極悪令嬢の言い分
西暦2157年9月27日。体育祭の代休明けとなったこの日、私達はいつものように、始業のチャイムが鳴るまで雑談をしていた。
まさに平穏そのものともいえる光景。けれど、和気藹々としたその空気も、ムードクラッシャーであり、トラブルメーカーでもあるあいつの登場によって、全部ぶち壊しになる。
「オーホホホ! 皆さん。ご機嫌よう」
誰よりも機嫌良く挨拶してきたバカお嬢がそれだ。
体育祭での一件とこれまでの行いに、こいつの神経と面の皮の厚さを疑うクラス全体から、挨拶の代わりに冷ややかな視線が向けられる。
「『ご機嫌よう』じゃないっつーの! あんた、ズル休みしてあんなとこにいたなんて、いったい何様のつもり!?」
「まぁ、お下品な言葉遣い。はしたないですわ」
見下したような言い方にカチンときた私は、1発ぶん殴ってやろうかと思ったけど、平和主義者のコウメイに止められてしまう。
「して、アレクシアよ。何故、あのようなところにいた?」
「もちろん、体育祭なんて幼稚で野蛮な行事に参加したくないからですわ。ただ、それをやるのが異種族となれば、話は別。あなた達異種族が無様に競技に打ち込み、砂と汗にまみれながら必死になる。これほど見ていて楽しい見世物はありませんわ」
「つまりは、高みの見物をしていた、というわけか」
コハクが確かめるようにそう言うと、アレクシアは当然といった感じで肯定した。
「あんた、前から思ってたけど、性格最っ低!」
「オーッホッホッホ! 俗物な上、化け物でもあるあなた方に言われたくありませんわ。そもそも、私が何故こんな学校に通っているか、わかります?」
「知るか!」
「でしょうね。ですが、答えは簡単。至高の種族・人間の富裕層であるこの私が、あなた達異種族という劣等種を見下すという道楽に興じるためですわ。でなければ、誰が好き好んでこんなくだらない学校に通うものですか」
アレクシアの上から目線発言に、全員が怒りを募らせる。
「……クネリスさん。そういうつもりで通ってるんなら、転校した方がいいよ。でないと、いつか痛い目に遭うよ」
「ご心配には及びませんわ。これまでもポケットマネーやボディーガードの力で、何度も窮地を乗り越えてきましたから。ですので、あなたの忠告を聞くつもりはありませんわ。はっきり言って、大きなお世話でしてよ」
そう言われたことで、怒りと呆れがピークに達したコウメイは、それ以上何も言わなかった。あーぁ。言われてる内が華だっていうのに。バカだねアレクシア。
と、こっちが思ったところで、バカお嬢にはノーダメージ。みんなをイラつかせるだけイラつかせて、火に油を注ぎまくったアレクシアは、お決まりの高笑いをして席に着いた。
(こいつ、幸との一件があったってのに、まだ懲りてないのか)
そう思うと、余計に腸が煮えくりかえってくる。私でさえ、そう思うぐらいだから、血の気の多いクラスメートの中には、こいつが地獄に落ちることを願ってたかもしれない。
その願いが多分、天に届いたんだと思う。
1時間目の授業中。突然、おなかに激痛が走ったアレクシアは、教室を出たっきり帰ってこなかった。先生と千尋いわく、あのまま体調不良で早退したらしい。
それを聞いて、『罰が当たった。ざまぁみろ』って喜んでたお気楽な奴もいたけど、そう単純な話じゃない気がする。だって、あのアレクシアだよ? 異種族を見下すことを生き甲斐にしてるあいつが、腹痛ごときでそれを放棄するなんて、とてもじゃないけど考えにくい。あいつだったら、たとえ地を這ってでもその道楽に興じるはずだよ。
なのに帰ったってことは、何か良からぬことを企んでるかもしれない。私達は言いようのない不安を感じていた。




