ハーフアラクネの令嬢
残るはアレクシアただ1人。町で見かけたという情報がない以上、まだこの建物のどこかにいる可能性が高い。とりあえずさっきはいないと思ってたけど、念の為メインホールを隅から隅まで注意深く見ていった。
すると、舞台袖の方から薄らと伸びている影が。もしかしてと思った私達は、ステージをよじ登り、伸びていた影を頼りに、向かって右側の舞台袖の方を向いた。
思った通り、アレクシアはそこにいた。といっても、私達がよく知る高慢ちきな姿ではなく、背中から6本の蜘蛛の足を生やし、お尻も蜘蛛の腹部分と化した半分化け物みたいな姿で。
変わり果てた自分の姿を受け入れたくないのか、それとも色んなショックが重なったからなのか、それまで自信に満ち溢れていた体は、見る影もないぐらい小さく蹲ってガタガタと震えている。
あいつらしからぬその姿に、哀れに思った私は、アレクシアを刺激しないようにそっと声をかけた。
「アレクシア?」
私の声が耳に届いたアレクシアはピクッと反応し、一瞬正気を取り戻した。けど、私達の顔を見るや否や、いきなり取り乱し、ジタバタと暴れ出した。
千尋がすぐに鎮静剤を打ってくれたから、パニックも震えも収まって、一大事にならなくて済んだけど、少しでも遅かったら、私はともかく幸達が餌食になってたかもしれない。そう思うとゾッとする。
「大丈夫かい? アレクシア」
「え、えぇ……田中先生、私にいったい何を?」
「魔界から送ってもらったアラクネ専用の鎮静剤だよ。これを打てば、丸1日、暴走せずに済む。もっとも、あくまで応急処置だからね。あとでルドガーの手を借りて完全に封じてもらいな」
「では、そうなれば、この忌々しい体も!?」
アレクシアは期待感たっぷりでそう言うけど、そんなに上手くいくわけがない。
先生はエルフであって神様じゃない。私の有り余る霊力やアラクネの血の暴走を封じ込めることはできるけど、アラクネの血を完全に消し去って元の人間に戻すなんて、生物の有り様を変えるマネはできない。アラクネの血の強さからいっても、せいぜい理性と自我を保つのが精一杯なの。
それを先生の口から聞かされたアレクシアは落胆した。
「やっぱ、ショックなんだ」
「当然ですわ。今まで蔑んできた化け物になってしまったのですから……こんな姿、誰にも見られたくありませんでしたわ」
それが取り乱した原因なんだ。まぁ、こいつのプライドを考えるとそうだよね。
「どうして? どうして私ばかりがこんな目に……?」
「その反応からすると、知ってるようだね。アラクネと、父親の最後を」
「それだけではありませんわ」
その言葉に私達全員が疑問を抱くと、アレクシアは今日まで何があったのか話してくれた。




