんな悩みや愚痴だって聞いてあげるし、可能な限りアドバイスもするよ。なんたって私、こう見えて長生きしてるから」
「死んでるけどね」
「うっさいなぁ。コウメイ」
そのやりとりを見て、ミュミュはポカンとしていた。あ、そういや、ミュミュにはまだ私が霊ってこと言ってなかったっけ。
「まぁ、それはともかくとして、そういうわけだからさ、ミュミュ。お互い素でいよう。友達ならそうあるべきだし、今知ったばっかだけど、素のあんたの方が私も好きだからさ」
そう言われてミュミュは、驚きつつも、救われたような顔をした。素を曝け出せる友達ができたことで、ようやく肩の荷が下りたからかな。
その後、私のことを明かし、晴れて親友同士になった私達が、友達としてまず最初にやったこと。それは、購買と商店街への謝罪&弁償行脚。ま、流石にこれはしないわけにはいかないよね。
店主のおじさん達はミュミュや私達から話を聞いて、最初は信じられない様子だったけど、誠心誠意込めた土下座をしたミュミュから動機を聞いて理解し、弁償を含めて全部水に流してくれた。
おまけに和菓子屋さんからは、仲直りの印ってことで、どら焼きまで奢ってもらった。ほんとおじさん達って、揃いも揃って優しくて、バカみたいにお人好しだなぁ。
てなわけで、どら焼きを有難く受け取った私達は帰り道を歩きながら、1人1個ずつそれを手に取り、親友の証という名目で、どら焼きで乾杯した。
そんな私達を優しく見守るように、どら焼きみたいに真ん丸な夕日が、私達を赤々と照らしていた………………




