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第39話 灰色の魔女

 王座に座したその男は、頭を抱えていた。


 妻に続き、娘までも。

 多少奔放なところはあったが、素直で真面目な娘だった。ヴィルマに裏切られ、国民から後ろ指をさされ、それでもこの子は守っていこうと心に誓っていた。


 その娘に黒の判定が出て、マティアスは途方に暮れた。

 しかし魔女を擁護する事は出来ない。ヴィルマの時の事もある。ここでまた国が魔女を擁護すれば、国民は黙ってはいないだろう。

 王女の処刑を、王家は受け入れるしかなかった。




「大丈夫ですか、あなた」


 隣に寄り添うクレアが、心配そうにマティアスの顔を覗き込む。


「ああ……」


 処刑の場を混乱させ、逃げおおせた娘。

 軍が捜索をしてはいるが、一度取り逃がした以上、捕まえる事は困難だろう。


「父上!」


 広間の扉が開き、朗々とした声が響いた。

 ノエルはマントをはためかせ、マティアスの前まで進み出ると、片膝をつき頭を垂れた。


「姉上――ルエラ・リムの捜索は、ここまでになさりませんか」


 マティアスはゆっくりと顔を上げ、ノエルを見下ろす。


「――つまりお前は、魔女を見逃せと?」

「ソルド国に最後通告を出された今、軍備を整える事が先決かと。

 かつて大量虐殺を犯したというヴィルマとは違い、ルエラは何も罪を犯しておりません。強いて挙げるとすれば、逃走時の公共の場の破壊程度。彼女に、国や他人に仇なす意思があると、父上はお思いですか」


 ノエルは、王座に座る義父をまっすぐに見上げた。

 その顔に迷いはなく、確固たる意志があった。


 一時の沈黙が、その場に満ちる。




 やがて、マティアスが低い唸るような声でその沈黙を破った。


「私も、正直なところ、戸惑っておる。あれは、私の知る魔女とは違う行動を取った。魔女が、人間のために自らの身を危険に晒すなどという話も、自らの立場を捨てて人間を助けるなどという話も、これまでに聞いた事が無い。

 しかし、このまま捨て置く訳にもいくまい。ハブナ王女はどうした? 彼女は、ブロー大尉……変装したあれと、行動を共にしていただろう。彼らが宿泊していた宿も、出払った後だったという。万一、彼女が騙されて連れ去られたのであれば、国際問題だ」

「ハブナ王女ならば、心配無いでしょう」


 ノエルは微笑む。


「彼女には、人の本質を見抜く力がおありです。もしハブナ王女がご自身の意思でルエラと共にいるならば、ルエラは彼女に危害を加える気はないのでしょう」

「……ふむ」


 マティアスは、深慮するようにノエルを見やる。

 空色の瞳を見つめ返し、ノエルは続けた。


「私の進言であれば、父上も動きやすいでしょう。齢十四の、平民育ちの王子ならば、多少の甘い態度も納得する者は多いでしょう?」


 マティアスは目を瞬く。そして、フッと微笑んだ。


「……政には向かない性格かと思っていたが、お前もやはり、カッセル子爵の孫だな」

「祖父と重ねられるのは、あまり喜ばしく思えませんが……」

「そう言ってやるな。お前のお爺様だろう。

 何、含みのあっての言葉ではない。お前も十分、国王としての器がありそうだという事だ」


 ノエルは少し驚いたように目を見開き、それから深く叩頭した。


「ありがとうございます……!」






 その日の内に捜索は打ち切られ、マティアス・リム国王は国内全土へと声明を発した。


 ――ルエラ・リム王女を、我が国から永久追放とする、と。






* * *






 陽が、西へと傾いて行く。

 夕陽に赤く染まるリム城を、ルエラは林の植わる小高い丘から眺めていた。


 ブルザ達の協力により無事、首都を抜け出し、ルメット准将とも合流する事が出来た。一先ずは難を逃れたが、この先は更なる困難が待ち受けているだろう。


「ルエラーっ。出発出来そう?」


 木々の合間から、ひょこっと金髪の頭がのぞく。


「ああ、問題ない」


 自ら明かした、自身の正体。もう、ルエラ・リムにも、リン・ブローにも、帰る場所は無くなってしまった。命を狙われ、追われる身。

 それでも彼らと一緒なら、この先、何があっても乗り越えられるだろう。かけがえの無い、大切な仲間達と一緒なら。


 ルエラは城へと背を向けると、仲間達の輪の中へと駆けて行った。











 北歴一七二〇年一月十二日、ルエラ・リム、処刑場より逃亡。時の国王マティアス、追放令を下す。

 同月十六日、ソルド国より要求拒否の返答あり。――北部国境にて、戦火燃ゆる。

-Fin-

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